1:『カルキ 2898-AD』エンタメ全部盛りインド映画!
日本円にしてなんと110億円の製作費をかけた、「インド史上最⼤規模のSFスペクタクル・アクション」と銘打たれた映画で、内容はもはや映画ファンが好きなもの全部盛りエンタメといえるものでした。
何しろ、広大な砂漠は『DUNE/デューン 砂の惑星』を、独裁者が牛耳るディストピアな世界観とダイナミックなアクションは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を、THE・インド映画な歌と踊りや映像からあふれる力強さは『RRR』『バーフバリ』を彷彿(ほうふつ)とさせるため、それぞれが好きな人にはもうたまらないですし、映画に詳しくない人もバブリーな映像と怒涛(どとう)の展開が押し寄せる様に圧倒されるのではないでしょうか。 物語の舞台は、西暦2898年、空に浮かぶ巨大要塞に支配されている地球。「無敗の戦⼠でありながら⾃堕落な“一匹狼の賞金稼ぎ”のバイラヴァ」「宇宙の悪を滅ぼす“運命の子”を身ごもり莫大な懸賞金がかけられた奴隷のスマティ」「⼒を宿す宝⽯を取り戻して復活を遂げた“守る男”のアシュヴァッターマン」というメインの3人と、そのほかのキャラクターの運命が交錯し、特殊部隊と反乱軍の戦いも幕を開けます。 構図は一見すると複雑ですが、アクションそのもので物語を語る場面も多いため、混乱せずに見られるでしょう。そのおかげで予備知識なくても楽しめますが、古代インド叙事詩「マハーバーラタ」が下敷きにあるので、そちらのことを軽くでもいいので知っておくとより楽しめるはず。
特にアシュヴァッターマンは、スマートフォンゲーム「Fate/GrandOrder」にも登場する神の武器を使う男で、下世話な言い方をすれば「ものすごい強いおじいちゃん」としての魅力もふんだんでした。クラクラするほどのアクションのつるべ打ちとスケール感は見終わればきっと大満足、そして続編が待ち遠しくなるはずです。 ちなみに、2D版:168分、IMAX版:180分と、上映形態により本編尺が異なっています。公式Webサイトによると「製作者より提供されたマスター素材を使用しておりますため、製作者の意図した仕様となります。 予めご了承くださいませ」とのこと。お近くにIMAX上映の劇場がある人は、そちらを選んでみるのもいいでしょう。
2:『ビーキーパー』ステイサムが悪をちぎっては投げ捨てる!
さまざまなアクション映画で強過ぎる姿を見せ、愛され続けるジェイソン・ステイサムの主演映画であり、1年に数回は見たい「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」です。2024年初頭に公開された『エクスペンダブルズ ニューブラッド』も実質的にステイサム主演といえる内容でしたが、2025年もステイサム成分たっぷりの映画で年明けができるのはなんとも縁起がいいものです。
あらすじは、アメリカの片田舎で“ビーキーパー(養蜂家)”として静かな隠遁(いんとん)生活を送る男が、恩人である老婦人がフィッシング詐欺にかかり全財産をだまし取られた末に自ら命を絶ったため、怒りに燃え復讐するというシンプルなもの。 初っ端から詐欺グループのアジトをビルごと爆破するので「そんな派手な方法から始まっていいの?」と心配になるほどですが……追手の武装集団を片っ端からちぎっては投げ、ガソリンスタンドでは壮絶な銃撃戦、オフィスビル内での対集団戦など、手をかえ品をかえのエスカレートするリベンジアクションを見せてくれるので、満足度はきっと高いことでしょう。 高齢者をターゲットにした実際の犯罪に憤った経験のある人は多いでしょうが、現実では許されるはずもない「直接出向いて暴力で粛清」ができるのも、フィクションである映画の役割でしょう。それでいて、主人公を追う女性刑事の立場から、法律の意義などを訴えかける場面もあり、一定のモラルを忘れない、冷静な視点が込められていることも美点でした。 主人公が養蜂家のため「蜂の群れ」や「女王蜂」といった例え方で世の中の仕組みを表現する(納得できるかどうかはともかく)様も魅力的です。『トレーニング デイ』や『フューリー』など、剛腕で渋めのアクション映画で名をはせるデヴィッド・エアー監督と、『リベリオン』『ソルト』などの脚本で知られるカート・ウィマーのコンビの相性の良さも示した、気軽にスカッと楽しむには超最適な1本といえます。
3:『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』48歳独身女性の青春ドラマ
小説を原作としたジョージア・スイス合作の映画であり、48歳の独身女性を主人公にした青春ドラマ。シネマコンプレックスで上映している派手なアクション大作とは対極にある落ち着いた作風を、ミニシアターでゆったりと堪能したい人におすすめできる作品でした。
物語の発端は、ジョージアの小さな村で日用品展を営み暮らす寡黙な女性が、ブラックベリー摘みの最中に崖から足を踏み外したことで奇妙な「臨死体験」をして、その直後に突発的に人生で初めて男性と性的な関係を持つ……というもの。その後は淡々と描かれる日常の中で、さまざまなイヤミや、勝手なことを言われてしまいます。 例えば、「更年期障害が始まったの? 男を知らないからだね」「独り身なのが不憫(ふびん)」「お父さんとお兄さんはやせていたのに、なぜあなただけタライみたいなお尻なの?」といったように。それらに対して主人公は憤るというよりは、半ばあきれるように「私は愛という⾔葉にだまされたりはしない。1人だけど⽣きていける」などと返したりします。
その言動はやや強がりのようにも思える一方で、主人公は心から「ひとり」であることが心地良く、それを本当に望んでいるようにも見えます。例えば、バカンスの計画を問われて、「私のバカンスは幸せな⽼後」と⾔い、それはテラス付きの⼩さな家を建て、読書や英語を勉強して、⼭の霧や庭の花など周りにあふれる美しいものの写真を撮る……と。なるほど、彼女は結婚をせずとも、自分の趣味と好きなものがあれば、それで幸福なのだという説得力があるのです。 結婚が絶対の幸せではない、という価値観も尊重される今の世の中において、「今まで結婚したいと思ったことは⼀度もない」という毅然(きぜん)とした態度を保ちながら、つつましく独身生活を楽しんでいる主人公の価値観や生き様に、共感できる人は多いでしょう。劇中の会話では亡くなった兄と⽗との確執が彼女の価値観に大きく影響を与えたことも示唆されている一方、主人公は自らの意思で今の生き方を選んでいるように見えます。
とはいえ、主人公が性的な関係を持ったのは既婚者で、それは完全に不倫。とても褒められたものではありません。それが彼女自身のアイデンティティーやセクシュアリティーに改めて気付くきっかけになったとは言えるものの、男性との危険な関係を続けたことで、未来の選択に迷うことになるのですが……その後には意外な展開が待っており、とても深い余韻を残してくれました。 なかなか毒っ気が強い内容でPG12指定がされており、性的な場面や会話劇もふんだんにあるほか、ヌードもはっきりと映るのでご注意を。気の置けない友達と見るのはもちろんいいですが、1人で見てみるのもおすすめです。
それでこそ、孤独もまた楽しんでいる主人公の気持ちに同調できるでしょうし、年末年始で少し寂しさを感じることがあったとしても、前向きに生きるヒントが得られるのかもしれないのですから。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。