毎年、人気の海外旅行先ランキングの上位に挙がる台湾。地元グルメや歴史的建造物に親しめるのはもちろん、交通の便がよく、観光しやすいのもポイントです。その中でも利用しやすい交通機関として鉄道がありますが、台湾で使われている電車は、実に3/4が日本製だと言われています。今回はその意外な理由を紹介します。
橋梁やトンネルのサイズが日本と同じ
実は台湾の鉄道の規格は日本と同じものが多く、トンネルもその代表的存在です。
日本統治時代、特に台湾の西部は急速な発展が予想されたため、将来の輸送量増加にも耐えられるよう、蒸機機関車や貨車などは、小型車両の軽便鉄道ではなく、逓信省(ていしんしょう)鉄道局と同じ大型のものが用意されました。そのため、レールの規格はもちろんのこと、橋梁(きょうりょう)やトンネルのサイズまで、JR各社とほぼ同じになります。
それは現在でも変わっておらず、日本国内の電車をベースとしたものが導入しやすい環境になっているのです。
ダイヤの乱れを防げる
戦後長らく、中国と緊張関係が続いた台湾。鉄道も当時は軍事施設の1つであり、兵員や戦車の輸送が重視されていました。鉄道が一般的なものになったのは、戒厳令が解除され、台湾国内の旅行が自由化された1990年代以降です。しかし、本数が少ない上に、いつも遅れてダイヤ通りに走らない鉄道は、日常的には利用しにくい交通機関でした。
その後、台湾の急速な近代化とともに、台北や高雄といった大都市への人口が集中すると、郊外に暮らす人が増え、通勤通学の足として、鉄道が注目されるようになりました。
台湾国鉄では急速な利用客増加に対応するために、電化や複線化を推進。さらに、日本のJR各社を参考としたパターンダイヤ(主な時間帯で列車が規則通りに走る。時刻表なしで乗れる)の導入を可能とすべく、高加減速のしやすい日本の電車を輸入しました。そのおかげで列車が遅延した時に回復運転することが容易となり、ダイヤの乱れを防ぐことが可能となったわけです。
車両用意期間を1/2に短縮、コスト削減も
台湾では、このような大きな転換により、多くの電車が必要となりました。JR各社の電車を設計のベースにしたことで、通常、車両の設計から納入開始まで1年半から2年かかるところを、8カ月にまで短縮。また、走行機器を中心にJR各社や大手私鉄が採用している量産品を使用することで、コスト削減にもつながっています。
アフターサービスで、台湾も日本も得をする
日本製の車両に使われている走行機器は、東芝や日立といった日本の電機メーカーのものが採用されています。日本と台湾は地理的にも近いため、故障時には、欧米の電機メーカーと比べ短期間でのアフターサービスが可能なのです。
また、日本の鉄道車両メーカーや電機メーカー側からみると、アフターサービスを提供することで、車両納入時だけではなく、継続した収入が期待できます。
このように数多くの電車が走る台湾では、特急形電車は816両全て、通勤形電車は1424両中504両が日本国内、および日本メーカーの委託により台湾で生産されています。残りの920両は韓国製となりますが、東芝製の走行機器が使われているため、日本製の車両と非常に似通っています。このほか、支線で使われている66両の気動車は、全て日本から輸入したものです。
全ての車両を合わせると、3/4の車両が日本製となるため、台湾の鉄道ファンからは、「JR台湾」とも呼ばれています。
現在、東芝府中工場では、台湾国鉄向けに特急列車「自強号」で使用するための新型電気機関車、E500型を製作しています。完成した車両は台湾まで輸送され、整備が完了したものから順次、老朽化した現行のものと取り換えられて運用に入っています。台湾を旅行した時には、新型の赤い電気機関車の前で写真を撮ると記念になるかもしれませんね。
この記事の筆者:小林 小玉 プロフィール
台湾在住のライター、翻訳家。オーストラリア留学で培った英語力を生かし、大手百貨店や外資系企業でインフォメーション業務に携わったのち、出版業界に転職。旅行ガイドブックを中心に取材、執筆を続け、中国語留学を経て台湾に移住。2022年から通訳、翻訳家、コーディネーターとしても活動している。