SELは大きく下記の5つの力を育む教育アプローチとして、世界では全校に導入している国も出てきている。
・自分への気付きを深める力(自己理解力)
・自分の感情とうまく付き合う力(自己管理力)
・他者への気付きを深める力(共感力)
・他者と良好な関係を築く対人関係力(社会スキル)
・責任ある意思決定ができる力(意思決定力)
さまざまな課題を抱える学校に対して、SELを軸に伴走支援やコーディネートを行っているのがrokuyouの下向依梨さんだ。
SELは子どもだけに向けたアプローチではなく、海外ではビジネスや福祉の領域での活用は一般化しており、日本でも企業研修で用いるケースが出てきている。下向さんに大人が実践する意義とその上でのポイントを聞いた。

SELは何歳からでも効果がある
SELはいつからスタートしても遅過ぎることはない。大人になってからも、SELによって社会スキルと感情スキルは高めることができるのだ。そのため、「まずはお父さんお母さんから体現しはじめてみてほしい」と下向さんは言う。「SELでは、気持ちの揺れ動きを自覚することが重要です。この能力があると、子どもの複雑な感情や矛盾を含んだ表現を理解しやすくなり、内省を深めるためのサポートを効果的に行うことができるからです」
また、オーストラリアのシドニーにあるニューサウスウェールズ大学の研究では、大人のソーシャルエモーショナルスキルが高まると、子どもへの良質な関わりが増加し、その結果、子どもの学力が向上するという結果が出ているという。SELは忍耐力や協調性など非認知能力(EQ)を高める効果が期待されているが、IQへの影響も期待できるということだ。
「向上した社会スキルと情動スキルは家庭の中だけでなく、プロフェッショナルスキルにもつながります。例えば、ゴールを立ててそこに向かって着実に歩んでいく力や困難があっても諦めずに柔軟に進めていく力は、SELのアプローチの中で育まれていく。つまり、大人にとってSELは仕事に打ち込んでいく力にもつながるのです」(下向さん)
「自分」に気付くことがスタートライン
「大人であっても自身の気持ちに気付くことがSELの出発点です」と下向さんは言う。その際に重要なのは「ノンジャッジメンタル」の姿勢だ。これは湧き出る感情をありのままに受け入れることを意味する。例えば、旅行の予定があったときに、「そのために仕事の休みを調整したし」「1カ月前から宿や交通機関を予約したんだから」「ずっと前から行きたかった場所だし」といった思考が挟まれると、「実は気が乗らなくなっている」という自身の感情に気付きづらくなる。自分の感情に対して善し悪しをつけていると、「本当の自分の気持ち」や「その気持ちの背景にある価値観」などが見えなくなってしまうのだ。
「『思い込み』や『常識』『こうすべき』という固定観念が、ノンジャッジメンタルを阻むことはよくあります」と下向さん。特に大人は“これまでの常識”からジャッジメントが働きやすい。
「このようなアプローチにより、次第に相手がどういう状態なのか、自分と他者の関係性の中で何が起きているかについても深い洞察ができるようになります。さらに、コミュニティーや社会全体で何が起きているのか、その中で自分はどのように関わっているのかを理解する能力も育っていきます」(下向さん)
また、自分に気付くことで、起きていることに対して行動できるようにもなる。例えば、自分が不安に思っていることに気付ければ、不安を和らげるために温かい飲み物を飲んだり、好きな音楽を聴いたりと対処できる。自分の感情を認識することで、それとうまく付き合えるような行動や意思決定が可能になるのだ。