東京都世田谷区立塚戸小学校を訪れたのは、フィンランドのヘルシンキ芸術高校から来た高校生10人。彼らは日本のアニメや映画などのカルチャーに関心があり、普段は勉強の傍ら、「ジャパンクラブ」というクラブ活動を行っているのだそう。今回は教育旅行というカリキュラムで来日し、いくつかの日本の学校を訪問しました。
フィンランドの高校生が、ごく普通の公立小学校を訪問
朝、学校に到着した彼らを迎えたのは、1時間目から運動会の練習をしていた同校の全校児童。800人以上の児童が2つの組に分かれ、大きな声で応援練習をしたり歌ったりする姿に圧倒された高校生たち。フィンランドにはスポーツフェスティバルというスポーツをする日はあっても、全校がチームに分かれて競い合う行事はないのだそうです。校門に外国から来たお客さまがいることに気付くと「ハロー!」や、事前に調べていたフィランド語で「Moi!(フィンランド語で「やあ!」)」とあいさつをしてくれる子どもたち。高校生たちの方が照れてはにかんでしまうほほ笑ましい場面もありました。
彼らは1日をかけて、授業、給食時間、休み時間など「日本の小学校」の風景を見学。給食の時間には子どもたちの輪に入り、タブレット端末の翻訳機能を通してコミュニケーションを取っていました。「フィンランドにも運動会はあるの?」「好きな日本の食べ物はなに?」などと質問攻めにあい、子どもたちに囲まれて写真を撮ったりと終始楽しそうに交流していた高校生たち。
交流を終えたフィンランド人の高校生に感想を聞きました。
日本の小学校の記録映画がフィンランドで大ヒットしたわけ
今回、彼らがフィンランドから日本の小学校を訪れることとなったきっかけの1つが、『小学校〜それは小さな社会〜』という日本のドキュメンタリー映画。彼らが訪れた塚戸小学校こそが、この映画の舞台となった学校でした。
本作は、日本とイギリスにルーツをもつ山崎エマ監督が「私はなぜ自分を"日本人”だと思うのか」と考えて構想し、「海外の人が想像する"日本人”像が形成されるのは小学校段階である」という仮定のもと、約1年間・400時間をかけて普通の公立小学校の風景を追いかけたドキュメンタリー映画です。
今回、高校生の引率で来日した同高校の副校長・サリ先生は、フィンランドでのヒット理由についてこう分析しました。
サリ先生「現在のフィンランドの教育は『子どもたちの自由を尊重すること』に意識が向き過ぎているのではないかと言われています。自由を尊重するのは大事ですが、その結果、他人を思いやるポライトネスが失われているのではないかという声もあります。この映画が、今後のフィンランドの教育について考えるよいきっかけになったのではないかと思います。
また、フィンランドでは、学校内のシステムのデジタル化がますます進んでいます。便利なことではありますが、映画に出てきた日本の子どもたちのように、もっとリアルに関わり合い、互いを思い合うことの価値について考え直す必要があるのでは、という意見もあります」
高校生たちも、この映画を見て塚戸小学校に来ることを特に楽しみにしていたようです。
高校1年生の男子学生「映画のとあるシーンにとても心が動かされたし、小さな女の子が目の前のことに全力で取り組んでいるシーンに感動しました。この映画を見て、日本の小学校はとても厳しいと感じたけれど、実際に学校に来てみてそういう面だけではないというところに少しほっとしました(笑)。今回の教育旅行で見聞きした日本の学校の様子を、フィンランドの友達にも共有しようと思います」