大変なのに、なぜ? 「どうして小学校の先生になったんですか?」現役教師に聞いた理想とリアル

ブラック職場という認識が広がり、年々希望する人が減っている教師という仕事。しかし、現場には仕事にプライドと誇りをもって日々働く先生が多くいます。映画『小学校〜それは小さな社会〜』に出演した公立小学校の先生にお話を聞きました。

映画で描かれた「厳しい指導」が話題に。本人の感想は?

えのもと先生は、2024年12月13日に全国で順次公開されるドキュメンタリー映画『小学校〜それは小さな社会〜』に出演されています。ごく普通の公立小学校を舞台にした作品で、子どもたちがありふれた日常の中で生き生きと活動する姿に胸をうたれます。

本作では、子どもと同様に全力で目の前の課題に悩み、葛藤し、時には心を鬼にして指導する「小学校の先生」たちの姿も見どころの1つ。えのもと先生が一人の子どもと真剣に向き合った「あるシーン」も、事前上映後に多くの先生の間で話題になりました。 欧米やアジアなど12カ国の映画祭に入選し、短縮版がニューヨーク・タイムズの動画サイトでも配信されています。
——映画本編では、えのもと先生が厳しい指導をされているシーンもありました。カメラが回る中で子どもに厳しく指導をするというのは、勇気がいることではなかったですか。
 
「撮影が3年前なので記憶があいまいな部分も多いのですが、撮影期間中、監督の山崎エマさんに『えのもと先生は、1年生でも6年生でも、一人の人間として正面から子どもたちに向き合っていますよね』というようなことを言われたことがありました。

私は常に『今目の前にいる子どもたちがいずれ社会に出たときに、いろんな試練を乗り越えて幸せに生きてほしい』と思いながら指導しているのですが、その思いが指導に出ていたのだとしたら、よかったのかなと思います。でも、映画の中で使用された私の指導は、決して完璧な指導とは言えないと思います。『もっといい伝え方があったな』『何のための指導だったのかを子どもにもっと伝えるべきだった』と映画を観ながら反省しました。

一方で今回の映画では、1つの指導に対して複数の教師が連携して対応しているところを録っていただきました。映画で使われていない部分でも、多くの先生がサポートに回ってくださっています。こうしたところは普段は見えにくいところだと思うので、学校では複数の教師がチームになって指導しているということが映画で少しでも見えたら、学校の見え方も変わるかもしれません」

大人がチームになって子どもを育てていきたい

映画『小学校〜それは小さな社会〜』より
映画『小学校〜それは小さな社会〜』より
——最後に、この映画を見た方にどんなことを考えてほしいと思いますか?
 
「私たちは、子どもたちに将来、自立した社会生活を送ってほしいと思っています。そのために、学校では教師が1つのチームとなって連携を図っています。
 
後日、山崎監督から聞いた話なのですが、私が映画の中で厳しく叱った子どものお母さんは『うちの子がやることをやってなかったのが悪いんです』と話していたそうです。ともすると子どもが『お母さん、わたし、今日先生に怒られた』と結果だけを親に報告することもあり、『どうなってるの?』と疑問や不信感を抱かれることもしばしば。しかし、このお母さんはきっと、日常的に子どもに語りかけたり応援したりしてくれていたと思うんです。
 
教師だけで連携するのではなく、保護者も地域も、みんながチームになって子どもを育てていくことが本当に大事だと思います。同じ方向を向いて語るからこそ、指導に一貫性が生まれるし、子どもも迷わずに向かっていけます。
 
今、世の中には物事を否定的に受け取りやすい風潮があるように思います。しかし、否定をしてしまったらそこで全てが止まってしまいます。この映画が、子育てや仕事で“自分がチームの一員としてどう働きかければよりよい結果につながるか”を考えるきっかけになれば幸いです」

映画「小学校〜それは小さな社会〜」は12月13日よりシネスイッチ銀座ほか、全国順次公開。
© Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour
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えのもと先生
東京都の公立小学校で働く教師。2016年より東京都の正規職員として勤務。専門は特別活動。ドキュメンタリー映画「小学校〜それは小さな社会〜」(2024年12月13日公開)に出演。

この記事の執筆者:大塚 ようこ
子ども向け雑誌や教育専門誌の編集、ベビー用品メーカーでの広報を経てフリーランス編集・ライターに。子育てや教育のトレンド、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。
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