海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン 第29回

世界で日本だけ……夫婦同姓「最後の国」に国連が4度目の勧告。夫婦別姓トラブルで軌道修正する国も?

日本は「選択的夫婦別姓」の導入について国連から4度目の勧告を受けました。他国では夫婦別姓制度の施行後に複合姓(ダブルネーム)の復活が活発に議論されるなど、軌道修正を余儀なくされている国も。(画像出典:saiko3p / Shutterstock.com)

婚姻時に「夫の姓」を選ぶ割合は約95%にのぼる
驚くことに、婚姻時に選ぶ姓は今なお約95%が「夫の姓」だという日本
先月末、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)がスイスで開かれ、日本に選択的夫婦別姓の導入を求める4度目の勧告を出しました。委員会による日本政府の審査は8年ぶり。

婚姻後の夫婦同姓を維持する日本では、夫婦の約95%が妻が夫姓に改姓しているのが実情です。煩雑な手続きやキャリアへの支障、アイデンティティーの喪失など、女性側が一方的に不利益を被っているとみられ、これは1985年に日本が締結した女性差別撤廃条約にも違反しているとのこと。

そして知られている限りでは、日本は夫婦同姓を強制する「世界最後の国」なのだそうです。

「男女平等」後進国だったスイスの躍進

実は筆者の住むスイスも、ジェンダーギャップ指数ランキングの上位を占めるヨーロッパにありながら、長らく男女平等先進国とはかけ離れた存在でした。日本ですら女性参政権が1945年に認められたのに対し、スイスでは1971年に開始され、最後のアッペンツェル・アウサーローデン準州での導入が1990年と45年もの後れを取っていたことからも明らかです。

夫婦の名字選択も、つい12年前までは、

2012年まで、名前の権利は男性優先に基づいていた。(夫婦の)共通姓を持つことが必須だった。夫の姓が自動的に姓の地位を取得した(チューリヒ市役所

……と、つい12年前までは驚くほど前時代的な制度でした。

そんな超保守的国家だったスイスも、昨今ではジェンダー平等を推進すべく、

各配偶者は自分の名前と市民権を保持するものとする。ただし、新郎新婦は結婚時に、新郎または新婦の単一の名前を共通の姓として使用したいと宣言することができる(スイス連邦司法局


と夫婦別姓をデフォルトにする法改正がなされ、同時に、自分と配偶者双方の姓を名乗る複合姓(ダブルネーム)制度も正式に廃止されました。

明らかになった、夫婦別姓の盲点

婚姻時に積極的に申し立てない限り女性も自動的に自分の姓を保持することから、男女が対等な立場に置かれる画期的な制度のはずでした。が、このことにより新たな不都合にも直面する次第となりました。

というのも、夫婦別姓導入後も子どもには父親の姓を名乗らせるケースがいまなお多数派で、母子は必然的に名字が異なることから、母子旅行の際にはうっかり児童誘拐と間違われかねないのです。

そのため旅行のたびに役所で有料の家族証明書を申請して受け取る必要があるうえ、航空会社からも親子と認識されず、飛行機の旅では子どもと離れた座席を自動手配される悲劇も実際に起こっています。結果的に、わざわざ有料の事前座席指定を利用する羽目になるケースもあるのです。

スイスのダブルネーム再導入は進歩か、後退か?

男女平等とうたえば聞こえはいいですが、スイスの現行システムにおいて不利益を被っているのは、またしても女性側。

女性側からは、ビジネス上の理由から自らの姓を保持したいけれど、子どもとの親子関係も可視化したいという要望が強く、約10年の別姓運用期間を経て、2024年に入りダブルネーム制度復活に向けての動きが本格的になりました。

さらに今後は、夫婦で順序の違う複合性(例えば、妻は「自分の姓+夫の姓」でミュラー・シュミット、夫は「自分の姓+妻の姓」でシュミット・ミュラーなど)も可能にしたり、両親の既婚・未婚に関わらず子どもにもダブルネームを選択できる権利を持たせたりと、自由な選び方を採り入れていきたい模様です。

ダブルネーム再導入と聞くと、まるで男女平等に向けた制度が後退したかのような錯覚をおぼえますが、実際にスイスで検討されている内容を見ると、しわ寄せの来ていた女性と子どもの権利にしっかり配慮しつつも、誰もが不利益を被らないような方向に、試行錯誤しながらも着実に歩を進めているように見受けられます。

日本でも長らくテーマとされつつ遅々として進まない選択的夫婦別姓議論ですが、他国の成功と失敗の中から自国に合ったものを柔軟に採り入れ、多様化する世情に対応したシステムを構築し、誰もがアイデンティティを謳歌(おうか)できる社会になればと願います。
 

この記事の筆者:ライジンガー 真樹
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説を中心に執筆。All About「オーストリア」ガイド。

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