「学校へ行きたくない」と言われたら…。休ませるかどうかの判断は?
「学校へ行かせるべきか悩んだときは、言葉以外のサインに注目してみましょう。表情の変化のほか、布団から起きられなかったり、いつもと食べる量が違ったり、普段と違う様子を見せているかもしれません。さらには、保護者自身が幼い頃、どういう状況であれば『休みたい』と言いつつ学校へ行っても大丈夫だったかを思い出して、総合的に判断するといいと思います」
注意したいのは、学校へ行くことに保護者が固執した結果、子どもの気持ちに余裕がなくなってしまうことです。学校でいじめられている場合、家族からも学校へ行くよう促されると、子どもは追い詰められてしまい、最悪の場合は自死を選ぶケースがあります。背中を押すべきか、見守るべきか。吉田さんは、「押したり、引いたり、言葉かけを工夫しながら様子を見てほしい」と語ります。
休んだ後のフォローが大切。見守りと放置の違いに注意して
学校を休む選択をした場合、保護者の心には「休ませてよかったのか」と葛藤が残ることもあるでしょう。吉田さんは「休んだら、その日のうちに子どもとしっかりとコミュニケーションを取って」とアドバイスします。「学校に行きたくないと突然言われた日は、保護者にとって想定外の出来事。ですから、しっかりと対応できなくても仕方がありません。しかし、翌日も『行きたくない』と言われるのは、多少想定できるかもしれません。であれば、その日のうちにしっかりと話し合いをすることです。『今日はどうして行けなかったの?』と尋ねてみるといいでしょう。
その中で、子どもが『明日も休みたい』と言い出したら、理由を聞く。もし休ませた方がいいと判断した場合は、『学校を休むほどつらいなら、寝ているか、本を読むかだけ。ゲームはできないよ』などとルールを決めてください。場合によっては、テレビのリモコンやゲーム機を、昼間の時間帯だけ保護者が預かって使えなくしてもいいでしょう」
スクールカウンセラーから、「子どもを見守りましょう」とアドバイスされて、本人の好きなように過ごさせている家庭があるようですが、家庭内のルールがなくなると、子どもたちにとって好き放題の生活になってしまいかねず、不登校が長期化する傾向があるからだと言います。
吉田さんが担当したある不登校児童は、「朝の7時半まで、寝ていれば自分の勝ち」と話す子がいたそう。
「その子は、『朝の7時半まで寝たふりをすれば、家族は仕事で出掛けるから、そのあとはゲームし放題だ』と言うんです。『本人のやりたいことを尊重したい』と言う家庭もありますが、自由に遊ばせるのは見守りではなく“放置”に近い状態です。
公園で遊ばせるときに、ボールが道路に飛んでいったら子どもが追いかけるのを必死で止めるのと同じように、見守りとは危険なことから子どもを守りながら様子を見ることです。体調不良で休むわけじゃなければ、家庭のルールを設定するのが大切です。もし、学校を休んだ次の日からルールを決めるのが難しければ、3日目からでも、1週間目からでも構いません。話し合って決めていきましょう」
子どもに頼る、任せる機会を作って自信につなげる
不登校といえど、その原因や状況はさまざまですが、長期化したときに年齢や状況に関係なくおすすめできる方法の一つとして、吉田先生は「子どもに頼る、任せる機会を設けて」と語ります。「よくおすすめするのは、保護者が子どもに愚痴を聞いてもらう方法です。『職場の上司がこういう人でイライラする』『仕事に行くのがつらい』と打ち明けるんです。すると子どもは自分のことを棚上げして、『そんな人なんか、気にしなくていいよ』と正論を返してきます。そのアドバイスを『参考にしてみるよ。聞いてもらって助かった』と喜んでください。そうやって保護者の役に立つ経験が、不登校当事者の自己肯定感や自信につながります。
相談内容は、愚痴以外でもいいのです。『明日の夕飯、何がいいかな』と相談するのもいいでしょう。ハンバーグと回答されたら、『こんなにおいしいハンバーグができた。○○のおかげだね』と褒める。そこから『今度、ハンバーグを作ってくれない?』とお願いしてみるのも手です。子どもが自分の部屋から出るきっかけにつながりますし、活動が増えれば疲れて夜に眠る習慣が戻ってくることもあるでしょう」
過去には、「昼食作りを子どもに任せたら」と吉田さんがアドバイスしたことを機に、子どもの将来の夢につながったケースもあるそう。不登校の当事者は高校生で、同居する祖父の昼食作りも担当するようになり、それがきっかけで料理にハマって調理師を目指すようになったと言います。
「不登校になると『あれもできない、これもできない』とネガティブになりがちです。だからこそ、『任せてよかった』と思える出来事を家庭で作っていきましょう」
最後に、「不登校に多い、0か100で考える『白黒思考』に気を付けて」と吉田さん。
「『遅刻するくらいなら、学校行きたくない』と考えるのではなく、ぼちぼちやっていくという選択を加えることです。0か100じゃなくて、1点を稼ぐ。ときには1点下がってしまうこともあると思いますが、それもありという心構えが大切です」
不登校が身近になった現代。大人も仕事のモチベーションにグラデーションがあるように、子どもも学校に対する熱意に波があることを理解することが大切なのかもしれません。そして、子どもが不登校になってから慌てるのではなく、日ごろから「学校へ行きたくない」と言われたら、どのような返答をするのか、方針を考えておくのも大切です。
取材協力:合同会社ぜんと代表 吉田克彦
精神保健福祉士、公認心理師。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、個人向けカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。「不登校なんでも相談室」を運営。
精神保健福祉士、公認心理師。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、個人向けカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。「不登校なんでも相談室」を運営。
この記事の執筆者:結井 ゆき江
中学受験雑誌の編集者として勤務したのち、フリーランスの編集者・ライターとして独立。教育や生き方、地域情報などを中心に取材・執筆を行う。グレーゾーンの小学生をサポートした経験も。
中学受験雑誌の編集者として勤務したのち、フリーランスの編集者・ライターとして独立。教育や生き方、地域情報などを中心に取材・執筆を行う。グレーゾーンの小学生をサポートした経験も。