クラスに2人もいれば「不登校」も普通の選択に? 中学生の1割に起立性調節障害が… 不登校増加の背景

不登校の児童生徒数が増加傾向にある中、保護者は不登校の子どもをどう理解すればいいのでしょうか。20年以上スクールカウンセラーとして勤務し、『不登校なんでも相談室』でコラムを発信する公認心理師の吉田克彦さんに伺いました。

過去最多の34万人超に。不登校の児童生徒が増える背景

不登校の児童生徒数が年々増加しています。文部科学省の令和5年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、小中学校における不登校の児童生徒数は34万6482人で、前年度の29万9048人を大幅に上回りました(*1)。
学校に行きたくない
「学校に行きたくない」と言われたら……
スクールカウンセラーとして20年以上従事してきた公認心理師の吉田克彦さんは、不登校の児童生徒数が増加する背景として二つの考えを示します。

「一つは、価値観の多様性が広がったことです。現在は『学校だけが全てではない』という認識が広がってきました。昔は体調不良でも学校に行くのが当たり前でしたが、フリースクールやオンライン学習などの認知が広がったため、自分に合った学びの場所ややり方を選択するケースが増えています。

もう一つは、家の居心地がよくなったこと。保護者の幼少期は、学校を休んでも子ども向けのテレビ番組が少なく、ゲームの選択肢も限られていましたが、現在はインターネットにつなげれば動画がいつでも見られます。ゲームの種類も豊富になりました。SNSを使えば誰とでも会話ができる時代ですから、家にいても孤独感は少ないでしょう」

前述の調査によると、中学校では不登校の生徒がクラスに約6.7%、つまり1クラスに2人はいる割合となっています。すると、「不登校が昔より身近に感じられるのでは」と吉田さん。現代では、当たり前になってきた選択肢と言えるかもしれません。

最後の引き金が友達とのけんかでも、不登校の原因は“複合的に”捉えて

「不登校」と一言でいっても、学校に行けない理由はさまざま。自分の子どもが不登校になると保護者は原因をあれこれと考えますが、吉田さんは「複合的に捉えるべき」と語ります。

「友達や担任、家族などの人間関係で少しずつ悩みが重なったところに、『一番仲のいい友達とのけんか』が起こり、不登校になるケースもあります。最後の引き金が何だったかは原因をひもとくうちに分かるかもしれませんが、その部分だけを正せばいいのかというと、それも違う。さまざまな要因が重なって不登校になった可能性を考えることが大切です」

前述の文部科学省の調査によると、小中学校の不登校生徒について把握した事実についてのアンケートでは、「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」が32.2%、「不安・抑うつの相談があった」が23.1%、「生活リズムの不調に関する相談があった」が23.0%と続きます。前回調査では「無気力・不安」を要因とする回答が51.8%と最も多く、形式を変更しても前回と同様の傾向となりました。

「やる気が出ない」「無気力・不安」が最も多かった理由を、吉田さんは次のように推察します。

「小学生は自分の気持ちをうまく言語化できない年齢ですし、中学生は理由を伝えるのが面倒に感じられたり、恥ずかしくて言いたくなかったりするのだと思います。学校へ行けない理由は、子どもにとって自分の弱さと直面するもの。正直に話すのは、ハードルが高いのかもしれません」

「起立性調節障害」や「過敏性腸症候群」とは? 体調不良から起こる不登校

人間関係などの心理的ストレスのほかに、「不登校は体調不良から起きることもある」と吉田さんは語ります。

「代表的なのは、起立性調節障害(OD)や過敏性腸症候群(IBS)です。このほか、学校に近づくと足がすくんで動けなくなり過呼吸やパニック障害のような症状が出るケースや、微熱が毎日続く子もいます」

起立性調節障害とは、立ち上がったときに立ちくらみや失神、倦怠(けんたい)感などの症状が起きる自律神経の機能失調のこと。見た目には症状が伝わりにくく、「仮病では?」と疑われてしまうこともあります。思春期の年齢で発症することが多く、中学生のおよそ1割にこの症状があるそう(*2)。

過敏性腸症候群は、消化器の疾患が見つからないにもかかわらず、下痢や便秘といった症状や腹痛に悩まされる病気です。

「過敏性腸症候群は授業中にトイレに行くのが恥ずかしかったり、通学中に『トイレに行きたくなったらどうしよう』と不安になったりして不登校になるケースがあります。男の子は大便時に個室のトイレを利用しなければならず、『学校でトイレに行きたくない』という事情も抱えるようです」

過呼吸やパニック障害に近い症状や微熱が続くケースは、心理的ストレスから起きている可能性もあります。吉田さんは「症状にばかり目を向けると、体調不良はどんどん悪化することがある」と語ります。

「以前、微熱が毎日続く子がいて、病院で検査しても原因が分からなかったですが、体温計を渡す前に『じゃんけんに3回勝ったら渡す』とゲーム性を取り入れたところ、症状が落ち着いたことがあるんです。うまく話題を変えることで、子どもの不安が紛れたのかもしれません」

このほかにも、不登校は昼夜逆転の生活に陥りやすく、子どもたちは体がだるくて朝起きられないことが多いそう。「休めば休むほど学校の勉強についていけなくなり、家にいる方が楽になる」と語る吉田さん。子どもの不安な心に寄り添いながら、どのようなサポートをしていくべきか考える必要がありそうです。

<参考>
*1:文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
*2:一般社団法人 起立性調節障害改善協会ホームページ
 
取材協力:合同会社ぜんと代表 吉田克彦
精神保健福祉士、公認心理師。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、個人向けカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。「不登校なんでも相談室」を運営。
この記事の執筆者:結井 ゆき江
中学受験雑誌の編集者として勤務したのち、フリーランスの編集者・ライターとして独立。教育や生き方、地域情報などを中心に取材・執筆を行う。グレーゾーンの小学生をサポートした経験も。
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