藤井聡太竜王に挑む、佐々木勇気八段とはどんな棋士?30歳タイトル初挑戦が「遅すぎる」と言われる理由

藤井聡太竜王(七冠)に佐々木勇気八段が挑戦する、将棋のタイトル戦・竜王戦七番勝負が10月5日に開幕します。天才少年としてプロになる前から注目されていた佐々木八段は、これがタイトル初挑戦。佐々木八段の実績や藤井竜王との関わりについて紹介します。(写真:日刊スポーツ/アフロ)

2024年度の将棋のタイトル戦は、それぞれ違う棋士がタイトルホルダーである藤井聡太七冠に挑戦しています。

4~5月の名人戦に豊島将之九段、4~6月の叡王戦に伊藤匠七段(タイトル奪取で伊藤叡王に)、6~7月の棋聖戦に山崎隆之八段、7~8月の王位戦に渡辺明九段、9~10月の王座戦に永瀬拓矢九段と、これまでに5人が挑戦者として登場。

そして、10月5日に開幕する「竜王戦」でもこの流れが続き、30歳の佐々木勇気八段が藤井聡太竜王に挑戦します。

竜王戦に挑戦する佐々木勇気八段
【第37期竜王戦】タイトル初挑戦となる佐々木勇気八段(写真:日刊スポーツ/アフロ)

竜王戦は、予選にあたる1~6組に分けて行われる「ランキング戦」で上位に入った棋士11人によって、「決勝トーナメント」が行われます。ここで最後に勝ち抜いた棋士がタイトル挑戦者になりますが、佐々木八段と藤井竜王が初めて対局したのは7年前、この竜王戦の決勝トーナメントでした。

藤井四段の連勝記録を止めた佐々木五段

2016年に14歳でプロになり、デビュー戦以降29連勝してきた藤井聡太四段(当時)は、佐々木勇気五段(当時)と竜王戦決勝トーナメントの2回戦で対戦しました。

2017年7月2日、藤井四段の30連勝がかかったこの対局はニュースとなり、東京・千駄ヶ谷の将棋会館には報道陣が殺到しました。対局前後に設けられた取材・撮影タイムでは、黒山のような人だかりで対局室がギュウギュウになるほど。

結果は、入念な準備をした佐々木五段が勝利し、藤井四段の連勝記録は29でストップ。佐々木五段は連勝ストッパーとして注目を集め、対局終了後に佐々木五段が語った「私たちの世代の意地を見せたかった」という言葉も話題になりました。

それから7年、藤井四段は八冠全冠制覇を経て藤井七冠となり、佐々木五段は佐々木八段となって、最高位のタイトル戦である「竜王戦」で相まみえます。

ところで、藤井七冠は全国大会で優勝するなど、奨励会(棋士の養成機関)に入る前から注目されていた天才少年でしたが、実は天才少年ぶりで言えば、佐々木八段も負けてはいません。

圧巻の天才少年が30歳でタイトル初挑戦

佐々木八段は小学3年生のときに、低学年・高学年別に行われる小学生の全国大会「倉敷王将戦」の低学年の部で優勝。そして圧巻だったのは、プロ棋士の登竜門とも呼ばれ、小学生の将棋日本一を決める「小学生将棋名人戦」を4年生で優勝したことでした。

脳の発達段階にある小学生では、学年の差が将棋の力にも大きく影響するので、学年が上の方が有利です。佐々木少年は、2学年上の菅井竜也少年(菅井竜也八段。王位のタイトルを獲得したこともあるトップ棋士)を決勝で破って優勝。

ほかの大きな大会でも年上の強豪を破って優勝を重ね、「この子は絶対にすごい棋士になる」と周囲から言われていた天才少年でした。

その後、小学4年生で奨励会に入り、順調に昇級を重ね、藤井七冠を含めて5人しかいない中学生棋士(中学卒業までにプロ棋士になること)の期待もかかりましたが、少し遅れて高校1年生で棋士になりました。

それでも、棋士になった年齢の若い順では6番目(最年少は藤井七冠)。若いうちに棋士になることが、その後の活躍を左右すると言われる将棋界では十分な逸材で、早くタイトル戦に出て活躍することが期待されていました。

今回の竜王戦で、30歳にして初のタイトル挑戦を決めたことに、ファンから喜びの声と共に「やっとか」「遅すぎるくらい」との声も上がったのは、「若いうちから活躍を期待されていた、凄まじい天才少年だった」という理由があるからです。

NHK杯では、2年連続「藤井-佐々木」決勝戦が実現

ファンからは、姓の佐々木よりも「勇気先生」など名で呼ばれることが多く、天真らんまんさを交えた楽しいトークや端正な顔立ちで、人気は将棋界でもトップクラス。スポーツも得意で、ランニングやフットサル、バスケットボールなどのプレー中の写真や動画が、メディアに流れることもあります。

藤井七冠と佐々木八段は、これまでに公式戦で6回対戦し、藤井七冠の4勝2敗。NHK Eテレで、日曜の午前中に放送される「NHK杯」の決勝では、2023年・2024年の2年連続で藤井-佐々木戦が実現。2023年は藤井七冠が勝って優勝、2024年は佐々木八段が勝って優勝しました(それぞれ前年度の扱い)。

佐々木八段は、全棋士参加のNHK杯で初優勝を果たしたうえ、2024年度の7~9月には10連勝。着実に力をつけたことを証明した佐々木八段は、今回タイトル挑戦を決めたことで、さらなるブレークが期待されています。

相変わらずの強さを見せる藤井七冠

一方の藤井七冠は、叡王戦こそ2-3で敗れて伊藤匠新叡王の誕生を許しましたが、続く棋聖戦は3-0、王位戦は4-1、王座戦は3-0のスコアで防衛し、相変わらずの強さを見せています。将棋の内容もよく、叡王戦でささやかれた不調説を払拭(ふっしょく)しつつあります。

1994年生まれの佐々木八段には、同世代に多くの棋士がいます。将来を嘱望された強い棋士が多い黄金世代でしたが、現在のタイトルは、2002年生まれの2人、藤井七冠と伊藤叡王に独占されています。佐々木八段が竜王を奪取し世代の意地を見せるのか、藤井竜王が防衛し、竜王4期目となるのか注目です。

※段位、タイトル数は2024年10月1日時点

この記事の執筆者:宮田 聖子
ライター。アマチュアの将棋大会の運営を16年続けつつ、文春オンラインとマイナビ出版・将棋情報局にプロ棋士のインタビューやアマチュア将棋の記事を執筆。

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