探究学習で教員の役割はどう変わる?「シブヤ未来科」スタートから半年、大転換に困惑した現場は今

東京都渋谷区の区立小中学校では、今年度より探究学習「シブヤ未来科」が本格始動しました。探究学習で教師に求められる役割やあり方は、どのように変わるのでしょうか。渋谷区教育委員会事務局  教育指導課指導主事の柳田俊さんにお聞きしました。

東京都渋谷区の区立小中学校では、2024年度より探究学習「シブヤ未来科」が本格始動しました。探究学習は、児童生徒が自分の興味・関心のあるテーマについて自ら問いを立て、深めていく主体的な学びです。

教師に求められる役割やあり方は、従来型の教育とどのように変わるのでしょうか。渋谷区教育委員会事務局教育指導課指導主事の柳田俊さんにお聞きしました。

教える・教わる関係から、教員は子どもに“伴走”する存在へ

旧来型の「教える・教わる」授業とは異なり、児童生徒が自らの興味・関心にもとづいて主体的に進める探究学習においては、教員に求められる役割や子どもとのかかわり方も変わります。

渋谷区が今年発表した「渋谷区教育大綱」の中で打ち出しているのが、「先生だって、子どもと一緒に、学ぶことにワクワクしよう」というメッセージです。

さらに、渋谷区教育大綱には、こうも記されています。

子どもたちの力を信じて、
先生たちが応援し、並んで走る。
子どもたち、先生たち、地域が、一緒になってつくりあげる。
それが、私たちが考える未来の学校です。


「渋谷区教育大綱の策定にあたっては、シブヤ未来科に限らず、これからの学校教育における教員のあり方を、現場の教員も含めてみんなで考えていきました。大事にしているのは、子どもに伴走する存在であること。シーンに応じて変わりますが、学びの主体である子どもの伴走者、コーチ、サポーター、ファシリテーターのような役割です。

子どもと一緒にワクワクしよう、楽しもうというのが、私たちの目指す教員の姿です。実際、シブヤ未来科の取り組みがうまく行っている学校を見ると、子どもたちだけじゃなく先生たちも楽しそうにしています」(柳田さん、以下同)

探究って? 業務負担が増えるのでは……? 戸惑う教員の懸念は

現場の教員からは、「シブヤ未来科や教育大綱が目指すものは理解できるし、素晴らしいと思う」と賛同する声が多かった一方で、「でも、どうしたらいいかわからない」「また業務が増えてしまう」といった声も寄せられたと言います。

「教員も従来型の教育しか受けてきていないので、探究だ伴走だと言われてもピンとこない、どうしたらいいかわからないというのは当然です。探究学習の進め方やファシリテートの手法などを学んでもらうため、職層や担当ごとの研修やワークショップなどの機会を多数設けてきました。また、『探究ハンドブック』という手引きを作成して全教員に配布したり、学校を超えた情報交換・事例共有の場を設けたりもしています。いろんな考え方の教員がいてよいというのは大前提ですが、新しいものを柔軟に受け止め、教員としてのマインドをアップデートしてもらえたらと考えています」

加えて、現場の教員の業務負担増にも配慮。渋谷区が進める教育DXの一環として、「雑務のスクラップ」をコンセプトに、業務削減に取り組んでいます。
生成AI
教育DXの一環として、「雑務のスクラップ」をコンセプトに、業務削減に取り組む渋谷区
生成AI
生成AIを活用して、現場の教員の業務負担増にも配慮
「教員でなくても対応可能な保護者宛の文書作成や電話対応といった業務を、生成AIなどのデジタルツールを活用して圧縮しています。教員が本来フォーカスすべき業務は何かといえば、子どもと向き合うことです。そこにしっかりとリソースを当てられるよう、ハード面でもサポートしています」

学校・学年がチームで動き、持続可能な取り組みにする

シブヤ未来科の取り組みは、教育委員会として一律で決めるのではなく、多くの部分を各校の判断に委ねています。

その理由について、「現場に安心感をもってもらうため」と柳田さんは言います。各小中学校では、「探究コーディネーター」に指名された教員を中心に、学年ごとに探究のカリキュラムを考案・実施。探究コーディネーターは、準備段階だった昨年度から定期的に集まり活動しており、早くも学校を超えた連携体制ができています。

「教員に異動があってもシブヤ未来科の取り組みが継続するよう、一人の教員がけん引するのではなく、学校・学年ごとにチームになって動くようにしています。渋谷区の新しい取り組みへの関心は都内の教員間でも高く、異動を検討する教員などを対象にした説明会は、例年に増して盛況です。

都内の他地区から異動してきた教員からは、渋谷区に来てよかった、自分がやりたかった教育はこれだった、というような声も届いています。今後は、渋谷区で探究に取り組んだ教員が、他地区に異動し、探究のリーダーとして活躍することもあるでしょう。将来的には、東京都全体、そして日本全体が探究で盛り上がる姿を描いています」

シブヤ未来科がスタートして半年あまり。教員からは、うれしい報告が増えてきていると言います。

「生徒の学びに向かう姿勢や意欲に変化が見られたり、不登校だった生徒が、午後のシブヤ未来科の時間を楽しみに学校に来るようになったり、というケースも出てきています。大きな転換に戸惑う教員もいたかと思いますが、こうした生徒の変化や成長を目の当たりにすることで、探究への見方や考え方も変わるのではないかと思います」

未来を生きる子どもたちに必要な力を育むことを目指す、シブヤ未来科。真の意味での「成果」が出るのは、5年後、10年後になるのでしょう。

「大事なのは、私たちも未来に向けて挑戦し続けること」と柳田さん。渋谷区教育大綱は、次のような言葉で締めくくられています。

さあ、つくろう。探究しよう。挑戦しよう。
自ら学ぶ力を信じた時。
一人ひとりの心の中で、未来の学校が始まります。

 
この記事の執筆者:笹原 風花
ライター・編集者。奈良県出身、東京在住。第2の故郷はオランダ・ライデン。高校生向けの大学受験情報誌の編集部に4年間勤めたのち、制作会社勤務を経て2014年に独立。取材・執筆分野は教育や学びを中心に多岐にわたり、企業の社内報や広告制作などにも携わる。。
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