日本人の知的レベルは世界1位。その一方で、国力は……
ただ、これは知的レベルの低い筆者のような一般人からすると正直あまりピンとこない。国民の知的レベルと国力はあまり関係がないように思えるからだ。愚民だ知的レベルが低いだなんだと嘆いているが、実は日本は世界一の「知的な国」だ。世界中でIQ(知能指数)テストを実施するフィンランドのウィクトコムが発表した2024年版の「世界の知的な国ランキング」では日本が世界一。国別の平均IQは112.30と、世界平均の99.62を大きく上回っている。
これだけ知的な国民なのに、国力はタダ下がりしている。それを示すデータは山ほどある。例えば、スイスのビジネススクールの国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している「世界競争力ランキング」がある。日本はかつてバブル期に1位をとったがそれ以降は坂道を転がるようにランクを下げて2023年は35位。2024年ではさらに3つ順位を落として38位だ。
大統領や独裁者があらゆることを決められる国と違って、日本は根回しと調整で物事を決めていく「集団合議」の国である。どんなにIQの高いリーダーでも、集団をまとめる力がなければ何も前に進めることができない。知的レベルが高い霞ヶ関のエリートたちが自宅にろくに帰れないほどがむしゃらに働いてきた結果が、今の日本であることが全てを物語っている。
知的レベルの高い人が陥りやすいワナ
しかし、知的レベルの高い人たちはそう思わない。「知的レベルの低い人」というのは「恥」であって、国力の足を引っ張る存在だと信じている。もちろん、個人の思想信条は自由だ。が、歴史に学べば、これはちょっと気を付けなくてはいけない。知的エリートが「愚民が国力低下につながるのでは」と言い始めると、たいがいロクなことにならないことが分かっている。
分かりやすいのが戦前・戦中と日本では空前の大ブームだった「優生思想」だ。当時、知的レベルの高い日本人はこぞって「日本の国力向上のためには、障がい者や犯罪者は子孫を残すべきではない」と主張をしていた。朝日新聞社の副社長だった下村宏氏もその1人だ。
逓信省(ていしんしょう)の役人としてベルギー留学後、台湾総督府勤務から朝日に転職した下村氏は当時、スター文化人としてラジオに出演したり、全国での講演活動で日本の国力向上に必要なことを説いて回った。その中でも重要なのが、知的レベルの低い日本人の「断種」である。
「私は今日日本の国策の基本はどこに置くかといへば、日本の人種改良だらうと思ひます。この點(とぼす)から見ますると、どうも日本の人種改良といふ運動はまだ極めて微々たるものである。それでは一體(いったい)その他の改良といふことは日本ではやらんのかといへば、人種改良の方は存外無関心であるが、馬匹改良はやつて居る。豚もだんだん良い豚にする。牛も良い牛にする。牛乳の余計出る乳牛を仕入れる」(1933年 児童養護協会「児童を護る」)
その後、下村氏は1937年に貴族院議員になり、その3年後に政府は「優生保護法」の前身となる「国民優生法」を成立させる。「人種改良を国策に」と主張していた下村氏が、この法律の成立に大きな役割を果たしたことは容易に想像できよう。
知的レベルの高い人というのは、どうしても知的のレベルの低い人を「恥」として見下してしまう。そして、自分が理想とする国や社会にとっては不必要だと排除をしようとする。
小泉氏や彼を支持する愚かな「劣等民族」に怒りを感じているそこのあなた、ご自分の胸に手を当てて「優生思想」に取りつかれていないか、ちょっと考えてみてはいかがだろうか。
※サムネイル画像出典:長田洋平/アフロ
この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。