まだ全貌(ぜんぼう)が見えない施策であるが、発表されるやいなや、SNS上では議論が勃発。「意味わからん」「失笑してしまう」「トンチンカンすぎる施策」「60万円で移住するワケないじゃん」など、多くが批判の声が集まった。
また、支援が「移住する女性」のみに限定されていることにも「お嫁に来てね感満載でキモい」「女性をモノだと思っている」などといった疑問の声が上がる。
本施策は東京一極集中に歯止めをかけるための施策であり、都市から移住する「UIJターン」に関心がある女性を後押しするものとしているが、地方から上京した筆者からしてみても「地方で結婚しようという動機づけにはならない」と強く感じている。
「仕事がない」だけじゃない。若い女性が東京に集中する理由
なぜ、若い女性たちは地方から東京へ流出するのか。筆者がこれまで取材してきた20~30代女性の意見をピックアップする。夢や憧れを持って上京
ミツキさん(仮名/32歳/会社員)は、東北出身で、地元の観光誌やミスコンなどに出場。周囲が就職活動をする中、東京で本格的に芸能活動をする夢を追いかけ、21歳で上京した。現在は会社員として働いているが、地元に戻る気はない。理由は「30歳を超えた友人たちはほぼ全員結婚していて、私の居場所はないと感じる」からだそうだ。加えて、現在までに築いてきたキャリアを生かせる職種は地元にはない。地方に仕事がなく、“仕方なく”上京
ミツキさんのように、夢や憧れを持って上京したという理由がフォーカスされがちだが、地元に就きたい仕事がなく、上京したというケースも。ヒロカさん(仮名/32歳/フリーランス)は、「地元でメディア関係の仕事がしたいと思ったが、仕事がなかった」と語る。ほかの仕事も検討してみたが、男女の賃金格差が目立ち、管理職は男性ばかりだ。「地方(地元)が嫌いというわけではないが、仕事のため“仕方なく”上京した」という。
地方のしがらみにうんざりして上京
一方、夢や仕事を求めて上京したミツキさんやヒロカさんとも違い、「“地元を出たい”という強い思いがあり、大学進学とともに東京に来た」ケースも。ハルカさん(仮名/32歳/会社員)は、夢や仕事を求めて上京したわけではないと語る。実母とも折り合いが悪く、さらに田舎の密な近所付き合いやうわさ話がストレスだった。実家に帰るたび「女性は結婚するのが幸せ」「女性は働かない方がいい」といった価値観の押しつけにうんざりしている。【関連記事:東京は“日本一貧しい”街。それでも地元に帰らず「家賃9万円」のために働く元タレント・32歳女性の今】
若い女性が地方を離れるのは夢や目標の実現のためであり、仕事がない地元を離れ、職種が多く男女の賃金格差が少ない仕事を求めて上京するパターンは多い。地方に根強く残るジェンダーバイアスに嫌気がさして、田舎を離れるハルカさんのようなケースもある。
この3人が「60万円が支給される」からといって地方に移住婚するだろうか。答えはNOだろう。
一方で、アラサー世代に入り「上京したが、地元に戻って結婚したい」と話す女性を取材したこともある。しかしこの場合、元から移住婚を希望していたため、「60万円」が動機づけになったわけではない。
女性は全国どこからでも応募可だが、男性は住民のみ
いうまでもなく、近年東京圏への転入超過が続いている。総務省が発表した「住民基本台帳人口移動報告 2023年」によると、31の道府県で人の流出が拡大し、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、大阪府、滋賀県、福岡県が転入超過となっている。特に目立つのは、18~22歳という若い世代の首都圏への転入だ。男性に比べ、女性は一度上京すると、地元には戻らない傾向がある。先日、筆者は自治体が実施している婚活イベントについて調べていた。とある自治体では、婚活イベントの参加条件として、女性は全国どこからでも応募可となっていたが、男性はその自治体住民に限られていたのである。今回の「移住婚」とまるで同じ発想で、「地方にお嫁に来てね“感”」満載ではないだろうか。
なぜ若い女性は地方を出ていくのか。なぜ男性に比べて女性の人口流出率が高いのか、そして戻らないのか……。そこには、「仕事がない」以外の根本的な原因がある。生き方が多様化した時代に、時代錯誤な施策を打ち出した人たちこそ、東京一極集中を加速させている張本人ではないかと思うのだ。
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この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。