史上最年少「永世称号」がかかる21歳の藤井聡太棋聖に、「独創的な棋風」で43歳の山崎隆之八段が挑む!

21歳の藤井聡太八冠に、43歳の山崎隆之八段が挑戦する将棋のタイトル戦「ヒューリック杯棋聖戦」が6月6日から始まります。注目ポイントを解説します。(写真:東京スポーツ/アフロ)

藤井聡太棋聖に山崎隆之八段が挑戦する将棋のタイトル戦、「ヒューリック杯棋聖戦」五番勝負の第1局が2024年6月6日に行われます。

「将棋の藤井さん、またタイトル戦やってるの?」と思われるかもしれませんが、実際その通りで8つのタイトル戦はそれぞれが並行して行われ、5月27日には「名人戦」が決着したばかり。現在進行中の「叡王戦」は2―2のフルセットになり、6月20日に最終局の第5局が行われるという状況。そこに今回、「棋聖戦」が新たに始まるわけです。
第95期 ヒューリック杯棋聖戦
21歳にして早くも「永世称号」がかかる藤井聡太八冠に、15年ぶりのタイトル戦出場となる山崎隆之八段が挑戦する「第95期 ヒューリック杯棋聖戦」(写真:東京スポーツ/アフロ)
棋聖戦は主催は産経新聞社、特別協賛に不動産会社であるヒューリック株式会社がついていて、数年前に「ヒューリック杯棋聖戦」という棋戦名になりました。藤井八冠の活躍による将棋界のイメージアップもあり、このように企業の協賛がつくことが増えています。

藤井聡太八冠、史上最年少での「永世称号」なるか

「棋聖」は、藤井八冠が17歳11カ月という史上最年少で獲得したタイトル。それから4年の間、連続で防衛を果たし今期防衛すれば5期。早くも「永世棋聖」がかかっています。

永世の称号はタイトルごとに連続5期、通算10期など規定回数のタイトルを獲得することで得られるもの。史上最年少でプロの棋士になったことに始まり、数々の最年少記録を打ちたててきた藤井八冠。今回「永世棋聖」となれば、史上最年少での永世称号の獲得となります。

タイトル戦の宿の景色にも注目!

棋聖戦第1局の会場となるのは、千葉県木更津市の「龍宮城スパホテル三日月」。2021年の棋聖戦第1局、2022年の棋聖戦第3局、今回2024年の棋聖戦第1局と、このホテルでの棋聖戦は3回目となり、棋聖戦の宿として定着しました。

ホテルは神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ、東京湾アクアラインの木更津側出口のそばにあります。客室はもちろん、対局室からもアクアラインや天気の良い日には遠く富士山が見え、すぐそばに海が広がります。食事休憩を除き、朝から晩まで同じ部屋で対局が行われるため、潮の満ち引きの様子も見えるとか。

タイトル戦はこのように美しい景色が見えるホテルや旅館で行われることがよくあり、各社の報道やABEMA将棋チャンネルでの生中継では景色もリポートされます。宿の宣伝にもなり、実際に泊まりに行くファンもいます。

挑戦者の山崎隆之八段。愛称は「山ちゃん」「元祖 西の王子」

挑戦者となった山崎八段は1981年生まれの43歳。17歳でプロの棋士になったので、この道26年のベテランです。

将棋界は若くして棋士になるほうが有望だといわれることの多い世界で、実際に藤井八冠は14歳2カ月で棋士になっています。17歳は棋士になる年齢としては十分に若いほうで、山崎八段もデビュー時から将来はタイトルを獲るような棋士になると、大きな期待を寄せられていました。

関西所属の山崎八段、若かりし頃はジャニーズ系ともいわれたルックスで「西の王子」と呼ばれていたことも。NHK Eテレの将棋番組『将棋フォーカス』ではレギュラーとして司会役を務めていたこともあり、現在もユニークなトークで数々のイベント出演もこなす人気棋士です。

「43歳、15年ぶりのタイトル挑戦」が喝采される理由

山崎八段は15年前、2009年に初めてのタイトル挑戦を果たすも、羽生善治王座(当時)に0ー3のストレート負け。それ以降、タイトル戦出場の機会はありませんでした。

一方、将棋界にはタイトル戦とは別に「一般棋戦」といわれる、その都度優勝者を決める棋戦があります。山崎八段は持ち時間の短い将棋が得意で、1時間半の放送枠で対局が終了する「NHK杯」で2回優勝、タイトル戦になる前の「叡王戦」でも優勝経験があり、一般棋戦8回の優勝を誇るトップ棋士の1人です。

50代になってもタイトル戦に登場する、レジェンド羽生善治九段のような例はごくまれで、将棋界の傾向として40代になるとタイトル戦に出るようなチャンスはなかなかありません。体力や記憶力の低下は、棋士であっても避けられないのです。

今回、山崎八段が43歳にして15年ぶりのタイトル挑戦を決め、将棋ファンは愛称「山ちゃん」に喝采を送りました。将棋界では若手の活躍が注目されることが多い一方、こうした40代以上の活躍に「勇気をもらった」と応援が集まることもよくあります。

最近の傾向として、2023年後半から2024年前半にかけて伊藤匠七段がタイトル戦に3回出場したように、タイトル戦に出る棋士は比較的固定化しています。

将棋界にある8つのタイトル、それぞれの予選やトーナメント戦を約170人の現役の棋士が戦います。それを勝ち抜いた1人だけが、タイトル保持者(2024年5月末時点、8つすべてを藤井八冠が保持)と番勝負を戦うのです。

挑戦者になること自体がかなり大変なことで、棋士の中でトップの実力がないとできないこと。移り変わりはあっても、タイトル戦に出られる棋士はごく一部なのです。

今回の「15年ぶりのタイトル戦出場」という期間は、将棋界で2番目に長い記録だそう。実力も人気もありながらタイトル獲得経験のなかった山崎八段が、15年の年月を経て43歳のいま、21歳の藤井八冠に挑む姿に将棋ファンは胸を熱くするのです。

AI将棋とはかけ離れた独創的な「山崎将棋」

そして棋聖戦以外でも山崎八段は絶好調で、2024年度に入ってからも7連勝中(6月4日現在)。勢いのある状態で、棋聖戦に挑みます。

山崎八段の将棋を一言でいうと、「独創的」。AIを使っての研究全盛の時代に「機械のような正確さ」とは違う、AIなら指さないような人間味のある将棋を指し、ファンはそこに酔いしれるのです。

どの棋士とも似ていない「山崎将棋」に22歳年下の絶対王者、藤井棋聖がどう対応するのかにも注目です。

※段位、タイトル数は2024年6月4日時点

この記事の執筆者:宮田 聖子
ライター。アマチュアの将棋大会の運営を15年続けつつ、文春オンラインとマイナビ出版・将棋情報局にプロ棋士のインタビューやアマチュア将棋の記事を執筆。
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