「お気になさらないでください」は、相手の提案や誘いを断りたいときや相手を励ましたいときなど、幅広いシーンで使われている言い回しです。しかし、実際のビジネスシーンにおいては、目上の人に使っていいものか迷ってしまう人もいるでしょう。
今回は「お気になさらないでください」の正しい使い方や言い換え表現、反対に言われたときの適切な答え方などについて現役フリーアナウンサーの酒井千佳が解説します。
<目次>
・「お気になさらないでください」の意味とは
・「お気になさらないでください」を使う場面
・「お気になさらないでください」の類語・言い換え表現
・「お気になさらないでください」の使い方と例文
・「お気になさらないでください」への返事の仕方
・まとめ
「お気になさらないでください」の意味とは
「お気になさらないでください」という表現は、ビジネスシーンでも頻繁に使われています。こちらでは「お気になさらないでください」の本来の意味と、目上の人への使い方について解説します。・「お気になさらないでください」の基本的な意味
「お気になさらないでください」は、カジュアルに言うと「気にしないで」といった表現となります。本来であれば「大丈夫です」「心配しないで」「問題ない」といった言い回しで伝えることができますが、こうした言い回しをビジネスシーンで使うと相手によくない印象を与えてしまう可能性があります。そうした事態を避けるために、丁寧に表現したのが「お気になさらないでください」だと考えておくと分かりやすいでしょう。
・目上の人に対しても適切な表現
「気にしないで」を丁寧に表現したのが「気にしないでください」であり、さらに「する」を尊敬語である「なさる」に言い換えることで、相手への敬意を伝える適切な表現となります。そのため、ビジネスシーンにおいても目上の人や社外の相手に対して「お気になさらないでください」と使うことができます。
なお、例えば取引先やお客さまが帰る際などに「お帰りになられる」といった表現が使われることがありますが、これは「お帰りになる」と「帰られる」を重ねた二重敬語となり、誤った使い方とみなされます。しかし、「お気になさらないでください」は二重敬語には含まれないため、使っても問題はありません。
「お気になさらないでください」を使う場面
「お気になさらないでください」は、目上の人に対しても使えることが分かりました。では実際、どのようなシーンで使うのが適しているのでしょうか。「お気になさらないでください」を使う場面をご紹介します。・相手に遠慮や謙遜の気持ちを伝えたいとき
相手に何かを提案された際、断りたい場合に「お気になさらないでください」を使うことがあります。実際は「結構です」「不要です」とはっきり断りたい場面であっても、とくにビジネスシーンにおいては、やんわりと断らないと相手との関係性に影響が出ることがあります。そこで遠慮や謙遜の気持ちを込めて「お気になさらないでください」と表現することで、相手に不快な思いをさせずに済むのです。
・自分のことは放っておいてほしいとき
「お気になさらないでください」は、「放っておいてほしい」「自分でできるから大丈夫」といったニュアンスで使われることもあります。シンプルに「放っておいて」「気にしないで」と伝えてしまうと、せっかく手助けを申し出てくれた相手に冷たく当たることになってしまいます。放っておいてほしいという意味合いで使う場合は、「せっかくだけどお断りします」という意味を込めて「お気遣いありがとうございます」といった感謝を伝える言い回しと組み合わせるといいでしょう。
・相手を励ますまたは慰めるとき
例えば、相手のミスが元でこちらに影響が出た場合などに、相手への思いやりの気持ちを込めて「お気になさらないでください」と使うことがあります。また、相手が落ち込んでいるときや、こちらが謝罪を受けた際などにも使えます。そうした場合には「どうかお気になさらないでください」や「どうぞお気になさらないでください」など、文頭に一言付け足すことで、より丁寧な表現となります。
「お気になさらないでください」の類語・言い換え表現
「お気になさらないでください」は、使うシーンや相手によってさまざまな表現に言い換えることができます。より適した表現で使い分けられるように、違いを理解しておきましょう。・カジュアルな言い方:「お気になさらず」
「お気になさらず」は「お気になさらないでください」をカジュアルにした表現で、日常生活における友人や知り合いはもちろん、ビジネスシーンでも同僚や部下などに対して使うことができます。また「お気になさらずに」と最後に助詞の「に」を付け加えることで、「お気になさらず」よりも少し丁寧な印象を与えます。
・フォーマルな表現:「お気遣いなさらないでください」
「お気になさらないでください」とよく似た表現として「お気遣いなさらないでください」という言い回しがあります。目上の人や得意先の相手に対しても使える表現で、「お気になさらないでください」を使うよりもよりフォーマルな印象を与えることができます。
なお、カジュアルなシーンでは「お気遣いなさらないでください」を「お気遣いなく」と省略することもあります。たとえば、訪問先でお茶を出された際などは、「お気になさらず」や「お構いなく」と言うよりも「(どうぞ)お気遣いなく」と伝えた方が丁寧な印象となります。
・丁寧な言い回し:「お気にとどめられませんよう」
「気にとどめないで」を丁寧に表現した言い回しが「お気にとどめられませんよう」です。相手に「もう大丈夫なので気にしないでください」という気持ちを伝えたいときに使う表現方法で、目上の人や取引先の相手、クライアントなど幅広く使えるため非常に便利です。文頭に「どうか」「どうぞ」を一言付け足すことで、より相手を気遣った柔らかい表現となります。
・強調したいときの表現:「どうか、お気になさらないでください」
文頭に「どうか」「どうぞ」を付け加えることで、「気にしないでください」という気持ちがより強調されます。目上の人や取引先の相手などに「本当に気にしなくて大丈夫」という気持ちを伝えたいときには「どうかお気になさらないでください」と表現すれば、相手への配慮や気遣いの気持ちが伝わりやすいでしょう。
・より簡潔な言い方:「結構です」
「お気になさらないでください」を、最もシンプルに表現したのが「結構です」という言い回しです。ただ、相手や使い方によっては相手を突き放すような印象を与えてしまうため、ビジネスシーンではよほどの理由がない限り使わない方が賢明です。
一方、例えば自分が残業しなければならず、部下を待たせてしまうような場合には「気にせず帰っていいよ」という気持ちを込めて「先に帰って結構です」などと使っても問題ありません。「結構です」を使う際には、相手やシーンをよく見極めることが大切です。
「お気になさらないでください」の使い方と例文
「お気になさらないでください」について意味や言い換え表現などを紹介してきました。こちらでは、実際に「お気になさらないでください」を使う場合の正しい使い方について、例文と合わせて解説します。・相手がミスをした際のフォローに
相手の不手際でミスが発生し謝罪を受けた場合、「大丈夫です」「謝らないでください」といった意味合いで「お気になさらないでください」を使います。
「いいえ、どうかお気になさらないでください」
「私の確認不足でもありますので、お気になさらないでください」
・相手が体調を崩したときの気遣いに
相手が体調を崩し、フォローを依頼されたときにも「お気になさらないでください」が最適です。
「お互い様ですから、お気になさらないでください」
「どうかお気になさらないでください。無理はせず、ゆっくり体を休めてくださいね」
・自分の体調不良を他者に気遣わせないように
自分が体調不良となったものの、相手に「気を遣わないで」と伝えたいときには「大丈夫です」と言うよりも「お気になさらないでください」と伝える方が丁寧な印象になります。
「お気になさらないでください、昨夜遅くまで読書をしていて寝不足なんです」
「少し疲れが出たようです。どうかお気になさらないでください」
・有給休暇を取る際に気兼ねなく伝えるには
相手が有給休暇を取得する際、フォローを求められることがあります。その場合は、相手が気を遣わないで済むように、笑顔で「お気になさらないでください」と伝えましょう。
「お互い様ですよ、お気になさらないでください」
「今後のためにも出席してみたいと思っていましたので、こちらがお礼を言いたいくらいです。どうぞお気になさらないでください」
・旅行などで離れる際の心配を和らげるには
有給休暇と同じように、私事で仕事を休む場合も、相手は気を遣うものです。謝罪を受けたり「お土産を買ってくるからね」などと声をかけられることがあるでしょう。そんなときも「お気になさらないでください」と気持ちよく返事をすることで、よりよい関係性を築くことにつながります。
「仕事のことは、お気になさらないでください。楽しんできてくださいね」
「せっかくの旅行ですから、お土産のことなんてお気になさらないでください。帰ってきたらお話を聞かせてくださいね」
「お気になさらないでください」への返事の仕方
最後に、相手から「お気になさらないでください」と言われた際の正しい答え方について解説します。相手に気を遣わせないよう、それぞれのシーンに適した返事の仕方を身につけておくとビジネスシーンでも安心です。・感謝の気持ちを伝える:「お気持ちだけ頂戴します」
こちらの意に反して、相手が「気にしないで」というニュアンスで何かを提案してきた際、どうしても断りたいと感じることもあるでしょう。そんなときは「お気持ちだけ頂戴します」と伝えると、相手の心配や配慮に対して感謝の気持ちを表現しながら断ることができます。
「いいから遠慮しないで−ありがとうございます、お気持ちだけ頂戴します」
「せっかくですが、今回はお気持ちだけありがたく頂戴します」
・相手の気遣いを断る:「お構いなく」
「お気持ちだけ頂戴します」と同じように、相手の配慮や気遣いを断る際には「お構いなく」という返事も使えます。ただし、うっかり目上の人や取引先の相手などに一言「お構いなく」だけで済ませてしまうと失礼にあたるため注意が必要です。失敗しないためにも、なるべくビジネスシーンで「お構いなく」を使うことは避け、カジュアルな場面で使うのがおすすめです。
「ありがとうございます、本当にお構いなく」
「本当にありがたいのですが、どうかお構いなく」
・礼儀正しい受け答え:「ありがとうございます」
相手に「お気になさらないでください」と言われた際、最もよく使われるのが「ありがとうございます」という返事です。相手の配慮に対し、最も分かりやすく感謝の気持ちを伝えることができ、立場に関係なく使えるのもポイントです。
・気楽に接するよう促す:「お気軽に」
こちらの申し出に対し、相手が気を遣って「お気になさらないでください」と断った場合、繰り返し提案したり、「承知しました」などと答えたりするケースが多いですが、「何かあればお気軽にどうぞ」と返事をすると非常にスマートな印象となります。その後、何か必要なものがあったときなど、相手も気軽にお願いできるようになるでしょう。
「何かございましたら、お気軽にお申し付けください」
「必要になりましたら、お気軽にお声がけください」
・遠慮なく行動するよう勧める:「ご遠慮なさらず」
相手が明らかに遠慮して「お気になさらないでください」と言っていることが分かる場合は、「ご遠慮なさらず」という返事がおすすめです。ただし、相手が本心から気にしないでほしいと思っていたり、干渉しないでほしいと感じていて「お気になさらないでください」と言っている場合、しつこく使うと相手を不快な気持ちにさせてしまうことがあるため、見極めた上で使うことが大切です。
「どうぞご遠慮なさらず、召し上がってください」
「ご遠慮なさらず、思った通りにお伝えください」
まとめ
今回は、「お気になさらないでください」の正しい使い方や言い換え表現、相手に言われたときの適切な答え方などについて解説しました。「お気になさらないでください」は、「気にしないで」という気持ちをより丁寧に伝える際の言い回しで、目上の人や取引先の相手に対しても使える表現です。相手に遠慮や謙遜の気持ちを伝えたいときや自分のことを放っておいてほしいとき、相手を慰めるときなど幅広いシーンで使うことができる便利な言い回しですが、使うシーンによってニュアンスが異なるため注意が必要です。今回ご紹介した言い換え表現や、相手に言われた際の答え方をマスターして、「お気になさらないでください」という言い回しを、さまざまなシーンでうまく使いこなしましょう。
■執筆者プロフィール 酒井 千佳(さかい ちか)
フリーキャスター、気象予報士、保育士。
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK『おはよう日本』、フジテレビ『Live news it』、読売テレビ『ミヤネ屋』などで気象キャスターを務めた。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育にも携わっている。