ビジネスシーンで「やり取り」という場合、その意味は多岐にわたります。連絡を取り合うことや、会議をすること、そして取引を行うことなどは、全て「やり取り」と言い表すことができます。このように、さまざまな意味で使われる「やり取り」という言葉について、意味や言い換えの表現、場面ごとの使い方などを、現役フリーアナウンサーの酒井千佳が解説します。
<目次>
・「やり取り」の基本的な意味
・「やり取り」という言葉の語源や由来
・「やり取り」の言い換え・類義語
・「やり取り」の具体的な使用場面
・「やり取り」を使った例文
・まとめ
「やり取り」の基本的な意味
「やり取り」の意味を国語辞典で調べると、次のように説明されています。物品や、杯、そして言葉など、形のあるものからないものまでさまざまなものを取り交わすことを「やり取り」という言葉で表すことができます。(1)やったりとったりすること。ものをとりかわすこと。授受。交換。とりやり。
(2)杯をとりかわすこと。献酬。
(3)ことばのうけこたえをすること。また、口論すること。
出典:小学館『精選版 日本国語大辞典』
・意味(1)連絡
「やり取り」はビジネスでは「連絡」の意味で使われることもあります。情報を取り交わすという意味で、このような使い方がされています。
・意味(2)相談
「相談」も連絡と同様に、情報の受け渡しをすることから「やり取り」で表現されることがあります。情報や言葉は目に見えるものではありませんが、こうしたものの受け渡しについても「やり取り」という言葉で表すことができます。
・意味(3)対応
問い合わせなどに対して「対応」することも、「やり取り」と表すことができます。これも、主にビジネスシーンなどでの使い方です。
・意味(4)物の受け渡し
辞書の意味でも初めに説明されているとおり、「やり取り」は本来、物の受け渡しを行うことを表す言葉です。手紙を送りあうことなども、「手紙をやり取りする」と表現するほか、ビジネスにおいては取引があることも「やり取りがある」と言います。
・意味(5)人同士の交流
「やり取りがある」などという場合は、ある人とある人が関わりがあることも表します。実際に会ったことがある場合に限らず、電話やメールなどでの交流であっても「やり取りがある」といいます。また、人と人との会話のことも「やり取り」という言葉で表すことができます。
「やり取り」という言葉の語源や由来
「やり取り」という言葉は、「他人に物を与える」という意味の「やる(遣る)」と、「手に入れる・それまであったところから自分の側に移す」といった意味の「取る」という2つの言葉が組み合わさってできた言葉です。・「やり取り」の語源とその変遷
冒頭でご紹介した『精選版 日本国語大辞典』の「やり取り」の3つの意味には、それぞれ最も古いと考えられる用例が示されています。
(1)の「物の授受」の意味での用例は、江戸時代に古文書をまとめた『高野山文書』、(2)の「杯を交わす」の意味では、1836~1842年の『北越雪譜』、そして(3)の「言葉を交わす」の意味では1916年の『明暗』から用例が採録されています。このことからも、初めは物の受け渡しを表していた「やり取り」という言葉が、徐々に、酒を交わすことや、言葉を交わす意味でも使われるようになっていったことが分かります。
また、辞書では、言葉を交わすことのうち、特に口論をすることも「やり取り」の意味の1つとして記載されていますが、現在では、口論に限らず、何気ない日常会話や、和やかなコミュニケーションなども広く「やり取り」と表すようになっています。
・言葉としての「やり取り」が生まれた時代と文化
現在では、「やり取り」は「会話」や「連絡」など、「言葉を交わすこと」から派生した意味で使われることが多くなっています。「やり取り」という言葉が使われてきた歴史においては、「言葉を交わす」という意味での用例は比較的新しいものですが、通信技術が発達したことによって、人と人とのコミュニケーションが密に取りやすくなっていることも、その背景にあるのかもしれません。
「やり取り」の言い換え・類義語
さまざまな意味を表す「やり取り」ですが、使う際に少し注意が必要な点もあります。「やり取り」に含まれる「やる(遣る)」という言葉は、『精選版 日本国語大辞典』の説明で「現代では同等以下の人または、動植物に与える場合にいう」とされているように、目上の人に対しては使わない表現です。「やり取り」という言葉も、取引先などに対して使うと失礼な印象を与える場合もありますので、相手や場面によっては言い換えた方が良いかもしれません。ここからは、「やり取り」の言い換えとして使える言葉や類義語をご紹介しますので、参考にしてみてください。
・言い換え(1)情報交換
専門性の違う人同士が、互いの分野の知識や情報をやり取りすることは、「情報交換」という言葉で言い換えることができます。異業種の人との情報のやり取りや、他部署とのやり取りは、「情報交換」で言い換えられるでしょう。
・言い換え(2)受け答え
「やり取り」には言葉を交わす、会話をするという意味があります。情報交換や相談ほど込み入った話ではなく、当座での会話を意味するやり取りについては「受け答え」という言葉で言い換えることができます。
・言い換え(3)コミュニケーション
連絡を取り合っていることを「やり取りがある」と言いますが、こうした場合に使える言い換え表現が「コミュニケーション」です。ビジネスにおいては、取引先と良好な関係性を築いておくことは非常に重要ですが、そのために日頃からやり取りをすることは、「コミュニケーションを取る」と言い換えられるでしょう。
・言い換え(4)応対
「応対」は「相手になって受け答えをすること」を意味する言葉です。相手からの言葉を聞き、それに対して適切な言葉を返すことを意味しますので、「やり取り」と同じように使うことができます。
・言い換え(5)取引
サービスや商品を提供し対価を受け取る、もしくは、逆に対価を払ってサービスを受けたり商品を仕入れたりするのが取引です。実際に物やお金をやり取りすることを表す言い換えの表現として使える言葉です。
・言い換え(6)打ち合わせ
ビジネスを進める上では、担当者が集まって必要なことを確認したり、決定したりといったやり取りが不可欠です。こうした話し合いの意味で使われる「やり取り」は「打ち合わせ」で言い換えることができます。
・言い換え(7)問い合わせ
分からないことなどを相手に確認したり尋ねたりする意味で「やり取り」という場合、「問い合わせ」と言い換えることができます。「問い合わせ」という言葉自体は、尋ねるという一方的な行動を表すものですが、実際には、問い合わせがあればそれに対する返答や対応などが返ってくることが想定されますので、「やり取り」と「問い合わせ」は同じように使うことができます。
・言い換え(8)授受
「授けることと受けること」を意味する「授受」は、「遣る」ことと「取る」ことを意味する「やり取り」と言葉の作りも似ています。特に、形のある物をやり取りする場合などは「授受」で言い換えると良いでしょう。
・言い換え(9)交流
「交流」は、「異なる地域や組織などの人や物が互いに行き来すること」を意味する言葉です。人との関わりがあるという意味で「やり取りがある」という場合は、「交流がある」で言い換えることができるでしょう。
・言い換え(10)取り交わし
「取り交わし」は、「品物などをやり取りすること」や、「あいさつや言葉、約束などを互いに交わし合うこと」という意味があります。「やり取り」と同じように、物や言葉など、さまざまなものを交わすことを表せる言葉です。
「やり取り」の具体的な使用場面
ここからは、ビジネスや日常生活の中の具体的な「やり取り」をご紹介します。・ビジネスメール
ビジネスで「やり取り」という場合、メールによる連絡を指すことも多いでしょう。問い合わせや報告、進捗の連絡など現在ではメールを使っての情報交換が増えています。緊急ではない連絡などは、相手がいつ対応しても良いように基本的にメールで行うということも多いでしょう。こうしたビジネスメールも「やり取り」の1つです。
・取引先との会議
担当者同士が直接顔を合わせて話し合う会議のことも「やり取り」と言います。会議を含めた、取引先への対応全てを含めて「やり取り」ということもありますし、会議の中で出てきた会話や、話題などを指して「やり取り」ということもあります。
・顧客対応
ビジネスにおいては、取引先だけでなく、顧客への対応のことも「やり取り」で言い表すことができます。顧客に提案を行うことや、顧客からの相談に乗ったり、クレームなどに対応する場合も「やり取り」と言えるでしょう。
・友達付き合い
ビジネスシーンだけでなく、日常生活の中でも「やり取り」はあります。友人や知人と連絡を取り合ったり実際に会ったりすること、つまり、友達付き合いや知人との付き合いも「やり取り」の1つです。
「やり取り」を使った例文
最後に、「やり取り」という言葉を使った具体的な例文をいくつかご紹介します。・例文(1)以前よりやり取りさせていただいている件
ここでの「やり取り」は、「連絡」や「相談」などの意味で使われています。これは、ここまで説明してきたように、「言葉を交わす」という意味の「やり取り」から派生した使われ方です。
・例文(2)メールでやり取りする
「メールでのやり取り」という場合も、「連絡」や「相談」など、言葉を交わすという意味の「やり取り」から派生した意味で使われています。現在では、直接話すだけでなく、メールを送り合ったり、チャットツールを使って連絡を取り合うことも「やり取り」で表現されています。
・例文(3)この件についてやり取りする
この「やり取り」も、(1)や(2)と同様に、「連絡」「相談」の意味で使われています。また、状況によっては「対応」などの意味で使われる場合もあるでしょう。こうした使い方が、ビジネスシーンでは最も多いパターンかもしれません。
・例文(4)年賀状をやり取りする
「年賀状のやり取り」は、物を交換するという意味の「やり取り」を使った例文です。年賀状や手紙だけでなく、お中元やお歳暮などを贈り合う場合も「やり取り」ということがあります。
・例文(5)無駄なやり取りが生じる
「連絡」や「相談」の意味で使われる「やり取り」は、「やり取りする」のように動詞の形で使われるだけでなく、この例文のように名詞として使うこともあります。一度のやり取りで確認できることを、要領を得ずに何往復も連絡を取り合わなければならない場合など、「無駄なやり取り」と表現されます。
まとめ
「やり取り」は、物を受け渡すことや、言葉を交わすことを意味する言葉です。形のあるものから目に見えないものまで、さまざまなものについて受け取ったり渡したりすることを表すことができ、現在では幅広い意味で使われています。この機会に、「やり取り」の意味や、同じような意味で使うことのできる言い換え表現などを確認してみてください。■執筆者プロフィール 酒井 千佳(さかい ちか)
フリーキャスター、気象予報士、保育士。
京都大学 工学部建築学科卒業。北陸放送アナウンサー、テレビ大阪アナウンサーを経て2012年よりフリーキャスターに。NHK『おはよう日本』、フジテレビ『Live news it』、読売テレビ『ミヤネ屋』などで気象キャスターを務めた。現在は株式会社トウキト代表として陶芸の普及に努めているほか、2歳からの空の教室「そらり」を主宰、子どもの防災教育にも携わっている。