横浜市神奈川区の大口病院で、入院患者の八巻信雄さん(88)が点滴への混入物によって中毒死した事件で、混入された界面活性剤は「逆性せっけん」だったことが捜査関係者への取材で分かったと読売新聞が報じている。
逆性せっけんのうち、「塩化ベンザルコニウム(ベンザルコニウム塩化物)」は殺菌作用が強く、病院の玄関にあるような手指消毒剤や日用品などにも使われており、意外に身近で、多用に活躍している道具だという。身近なだけに使用に注意したいが、塩化ベンザルコニウムとはどのようなものなのか、住宅や家事に詳しいライターの藤原千秋氏がAll Aboutで以下のように解説している。
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逆性せっけん、「塩化ベンザルコニウム」とは
藤原氏によると、「塩化ベンザルコニウム」の担う役割は「消毒」「殺菌」が主で、無色・無臭という性質だという。そのため、病院の玄関にあるような手指消毒剤をはじめ、市販のウエットティッシュ、おしぼり、お手拭き、コンタクトレンズ洗浄液、制汗・デオドラント剤、家庭でよく使う有名な軟膏にも配合されていると藤原氏は説明する。
「塩化ベンザルコニウム(ベンザルコニウム塩化物)」とは、「陽イオン界面活性剤」の一種で、水溶液は「逆性石けん」として知られる。これらを総称して第4級アンモニウム化合物というと藤原氏は述べる。
藤原氏によると、「逆性」石けんという文字の通り、いわゆる普通の石けん(これは「陰イオン界面活性剤」、普通の合成洗剤やシャンプーなどもこちら)とは「逆の性質」を持った「陽イオン界面活性剤」であり、「石けん=シャンプー」なら「逆性石けん=リンス」のようなものだという。
つまり「塩化ベンザルコニウム」はリンスに近いものなので、それ自体に「汚れを落とす」洗浄力はないが、「陽イオン界面活性剤」は、プラスに帯電している性質から、マイナスに帯電しているタンパク質やセルロース(植物の繊維)に引き寄せられ、強く吸着する。このとき、細菌(タンパク質)やカビ(植物に近い)の表面を変性させ細胞を破壊することから「殺菌、消毒」剤として利用できると藤原氏は説明する。
「塩化ベンザルコニウム」の正しい活用法
「塩化ベンザルコニウム」は上手に活用できれば、きわめて安価に家庭のいろいろな箇所の殺菌、消毒ができる便利な素材だと藤原氏は説明する。
日本薬局方のベンザルコニウム塩化物液(逆性石けん液)として「オスバンS」という商品名の殺菌消毒剤が市販されている。これは安価で手に入れることができるといい、掃除用途に(清拭、噴霧用として)使用する場合、200~500倍に希釈して使用する(原液で使用することはまずない)。
この希釈した「塩化ベンザルコニウム・スプレー」は、リビング等の床や畳、手すり、洗面所や浴室、トイレ、また自家用車の座席や、冷蔵庫、電話機(受話器)、ゴミ箱等と言った広範なものの殺菌、消毒に活用できるという。家の中で雑巾のような臭いや、アンモニア臭のような悪臭が気になる場所、カビ臭さがある場所で使ってみると藤原氏は述べている。
また、この200倍~500倍希釈した液体に「漬け込む」かたちでも利用できるという。例えば部屋干し臭の酷いタオルなどは、一度洗濯して汚れを落とした後で水5Lに「塩化ベンザルコニウム」を10ml溶かしたバケツ等に30分~2時間ほど浸け置きすれば、臭いのもとになっている細菌を殺菌、浸した洗濯物を一度脱水してからもう一度普通に洗濯し直し乾燥させれば嫌な臭いが落ちるという。
なお、使用するときは、対象物に対して退色や変色のリスクが全くないわけではないので、最初は目立たないところで試してからの方が安心という。
塩化ベンザルコニウム使用の注意点
「塩化ベンザルコニウム」は「逆性」石けんなので、石けんのような汚れ落とし効果はない。また汚れ(有機物)に触れることで消毒、殺菌力が落ちてしまうため、かならず一度石けんで汚れを落としたものの「殺菌、消毒」に使用するようにすることも忘れてはいけないと藤原氏は指摘する。
陰イオン界面活性剤である石けんと、陽イオン界面活性剤である塩化ベンザルコニウムを混ぜて使う、同時に使う、すすがずに使うといったことはしてはならないという(打ち消し合って洗浄力も殺菌力も失われるため)。
「殺菌、消毒」に役立つと言っても万能ではなく、結核菌、緑膿菌などの菌、また基本的にウイルスに対しては効果がなく、インフルエンザ、ノロ、ロタウイルスによる嘔吐物の処理、感染防止の掃除などにも役立たないという。
適切に希釈するという点も必ず守ってほしいと藤原氏は呼び掛ける。無意味に高濃度の使用をして皮膚に触れると化学やけどを起こすことがあるという。原液を希釈する際には、手に触れたり目に入ったりしないよう注意が必要で、希釈したものを使用する際もゴム手袋等もはめておいた方が無難という。
また、一度希釈した水溶液は、もったいないからと残さず、できればトイレ掃除などに転用して当日中に使い切るようにしてほしいと藤原氏は述べる。誤飲などすると命に関わるため、ペットボトルを使用した希釈は避けたほうが望ましいという。また、原液の保管は子どもの手に触れない場所にしてほしいと藤原氏は説明している。
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