資生堂が「人財変革」を宣言
ニュースリリースによれば、資生堂の考える「人財」とは、「自己革新」の能力を持つ人のことだ。具体的には、「新しい価値を創造する力」「デジタルツールを理解し、成長・収益拡大や生産性向上に活かせる力」「すべてのリソースに対して、リターンを最大化する稼ぐ力」などだという。同社ではこのような「自己革新」を目指す社員には、必要な能力獲得とリスキリングなどを支援する「ミライキャリアプラン」をスタートしていくという。ご存じの人も多いだろうが、資生堂の国内事業は苦戦が続いている。コロナ禍前は中国人観光客の「爆買い」の恩恵を授かったが、「インバウンド消滅」で2022年度のコア営業利益は130億円の赤字に転落。アフターコロナの2023年度には18億円の黒字に回復をしたが、まだ厳しい状況だ。そこで、この苦しい局面を「人財」の力で突破しようというわけだ。
ただ、その一方で報道によれば、資生堂社員の中にはこの「人財変革宣言」にかなり困惑をして気分が落ち込む人もいるという。
美辞麗句が並んでいるのでなんとなく素晴らしい話だけに聞こえるが、受け取り方によっては「会社が考える人財になれない社員はとっとと転職してくださいな」と遠回しに告げられているような気もするからだ。
早期退職支援は、力のない社員への肩叩き?
実は前出「ミライキャリアプラン」にはもう1つの道がある。「今回の変革を転機に今後のキャリアを社外で選択する社員」(ニュースリリース)に対しては、早期退職支援をするというのだ。これは現行の早期退職制度に加えて、「特別加算金」と「再就職支援サービス」を追加したというもので、同社の想定では資生堂国内事業社員の1割にあたる約1500人だという。
「会社が成長をしていくためには社員の自己革新が必要だ、全力で応援していきます」と声高に叫びながら、社員の1割にあたる人々に対しては、優しく「退職」の背中を押す。確かに、これでは資生堂が考える「自己革新」についていけなさそうな「力のない社員への肩叩きでは?」と取られてしまうのもいたしかたあるまい。
もちろん、資生堂は2015年から管理職にジョブ型雇用を導入して2021年から一般社員へと拡大するなどグローバル企業への移行がかなり進んでいるので、ほとんどの社員は会社側からこういう話が飛び出すのは「覚悟」していたはずだ。
しかし、そうは言っても実際に「会社はこういう人間を求めています」と全世界にアナウンスするのと同時にわざわざ早期退職制度をひっつけて公表されたら、「会社は我々のことを大切にしていないのでは」と気を悪くする社員もいるはずだ。
冷静に考えれば当然だ。例えば、もし仮に今回の「ミライキャリアプラン」で早期退職を選んで競合他社へ転職をした場合、新しい職場の人たちはこんな色眼鏡で見てしまうはずだ。
「ああ、あの人は資生堂が求めていた、生産性向上とか稼ぐ力を獲得することができずにリストラされたんだな」
そこに加えて、今回の経営改革に一部の社員がネガティブな印象を抱くのは、あるワードをチョイスしてしまったことが大きいと考えている。
それは「人財」だ。