アラサーが考える恋愛とお金 第29回

仕事×子育てを両立できるのは「ごく一部の恵まれている女性」か。女性の社会進出という“風潮”が苦しい

「働くママ」「仕事と子育ての両立」について、時にメディアはキラキラしたイメージで発信してきた。しかし、現実は時間とストレスに追われ、経済的にギリギリな状況の中で必死に子育てをしている女性たちがいる。少子化の今、彼女たちは何を思うのか。

キラキラした「キャリアママ」のイメージ。でも現実は……
キラキラした「キャリアママ」のイメージ。でも現実は……

少子化が加速している。厚生労働省が発表した「人口動態統計」によると、2023年の出生数は過去最少の75万8631人。出生数は前年比5.1%減となり、8年連続の減少となった。さらに婚姻件数も戦後初めて50万組を下回り、48万9281組に。この現実を、子育て世代のアラサー女性たちはどう感じるのか。本音を聞いた。

 子育て×キャリアの現実。“キャリアママロールモデル”は虚像?

 「思い描いていた理想と現実のギャップが大きかった」
 
こう話すのはナツミさん(仮名/31歳)。彼女は、都内にある広告代理店に勤務する1児の母だ。1年間の産育休を経て、昨年職場復帰を果たした彼女だが、妊娠中~出産後にこんな思いを抱いていた。
 
「子育てとキャリアを両立させたいという思いが強く、バリバリ働くかっこいいお母さんを目指していました。グループ会社の先輩には、子育てキャリアママとしてインタビューを受けている方がいたし、その手の自己啓発本をよく読んでいたので、キャリアも子育ても両立できると信じていて」
 
しかし、自身が子育てを経験すると、キャリアママのインタビューに登場する女性たちは、ごく一部の恵まれた層であると感じたという。
 
「ぶっちゃけフルタイムで子育てをするのは大変。体力的にもだし、子どもを預けて仕事をするという罪悪感もありました。その時、キャリアママの“ロールモデル”とされている女性たちはごく一部の恵まれている女性なんだな、と気づいたんです。

例えば、会社の福利厚生がすごく充実しているとか、自身の実家の両親が子育てに積極的に参加してくれるとか、子どもを預けることに対しての罪悪感が薄いとか、金銭的に余裕があり、育児サービスをたくさん利用できるとか」
 
ナツミさんの両親は地方に住んでいて家族のサポートを気軽に受けられる環境になく、夫も仕事が忙しい。ほぼワンオペ状態の子育ての現実は、理想とはほど遠かったという。
 
「今の少子化対策は、働く女性に焦点を当てたものが多い。私にとってはありがたいです。でも、好条件がそろっている“ごく一部の恵まれた女性たち”の声を大きくして『子育てとキャリアは両立できる』『女性もみんな働こう!』みたいな、女性の社会進出とか働くのが当たり前という風潮が、少子化に追い風をかけているのではないかなぁ、と感じたり……」
 
ナツミさんは、パートや派遣社員として、時間に融通の利く働き方も選択肢に入れたいと話す。
 
「2人目が欲しいと思いますが、また育休をとるとなると、会社への迷惑も考えてしまって。子育てとの両立も厳しいかなって。とはいえ、金銭的なことがあるので簡単にはやめられない、というのが本音です」

「自分らしい生き方」を求めて新卒フリーランスの道を選ぶも……

 ナツミさんのように、キャリアと子育てとの両立の理想と現実のギャップに悩む人はほかにも。
 
「自分らしく働きたいと新卒でフリーランスになったものの、金銭的な理由から子育てには後ろ向きです」
 
こう話すのは、フリーランスで仕事をしているカナコさん(仮名/28歳)。彼女は結婚を視野に入れ、パートナーと同棲中。パートナーは4つ年下のサラリーマンで、生活費はカナコさんと折半だ。
 
「2人の共通口座があり、毎月決まった金額をいれて、そこから家賃、食費、光熱費などを支払っています」
 
日々の生活は充実しているものの、彼と結婚後のビジョンに対する不安は大きいという。
 
「結婚すると、次は子どものことを考えるようになる。私がもし妊娠したとなっても、フリーランスなので、産休育休などの保証は当然ありません。今は2人で働いているから不自由なく生活できているけれど、私の収入がなくなり、さらに子どもが増えるとなったときの不安が大きくて。フリーランスを選んだ自分の自己責任と言われたらそれまでなんですけど……」
 
今のカナコさんの住むマンションは“2人で働く”前提の家賃設定だという。パートナー1人が負担するには金額が大きい。
 
「今後を見据えて、都心からの引っ越しを検討したいと思っています」

メディアがもてはやす「キャリアママ」のイメージの功罪

カナコさんのように、自分らしい生き方を求め、あえて非正規の働き方を選ぶ人が増えている。
 
総務省が発表した「労働力調査 2023年 平均結果」によると、25~34歳のうち、「都合の良い時間に働きたい」として非正規になった人は2023年に73万人となり、10年前より14万人増。一方「正社員の職がない」という理由で非正規雇用を選ぶ人は減少しているという。
 
前述のカナコさんもその1人だ。新卒で内定が出た企業もあったものの、あえて正社員は選ばず、フリーランスを選択した。
 
しかし現在、経済的な理由で今後のキャリア形成に悩んでいる。
 
「私がフリーランスを選択したのは、当時自分らしく働き、子育てをする女性フリーランスや若手起業家のニュースを見たから。それに憧れ、あえてフリーランスになりました。その選択は決して後悔していないけれど、やはり子育てという現実的な問題に直面した時、経済的な面で悩むようになりました」
 
冒頭の正社員として働くナツミさん、そしてフリーランスのカナコさん。それぞれ雇用形態は違えど、キャリアと子育ての間の現実と理想のギャップに悩んでいる。
 
そのギャップを生んだのは、メディアがもてはやしたキャリアママの“ロールモデル”とされている女性たちでもあった。ナツミさんはこう語る。
 
「子育て世代は、理想よりも現実をしっかり伝えた上で、子育て制度の充実を求めていると思います」
 
アラサー女性たちは、現実的に今後のライフプラン形成を考えている。

この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
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