SNSやマッチングアプリで、他人を見定めること、比較することが日常的な習慣になってしまった人は多い。気軽に“出会える”時代、独身アラサー女性たちの“理想の相手”のハードルは上がり続けているという。
「人気会員」とのマッチングを諦められない30歳女性
今や主流となったマッチングアプリでの出会い。気軽に出会えるがゆえ、こんなこともある。
「前日にデートをドタキャンされて音信不通になってさ」
ため息交じりに話すのは、A子さん(仮名/30歳)だ。彼女は審査制のマッチングアプリを使って、恋人探しをしていた。
A子さんが初デートの約束をしていたのは、広告代理店勤務の28歳。年収は800万円以上、出身校は有名私立大学のハイスペック男性だ。名前は、ローマ字1文字で“Y”と表示されている。写真はスーツ姿の横顔。筆者は直感で「遊んでいそう」という印象を持ったのだが……。
「もう1通、メッセージ送ってみようかな……!」
前日まで楽しくメッセージのやりとりをしていたA子さん。直前のドタキャンにひどく落ち込んでいる様子だ。私は励ますつもりで「男性は星の数ほどいるんだし。忘れよ! 次いこ!」と声をかけた。しかし、A子さんはこう強く言い放った。
「いや、会いたい! だって彼、人気会員だよ!」
人気会員とは、マッチングアプリ上で女性から「いいね」を多くもらった男性のこと。
A子さんが使っているアプリ上では、毎日、女性から「いいね」をもらった数の多い男性会員が、ランキング形式で更新されている。彼は人気会員TOP20に入っていた。
日常生活では出会えないハイスペック男性と音信不通に
A子さんのように、マッチングアプリでマッチした男性と音信不通になった経験を持つアラサー女性は多い。
「3回デートして、付き合いました。でもその後、連絡がつかなくなって」
こう話すのは、マッチングアプリで出会った男性と交際2カ月で音信不通になってしまったMさん(仮名/20代後半)だ。
「付き合った当初から、1週間以上LINEを放置されたり、大事な話を無視されたりすることがありました。最終的に既読すらつかず、完全に音信不通になった感じです」
交際は当初から順調とは言えないすべり出しだったが、その後1カ月間、Mさんは彼からの連絡を待ち続けたのだ。それには理由があった。
「彼と出会ったのは、審査制のマッチングアプリで。普通に生活していたら、彼以上の人にはなかなか出会えないと思ったのもあって、音信不通の後も彼を引きずってしまった」
Mさんの職場は年配の男性が多く、出会いはほとんどなかったという。だからこそ、彼との出会いを無駄にしたくはなかったのだ。
その後、Mさんのもとに、彼から連絡がくることはなかった。
出会うハードルが下がり、“理想の相手”のハードルが上がる
冒頭に紹介したA子さんやMさんは、いずれ結婚したいと考えている。しかし彼女たちは、“ただ”結婚したいのではなく、“理想の相手”と結婚したいのだ。
2021年に実施された「出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)」の「結婚と出産に関する全国調査」によると、独身男女の結婚に対する意欲は年々下がり続けている。
男女ともに、2000年代に入り、「一生結婚するつもりはない」の増加が目立ち、「いずれ結婚するつもり」が減少。30~34歳の未婚男女のうち、男性は4人に1人、女性は5人に1人が結婚の意思がない。
一方、結婚する意思のある未婚者を見てみると「ある程度の年齢までには結婚するつもり」「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくてもかまわない」と考える割合は、ほぼ半々。2015年の同調査と比べ、男女とも「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくてもかまわない」と考える割合が高まり、男性では 48.6%(前回:42.9%)、女性では 51.7%(前回:39.2%)となっている。特に女性の上昇率が目立つ。
この“理想の相手”とはいったいどのような相手を指すのだろうか──。
A子さんの理想は、高収入の男性。しかし、彼女の近くには、彼女が理想とする相手はいない。彼女は「職場や学生時代の地元の男友達と、恋愛したり結婚したりするのは絶対いや」だという。自身の職場の給与がよくないことや、学生時代の男友達に“結婚向き”な人はいないと考えているからだ。
だからこそ普段出会えない“理想の相手”を求めて審査制のマッチングアプリを利用した。そして冒頭の彼とマッチングしたが……、デートには至らなかった。
A子さんの考えには、友人のInstagramも影響している。
「昔の知り合いがいつの間にかインフルエンサーになってて。アプリ婚をして、キラキラした生活を送っている。インスタにアップされる生活を見ているとうらやましくて、私もこんな結婚したいなって」
マッチングアプリで世界中の人たちと出会うことができるようになり、SNSで“理想の結婚生活”を見せられる時代。男女が出会えるハードルは下がり、理想の相手のハードルが上がっている。
一方で、アラサーに差し掛かり、現実的にパートナー選びをするようになる人も。Mさんには、友人の紹介で最近恋人ができた。同じ大学、同じ出身地の男性で、結婚を見据えた順調な交際を続けている。
「マッチングアプリで出会いの場が広がったとはいえ、結局自分に近い人と付き合うのが一番幸せになれる方法なのではないかと思います。アプリはもうこりごり」
前述の苦い経験を経て、Mさんはこのように語った。
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。