お受験するご家庭は、経済的に裕福なケースがほとんどです。そして、「家庭の経済力」と「子どもの学力」には、相関関係があることがさまざまな調査によって分かっています。
これは、経済力があることにより、早い段階から塾や習い事といった教育を受けられること、あるいは、学校選択という点においても選択肢が広がることが要因として考えられます。
しかし、裕福な家庭に生まれて、幼少期から英才教育を受けて育った子が必ず成績優秀になるかというと、そうとは限りません。むしろ、そうした英才教育のせいで、かえって低学力に育ってしまうこともあるため注意が必要です。
逆に、経済的に恵まれない家庭で育っても、成績優秀になる子もいます。
その違いをもたらす要因は何なのでしょうか?
高所得・低所得の家庭にみられる典型的な子育てスタイルについての調査
お茶の水女子大学名誉教授の内田伸子先生は、高所得と低所得の家庭で、子育てスタイルの傾向に違いがあることを発見しました。この調査によると、高所得の家庭に典型的な子育てスタイルは、子どもの学力を高める傾向があり、低所得の家庭に典型的なスタイルは、学力を下げる傾向があったそうです。そして、低所得の家庭でも、前者のスタイルで子育てをしていた場合には、学力は高くなる傾向があることも分かりました。
まず前提として、子どもの「学力格差」はすでに幼児期に始まり、それが小学校以降にも影響していることが分かっています。幼児期に豊富な語彙力をもっている子は、小学校での国語学力と強い関連性があったそうです。
では、その幼児期の豊富な語彙力は、どうすれば育てられるのでしょうか?
内田伸子先生は、東京・ソウル・上海の3歳・4歳・5歳児各1000人、計3000組の親子を対象に調査をおこないました。
親の学歴、しつけのスタイル、早期教育への投資度合いなどさまざまな項目について、アンケートをおこない、分析にかけて、子どもの語彙力や国語学力との関係性を調べました。
その結果、子育てのあり方や子どものしつけに対するスタイルが、学力に対して影響を与えていることが示されたのです。
3つのしつけタイプ「共有型」「強制型」「自己犠牲型」
では次に、その子育てスタイルの違いについてご紹介します。ここでは、しつけのタイプが「共有型のしつけ」「強制型のしつけ」、そして「自己犠牲型のしつけ」という3つに分類されています。
「共有型のしつけ」とは、子どもとの触れ合いや会話を大事にし、楽しい経験を子どもと共有しようとするスタイルで、家庭の調和や親子・夫婦の会話を大事にしている傾向があります。
一方、「強制型のしつけ」は、「子どもを自分の思い通りに育てたい」「子どもが言うことを聞かないと罰を与える」「子どもが親の言うことを聞かないと、分かるまでガミガミ責め立てる」というタイプの関わり方です。
また、「自己犠牲型のしつけ」は、親が自分を犠牲にして子育てに取り組み、負担感を強く感じている関わり方を指します。
そして、学力との関係ですが、「共有型のしつけ」をしている家庭(日本と韓国)では、子どもの語彙力や国語学力が高くなる一方で、「強制型のしつけ」をしている家庭(3カ国とも)では、子どもの語彙力や国語学力が低くなることが明らかになりました。
また高所得層では、蔵書数が多く、「共有型のしつけ」をしている家庭が多いことが分かりましたが、低所得層であっても「共有型のしつけ」スタイルをとる親のもとでは、子どもの読み書き能力・語彙力は高くなりました。
一方、低所得層では、蔵書数が少なく、「強制型のしつけ」をとる親が多いことが分かりましたが、高所得層であっても「強制型のしつけ」のもとでは、読み書き能力・語彙力は低くなりました。
つまり、子どもの学力は、家庭の経済力以上に、しつけのスタイルに影響を受けているということが分かったのです。
先取り教育より自由保育をおこなう園の方が語彙力が高い
またこの研究では、幼稚園や保育園の「保育形態」と「学力」の関係についても分析しています。それによると子どもの語彙力の差は、「幼稚園か、保育園か」の園種ではなく、保育形態の差によって生じていることが分かりました。小学校の教育を先取りして学習を行う幼稚園や保育園の子たちに比べて、子どもの自発的な遊びを大事にしている、自由保育の園に通う子たちは、読み書き能力・語彙力が高かったそうです。
つまり、家庭だけでなく幼稚園・保育園でも、子どもへの関わり方の違いが学力に影響を与えていることが分かったのです。周囲の大人が「子どもの主体性」を大事にすると、学力は高くなり、親や先生からのトップダウンな関わり方が多くなると、学力が低くなることは、子育てを通じていえることなんですね。
小学校受験となると、ついつい熱くなってしまう親御さんが多いものです。中学受験や高校受験でも同じかもしれません。
合格してほしいために、練習をさせなきゃ、勉強をさせなきゃと思い、強制的な関り方をしてしまうことが増えます。それは、子どものためを思う尊い気持ちの表れではあるのですが、残念ながら、結果として学習意欲や探究心の低下を招き、学力低下へとつながっていきます。
子どものためを思ってしていることが、かえってマイナスの結果になってしまうのは、もったいないものです。あらためて子どもの成長を引き出す関わり方を再確認し、日々実践していくように心がけてみてはいかがでしょうか。
菊池洋匡 プロフィール
中学受験専門塾 伸学会代表。開成中学・高校・慶應義塾大学法学部法律学科を卒業。算数オリンピック銀メダリスト。子どもたちの成績を上げるだけでなく、勉強を楽しむ気持ちや困難を乗り越え成長していくマインドを育てる方法を確立。生徒と保護者に「勉強には正しいやり方がある」ということを一貫して伝え続ける。