親しい友人からカミングアウトを受けたら?
決死の覚悟を必要とするカミングアウトを、今でも多くの当事者はできずにいます。2019年のLGBT総合研究所の調査によると、職場でカミングアウトしている人はわずか3%。親きょうだいに言えない人も多く、言えたとしても良好な関係を保てる保証はありません。
職場であれば、上司や人事部などが、アライ(=支援者)として守ってくれるなど、誰か周囲でサポートしてくれる人がいるという安心がないと、なかなかカミングアウトできません。支援体制があったとしても、打ち明けるのは困難です。
日本で、最も早くからLGBTQ支援の施策を行ってきた外資系企業のゲイの方でも、職場でカミングアウトするまでに10年かかったという話もあります。幼少期から学校でいじめられたり、テレビでゲイがネタとして侮辱される様子が放映されたり、周囲でも差別的な言動があふれていた中で、言ったらどんな目に遭うか……という恐怖心は相当なものがありました。
もし親しい友人からカミングアウトを受けたら、その勇気を称え、「よく言ってくれたね」と言ってあげるとよいでしょう。同時に、あなたのことを信頼して打ち明けてくれたことに感謝してもいいと思います。
「恋愛は男女でするもの」という異性愛主義に当事者は苦しめられてきた
カミングアウトとは、相手に対して本当の自分を知ってもらうことで、より良い関係性を再構築したいという思いでなされるもの。
一度カミングアウトすれば万事解決ということではなく、当事者としての困りごとや生きづらさを伝えたり、あるいはパートナーがいることや幸せに暮らしていることを伝えたりする中で、伝えた相手が支援してくれるようになったり、安心したり、互いに絆が深まったりすることもあるのです。
黙っていたら異性愛者・シスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が一致している人)と見なされてしまう、世間の人たちに「恋愛は男女でするもの」と思い込ませてしまう大元にあるものを「異性愛主義」「異性愛規範」といいます。
異性愛者は日々、恋人や配偶者、結婚、家族のことなどを周囲に話すこともありますが、同性愛者は気軽に話すことができず、聞かれたらごまかしたりうそをついたり……もしくは、勇気を出してカミングアウトするかの選択を迫られるため、ここに非対称(不平等)があります。異性愛主義や異性愛規範による「結婚しないの?」などの声掛けが“圧力”として作用し、当事者を苦しめてきました。
日本では、なぜカミングアウトがしづらくなっているのか
海外の多くの国々では、LGBTQ差別禁止法があり当事者が守られていますが、残念ながら日本ではそうではありません。インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷コメントも野放しのため、LGBTQ当事者は日々傷ついたり、表に出ることを恐れたり、絶望に追いやられたりしています。そのような状況も、カミングアウトできない大きな要因です。
同性愛に対する非合理的な嫌悪・憎悪・恐怖のことを「ホモフォビア」といいます(心の中で「気持ち悪い」と思うことではなく、侮辱や差別、暴力という言動として社会的に現れるものを指します)。
ホモフォビアが根強い社会では、同性愛者やバイセクシュアルのカミングアウトが難しく、トランスフォビアが根強い社会では、トランスジェンダーのカミングアウトが困難なのです。
ですから、「恋人といえば異性」と決めつける言動をやめるなど異性愛規範が「当たり前」になっている現状を変え、ホモフォビアやトランスフォビアをなくしていくことが大切です。安心してカミングアウトできる社会をつくるために、みんなでLGBTQのことを理解し、“アライ”になるよう努めましょう。
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この記事の執筆者:後藤純一 プロフィール
All Aboutのセクシュアルマイノリティ・同性愛ガイド。アウト・ジャパン執行役員。京都大学卒業後、ゲイ雑誌編集者、校正者などを経て、Webメディアを中心にライターとして活躍。過去に、東京のレインボーパレードの実行委員やHIV予防啓発などのコミュニティ活動にも携わる。