先日、日本でも話題になったBTSメンバー・JINさんの入隊問題。韓国のK-POPグループがこれほどまでに日本のメディアで騒がれたことがあったでしょうか。BTSはバイデン大統領との対談、国連でのスピーチ登壇など、韓国を代表する役割をも務めてきただけに、彼らが世界レベルのスターであるということは、ファンでなくとも周知のところです。
某アメリカ経済専門誌では、BTSが毎年韓国経済界に36億ドル以上も貢献しているとし、彼らが兵役に就くことで韓国は莫大な消費財輸出などのチャンスを失うとの予測を立てていましたが、それほどのスターである故、彼らの兵役問題は数年前から国会をも巻き込むイシューの1つとなっていました。
BTSの兵役が韓国社会にもたらす影響、またそもそも韓国における兵役制度とはどうなっているのでしょうか。なぜそんなに騒がれてるの? と疑問に思う人に向けて、韓国ならではの事情を韓国在住の筆者が解説します。
韓国の兵役とは
そもそも「兵役」という言葉は、現代の日本では既になじみのない単語かもしれません。ただし韓国人にとってはいまだに緊張感を伴う身近な義務の1つとして存在しています。第2次世界大戦後、韓国と北朝鮮間で起きた朝鮮戦争は、1953年に休戦協定が結ばれていますが、言葉通り戦争が終結したわけではありません。
ムン・ジェイン元大統領は「終戦宣言」を呼びかけ、朝鮮戦争の終戦を1つの課題として推し進めてきましたが、残念ながら在任中に実現することはありませんでした。韓国は旅行を楽しむ分には戦闘による危険など一向に感じられない、安全で平和な旅行先の1つですが、国家としてはあくまで「休戦」中なのです。
その韓国では満18歳になると、徴兵検査の対象者となり、満20~28歳までに入隊して約2年間(服務期間は配属部隊により異なる)軍隊に服務することになっています。 青年時代の貴重な時間を軍隊に費やさねばならないため、韓国人男性にとっては極めて深刻で敏感にならざるを得ない問題です。さらに付け加えると、除隊後も満40歳までは、有事には動員される民防衛隊に所属する扱いで、年10日、50時間関連訓練を受けねばなりません。これが韓国のリアルなのです。
新しき兵役法改正案「BTS法」
現在韓国では、五輪やW杯などのスポーツ、音楽、伝統芸能などの分野で良い成績を収め、「国際的地位を高めるために貢献した者」らが兵役免除の対象とされており、2002年のW杯サッカー代表メンバーが特例免除を受けた事例はあまりにも有名です。
しかし、大衆芸能は対象外。BTSも多くの国家貢献をしているのになぜ対象外とされるのか? 2018年、ある国会議員が投げかけたこの疑問を発端に、BTSは軍隊に行くべきか、免除すべきかという論争が始まりました。
そして2020年には「大衆芸能の分野で顕著な貢献のあった者は30歳(数え年)まで入隊時期を延長可能」とする新しい兵役法改正案が正式に国会で通過することになります。これがいわゆる「BTS法」です。
その後も、あえてBTSメンバーを「免除」にすべきか否かという議論が交わされてはきましたが、「兵役免除」の法案が可決に至るまでには、高いハードルが存在します。世論調査では兵役免除に過半数の賛成があったという報道もありましたが、この特例を適用するのに、過半数程度では納得できない世論があります。大衆芸能は別物だと考える層があるのはもちろん、そもそも兵役は国民の義務であり、それを免除するというのは公平性に欠けると考える国民も少なくないのです。