「他人」と書いて何と読むか尋ねられれば、ほとんどの人が「たにん」だと自信を持って答えられるはずです。では「他人事」はどうでしょう。そのまま「たにんごと」と読むほかに、「ひとごと」という読み方も聞いたことがあるはずです。
今回は「他人事」の正しい読み方をフリーアナウンサーの笠井美穂が解説していきます。
・「他人事」の意味とは
・他人事の本来の読み方は「ひとごと」「たにんごと」どっち?
・放送や新聞の現場で「他人事」の使い方は?
・「他人事」の読みは「ひとごと」が適当
「他人事」の意味とは
「他人事」の意味は、読んで字のごとく、「自分とは無関係な、他人に関する事」です。「他人事とは思えない」「(自分自身のことなのに)まるで他人事のような顔をしている」といった使い方をします。他人事の本来の読み方は「ひとごと」「たにんごと」どっち?
「たにんごと」という読みも一般的になりつつあるため辞書に記載されてはいるものの、「他人事」の本来の読み方は「ひとごと」で、「たにんごと」と読むのは誤りです。
・本来は「人事=ひとごと」だった
「他人」と書くのに、なぜ「たにん」とは読まず「ひと」と読むのか不思議に思うかもしれませんが、そのヒントは、この言葉のルーツにあります。
1889年から1891年にかけて発行された国語辞典『言海』には、次のような項目があります。
ひとごと【人事】 他人ノ事
この辞書には「他人事」「たにんごと」という項目はなく、この時代においては「人事」と書いて「ひとごと」と読むのが一般的だったことが分かります。
ただ、「人事」と書いて「じんじ」と読むこともでき、これは別の意味の言葉になります。NHK放送文化研究所のWebページ(2005年12月12日掲載)で指摘されているように、「ひとごと」を「人事」と表記すると「じんじ」と区別できないため、「他人事」の表記が支持されるようになり、ここから「たにんごと」という誤った読み方が生まれたと考えられます。
放送や新聞の現場で「他人事」の使い方は?
本来は誤用だったとはいえ、多くの人が使うようになっている「他人事=たにんごと」という表現。放送や新聞ではどのように扱っているのでしょうか。共同通信社が出版している『記者ハンドブック第13版 新聞用字用語集』には、ひとごと (他人事・人事)→人ごと・ひとごと(ではない)
〔注〕「他人事=たにんごと」は使わない。
と記載されています。
かっこ内の表現は矢印以後の表現に書き換えた方が適切であるとしているもので、「他人事」や「人事」は、「人ごと」または「ひとごと」と表記するのが良いとされています。
放送ではどうでしょうか。先ほどのNHK放送文化研究所のWebページによると、
平成12年(2000年)2月に放送用語委員会でこの件について改めて審議しました。その結果、「タニンゴトということばは誤読から発生したもので、原則として使わない」ことにし、従来通り「表記は○ひと事 ×他人事 読みは○ヒトゴト ×タニンゴト」と決めています。
とあり、同様の判断がされています。
「他人事(たにんごと)」という言葉は一般的になってきてはいるものの、放送や出版などの分野では原則として「ひと事・人ごと・ひとごと」などと表現するのが適当だと判断されています。
「他人事」の読みは「ひとごと」が適当
ここまで見てきたように、「たにんごと」という表現は世間一般では浸透しているものの、正しい表現とは言えません。「他人事」の読み方は「たにんごと」ではなく「ひとごと」が適当でしょう。
また、「ひとごと」と文字で書く場合は、「他人事」と書くよりも、本来の表記である「人事」にならい、「人ごと」や「ひと事」、「ひとごと」とした方が、読み方に迷うこともなく、より良いといえそうです。