完全なる縦社会、男性社会の実態
陸上自衛隊の元女性隊員が勤務先で受けたセクハラをYouTubeチャンネル「街録ch」を通じて告白した。彼女はセクハラ、パワハラでとうとう自衛官を退職。現役中に自衛隊はもとより警察にも相談したが、らちが明かなかったという。辞めてようやく公表することができたわけだ。それにしてもこの内容、あまりにひどい。
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訓練後の宴会で、上司が「彼女に格闘の技を決めろ」と指示し、酔った男性隊員が彼女に首を締める技をかけ、足を割って腰を振るという内容。その様子に周りも“笑っていた”というが、個別の男性隊員が問題というよりは、この上司に代表される、いわゆるホモソーシャル的な「ノリ」が問題なのである。
完全なる縦社会、そして男性社会の代表ともいえる自衛隊。そこに入ってきた女性は、飛んで火に入る夏の虫のようなもの。とはいえ、看護職ではない一般女性自衛官の採用は1967年から始まっているので、すでに50年以上の歴史がある。最近では1.7万人程度(2020年3月末)と増加傾向にあるというが、それでも自衛隊全体に占める女性の割合は7%程度だ。
圧倒的な数にものを言わせて女性自衛官にセクハラを仕掛けるのは、あまりに幼稚すぎるのではないだろうか。
「ノリなのだから」「場の雰囲気を壊してはいけない」
こういう大勢の人がいる中でのセクハラ行為に、当の女性はどうやって対応したらいいのだろうか。「女性がひとりだと、なかなか抗えないですよね。しかも酒の上でのノリなのだから場の雰囲気を壊してはいけないと、女性自身も忖度してしまう。周りもはやしたてる、力では勝てないとなると、早く終わってくれと淡々と応じるしかなくなってしまう」
過去に勤めていた職場の宴会で似たような被害にあったというマイコさん(30歳)は、いまだに酒の席は苦手で出席しないと語る。
「当時、26歳で、10人ほどいる部署で女性は私ひとり。男に負けじと重い物を持ったりもしていたので、『女っぽくないな』といつも言われていました。あるとき、長く続いた繁忙期がやっと終わり、夏だったので暑気払いでもということになった。近くの温泉に一泊して夜は宴会となって……。そのときに私の10歳上の先輩に対して部長が、『おまえ、マイコに恋愛を教えてやれ』と言い出して。『ほら、またがってキスしろよ』みたいな声が飛んだんです。もちろん逃げようとしましたが、先輩の力が強くて。しかも先輩は泥酔していましたから、部長に言われるがままだった。ただ私、空手をやっていたので、先輩を必死の思いで蹴り上げて逃げたんです」
そのまま警察に電話をかけて被害届を出した。会社の知るところとなり、部長は懲戒処分を食らったが、彼女もまた会社にはいられなくなった。
「ただ、会社も警察に通報されたからしかたなく処分したという感じ。余計なことをして、という雰囲気はありました。他部署の女性が、『私もあなたの部署にいるときにやられたよ』と言っていたから、その部署特有の悪しき伝統だったのかもしれません。女性社員がいないときは、どうやら若い男性社員が被害にあったこともあるらしいんです」
「悪しき伝統」をベテラン社員は楽しんでいた?
悪しき伝統といいながら、おそらくベテラン社員たちは楽しんでいたのだろう。一般的にはへどが出るほど残酷な仕打ちだと思うが、やっている方は理解できずにいるという典型的な場面だ。「護身術みたいなものは覚えておいたほうがいいと思います。私は男女問わず、これからの時代は小学生に護身術を教えるべきだと考えています。あとは我慢しないこと。どんなに場の雰囲気を乱しても、金切り声を上げても、嫌なものは嫌というしかない。これも小さいときから訓練しないとむずかしいかもしれませんが」
現在、マイコさんは女性の多い職場で働いているが、通勤電車や街中で大きな声が聞こえたり、ちょっと人とぶつかったりしただけでビクッとすることがある。まだ傷は癒えていないのだ。そしてこれからも癒えることはないのかもしれない。
「男性同士がつるんだときの、あの下品な集団心理と、上から言われて従うしかない心理。自衛隊員の方の話をネットで見て吐き気がしました。あの方は強い。私ももっと強く生きていこうと思いました」
マイコさんは最後に唇の端に力を込めた。
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亀山 早苗プロフィール
フリーライター。明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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