政府が2022年6月7日に発表した「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」の中にある「資産所得倍増プラン」が話題になりました。
現在2000兆円あるとされる金融資産を投資に回すのが狙いですが、その背景にはどのような考えがあるのでしょうか。資産運用や経済に詳しいセゾン投信の中野晴啓会長に話を伺いました。
Q :政府が「資産所得倍増プラン」を言い出したのはどうしてでしょう?
セゾン投信 中野晴啓会長(以下、中野会長):内閣発足当初、岸田総理が資本市場に対してとても厳しい政策を打ちだすのでは?と思える発言がありました。その1つが「金融所得課税の増税」です。投資をする人から税金をたくさん取るということなので、政府が掲げる「貯蓄から投資へ」とは真逆の政策でもあります。
加えて企業の自社株買いを制限するべきとの発言もあり、資本市場の自由な取引に対する規制と受け止められました。また、金融商品取引法で上場企業に対して開示が義務付けられている「四半期報告書」の見直し発言もありましたよね。資本市場の透明性が危ぶまれることもあり、株式市場に大きな打撃を与えたのは記憶に新しいと思います。
川崎さちえ(以下、川崎):確かに、日経平均株価も大きく下げましたね。
中野会長:株価が下がったことによる国民の不信感、そして資本市場からの反発もありました。それに対して「いやいや、資本市場にとっても悪い事ばかりじゃないですよ」と伝え、過去の発言を否定する意味があるのが「資産所得倍増プラン」なんです。
Q :金融所得課税が増税される話はなくなる?
中野会長:金融所得課税の増税は、投資をする人にとっては「え?」と思える政策です。一度は発言したけれど、どうやらそうではなさそうです。正直なところ、僕にもよく分かりません……。
でも資産所得というのは金融所得のことなので、資産所得を倍増しながら金融所得課税を増やすのは、明らかに矛盾しています。現在(2022年8月時点で)優先するのは資産所得倍増でしょうから、しばらくの間は金融所得課税については手をつけないのかなとは思います。
ただ現在日本の金融所得課税は20%で、これは世界的に見ても高くはありません。今すぐというわけではないですが、今後増税という話がぶり返してもおかしくないでしょう。
Q :資産所得倍増プランを打ち出す岸田総理自身が投資をしていないという話もある。中野会長はどう思う?
中野会長:確かに説得力は弱いかもしれません。
川崎:投資はリスクがあることなので、まずは岸田総理がリスクを負って投資をする姿を見せてくれ!というのが国民の声なんだと思います。だっておかしくないですか? リーダーが実践しないことを国民に勧めるのって。例えば中野さんが自社のファンドを買っていないのに、お客さんに勧めるようなものですよ。
中野会長:今現在、岸田総理は株式を保有していないようですが、それは問題の本質とは関係がありません。非課税制度を使って資産形成することがすごく大切というのが岸田総理の言いたいことなので、自分で実践していただけると説得力も出てきますね。
岸田総理の「資産所得倍増プラン」の背景についてセゾン投信の中野会長にお聞きしました。次回は実際に資産を倍増させるにはどうすれば良いのかをお聞きします。
【プロフィール】
中野 晴啓(なかの はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役会長CEO
1987年、現在の株式会社クレディセゾンへ入社。株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信株式会社を設立、2007年4月代表取締役社長就任。2020年6月より現職。一般社団法人投資信託協会副会長、公益財団法人セゾン文化財団理事、公益社団法人経済同友会幹事。現在、複数のファンドアワードを連続受賞している国際分散型長期投資ファンド2本と特化型運用の日本株ファンド1本を設定、運用、販売。顧客数約16万人、預かり資産額は5,000億円を超える。著書は『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい。』(ダイヤモンド社)、『今すぐできる! iDeCoとつみたてNISA超入門』(扶桑社)他多数。
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