さつまいもの生産地といえば、どこを思い浮かべますか? 農林水産省が発表している「作物統計」(令和2年)によると、都道府県別の収穫量1位は「鹿児島県」(21万4700t)。2位「茨城県」(18万2000t)、3位「千葉県」(9万200t)。
2月27日まで「さいたまスーパーアリーナ けやきひろば」で開催中の「さつまいも博2022」では、さつまいもの有識者が選ぶ「日本さつまいもサミット2022」で「ファーマーズ・オブ・ザ・イヤー」と「さつまいも・オブ・ザ・イヤー」を各5つずつ選出。鹿児島県や茨城県の生産者、さつまいもが受賞する中、W受賞を果たしたのが長崎県五島市のごと株式会社と、同社が手掛ける「五島ごと芋」です。
2007年頃から五島市でさつまいもの製造販売を始めた同社。販売する「五島ごと芋」の特徴やおいしさの秘密を伺いました。
シリーズ累計120万袋以上! 冷凍焼き芋「五島ごと芋」とは
――どのようなきっかけで「五島ごと芋」の製造販売を始めたのですか?
ごと株式会社(以下、ごと):創業者が五島市出身で、「五島の名産品を作りたい」「五島の雇用促進に貢献したい」との思いからUターンし、会社を設立しました。もともと食品関係の仕事をしていたので、「食」を軸に事業を展開しています。
――さつまいもに着目した理由は何だったのでしょうか。
ごと:五島は沖縄、鹿児島、和歌山の次にさつまいもが伝来しており、江戸時代から栽培されています。日本の中でもさつまいも栽培については比較的歴史がある方で、「かんころ」と呼ばれるさつまいもを天日干しにしたものは五島の郷土菓子「かんころ餅」に使われ、また芋焼酎なども生産されています。農作物は土地に適していないと衰退してしまいますが、現代まで継続して栽培が続いていたので、「土地に合っている」と考えたそうです。
また、ちょうど2003年頃から第4次さつまいもブームが発生し、「作る」「売る」どちらにも適した食材としてさつまいも事業をスタートしました。
※かんころ餅:さつまいもをスライスして茹でて干したものを「かんころ」と呼び、この「かんころ」と餅、砂糖やあめなどを混ぜ合わせたお菓子のことです。郷土菓子として五島の家庭では昔から作られています
――それまで五島市ではさつまいもの製造販売はなかったのでしょうか。
ごと:生芋での販売が全くないわけではありませんが、「ごと」は新しい3つのことに取り組みました。
1つは、ブームになりつつあった「ねっとり系」の安納芋を取り入れたこと、2つ目は「ごと芋」という新しい農作物のブランドを作ったこと(商標登録済み)。3つ目は生芋ではなく当時まだほとんどなかった「冷凍焼き芋」として売り出したことです。1つ目は、当時五島市ではあまり取り入れられていない品種であり、2~3つ目は五島市では初の試みでした。
ごと:五島の中でのさつまいもというと、生芋と「かんころ餅」にして販売されることが多いです。
――苦労したポイントや工夫された点を教えてください。
ごと:冷凍焼き芋を通販で売ることからスタートしているのですが、通販は実際に商品を手に取って購入するわけではないので、お客さまのハードルが高く、少しの傷でもクレームになることがありました。
反対にお客さまの声に応えようときれいなものだけを製品にしていると、生産している芋のうち半分くらいしか焼き芋にできないという問題が発生してしまいました。このお客さまと生産者の間の立場であることが1番大変なところでした。
そのため芋の選別基準も毎年見直し、お客さまにおいしくてきれいな焼き芋を届けるとともに、傷の付いたものはペーストにしてスイーツに使用するなど、ロスをできるだけ減らし、その分生産者の方に還元する仕組みを作っています。
ごと:また、芋の買取価格を3段階に分けることで、おいしい芋を作ろうと工夫されている方にはA評価を付け、高い金額で買い取ります。生産者のモチベーションアップにつなげるとともに全体のレベルアップも図っています。
さらに現在も通販中心で販売しており、ギフトラッピングの充実(芋の成長過程を包装紙のイラストに採用)、季節ごとのセット品展開、定期購入など、楽しく買い物をしていただけるように工夫しています。
芋は10月に収穫後、約40日熟成させるためお届けするのが12月頃になってしまいます。お客さまが待っている間に安心感を持ってもらうため、芋の様子を毎週メルマガで配信するなどコミュニケーションを取るようにしています。
――他のさつまいもと「五島ごと芋」の違いは端的に言うと、何でしょうか。
ごと:おいしさです。濃厚ながらもしつこくない、優しい甘みとねっとりした食感が特徴です。
――現在はどんな商品を扱っていますか?
ごと:「ごと焼き ごと芋」「石焼ごと芋 プレミアム」をはじめとする冷凍焼き芋、郷土菓子のかんころ餅、スイートポテトなどの芋製品と、「五島の鯛で出汁をとったなんにでもあうカレー」をはじめとするレトルト食品、他社のレトルト製造受託業務もしております。
――その商品は、どこで食べられますか?
ごと:通販や不定期で行われる全国の百貨店の催事、そのほかレトルト食品は小売店への卸もしているので全国で見かけると思います。五島では「おみやげ&カフェ ごと」を運営しているので、カフェでもお召し上がりいただけます。
――W受賞された「日本さつまいもサミット2022」ですが、評価ポイントやアピールポイントはどのような点だったのでしょうか?
ごと:最近取引業者の方からも味について高評価をいただくことが多いので、味で評価いただいたのかなと思っています。審査員の方からも「非常に質の良いお芋」というお言葉をいただきました。また、環境にやさしい作り方をしているという評価もいただきました。
おいしい芋を作ろうと思ってやってきたことが、結果的に環境にもやさしいと評価をいただき、さらにうれしくなりました。アピールポイントは農薬・化学肥料を使わずに栽培しており、皮まで安心してお召し上がりいただけること(この度、有機JAS規格も取得しました)や、温度・湿度管理をした部屋で約40日熟成すること。生産記録を付けてデータ化していることが挙げられると思います。
――今後の販売計画は、どのように考えていますか?
2年後の売上目標は2.5倍です。焼き芋だけでなく、新しいスイーツも発売したいと考えております。現在はスイートポテトを製造するだけで芋の在庫がなくなってしまうので、まずは3倍の生産量を目指して畑の開拓をしたいと思います。
――ありがとうございました。
長崎県五島市から生まれた「五島ごと芋」。気になる人は通販や、27日まで「さいたまスーパーアリーナ けやきひろば」で開催中の「さつまいも博2022」をのぞいてみてはいかがでしょうか。
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