購入? サブスク? 自分に合った車の利用方法を検証
今注目されているサブスクリプション(通称サブスク)とは、定額料金を支払うことで一定期間そのサービスの利用権が得られるビジネスモデルです。
代表的なものに音楽や動画の配信サービスがありますが、最近ではファッションや食べ物、家電といった生活に密着したあらゆる分野に取り入れられています。
そのなかで「車のサブスクリプション」があることをご存じでしょうか?
車はライフスタイルに合わせて利用方法を選択する時代
車は高額かつ維持費がかかるため所有するかしないかでライフプランが大きく変わります。
しかし今では「所有する」だけではなく「一定期間借りる」「シェアする」など、それぞれのライフスタイルに合わせて車の利用方法を選択できるようになりました。
代表的な車の利用方法「購入」「カーリース・サブスクリプション」「カーシェア」のメリットとデメリットを確認してみましょう。
選択肢が増えたことでより多くのご家庭で車を利用しやすくなった一方、それぞれメリットとデメリットが異なるため、自分に合った車の利用方法を選択するのが以前より難しくなっているかもしれませんね。
今回はマイカーを検討中のご家庭を例に、最適な車の利用方法を家計シミュレーションで検証してみたいと思います。
相談内容
今はカーシェアを利用していますが、これから家族が増えるので車の購入を考えています。車を持ったら家族でたくさんキャンプをするのが夢なんです。
現在の預貯金は300万円。今すぐ購入するなら頭金は150万円、足りない分はマイカーローンを利用しようと思っています。ただ妻が仕事を始めるのはまだ先になりそうですし、子どもが生まれ支出が増えることを考えると、今購入してよいものか不安です。
また頭金を支払うと預貯金が150万円ほどになるため、頭金がいらない最近流行りのサブスクリプションも気になっています。
車を保有しながら、教育費や老後資金を確保していくためにはどのような対策をとればよいのでしょうか?
前提条件
今回行うシミュレーションの前提条件は以下の通りです。
▼家族構成
- 相談者(夫):30歳、年収600万円(うちボーナス100万円)
- 妻:28歳、現在無職(第2子が小学校入学を目安にパート勤務希望(年収150万円見込み))
- 今年第1子を出産予定。2年後に第2子を希望している
▼現在の家計
- 現在の生活費:月18万円(保険・住居・教育費・車関係費用を除く)※子どもが1人増えるごとに3万円UP
- 特別支出:帰省旅行費・キャンプ備品購入費など年間35万円(75歳まで)、家具家電費年間10万円(80歳まで)
- 退職金:1000万円(ともに60歳退職予定で退職金は夫のみ)
- 貯蓄(預貯金):300万円
- 保険:月額保険料2万2000円
▼住居・教育費について
- UR賃貸住宅(3LDK)に居住、更新料なし。家賃月11万5000円(共益費込み)
- 火災保険年1万円
- 子どもたちの進路:幼稚園は私立、小学校〜高校まで公立、大学は私立文系(自宅通学)を予定、第2子が小学校低学年のうちは学童保育を利用(年間12万5000円)
中古車購入時のシミュレーション
ではまず現在の状況で中古車を購入したときのシミュレーションをみてみましょう。
購入希望の車の条件は以下の通りです。
- 購入希望の中古車:3〜5年落ちのミニバン(購入価格200万円、諸費用込み)
- 頭金150万円
- 不足分はマイカーローンを利用(借入金額50万円、金利2.55%、返済期間5年、毎月返済額9000円)
- 7年ごとに買い替え予定(予算200万円、現金一括払い)、70歳まで車に乗ると仮定
また中古車(ミニバン)購入後の1年間にかかる維持費はこちらです。
- 車検費用:10万円(2年ごと)
- 自動車税:年4万円
- 駐車場代:月8000円
- ガソリン代:月6000円
- 自動車保険:年5万円
⇒年間合計30万8000円
(※この金額はあくまで今回の相談者の例です。車種や年式、走行距離やお住まいの地域などによって大きく異なりますのでご注意ください)
上記条件で中古車を購入した場合のシミュレーションはこちらです。
図にある緊急予備資金とはケガや病気といったリスクに備えて、一般的に生活費3〜6カ月分の確保が推奨されているものです。今回は約120万円となります(生活費・住居費・保険料などを含む費用の3カ月分で計算)。
それを踏まえると、相談者が34〜41歳の8年間で緊急予備資金が足りない状態が続き、そのうち38〜40歳の3年間は金融資産がマイナスとなっています。
この要因として「お子さまの教育費が発生し始めること」「奥様が仕事を始める前に車を乗り換えるタイミングがくること」などが考えられます。
ちなみに相談者が38歳のとき、現金一括ではなく再度同じ条件でマイカーローンを利用して乗り換えをしても結果はほぼ同じでした。
また老後に目を向けてみると、60歳で退職金1000万円を受け取った後は収入よりも支出の方が多いことから徐々に資産は減っていき、84歳時点でキャッシュアウトとなっています。
サブスクリプション利用時のシミュレーション
それでは次に、サブスクリプション利用時のシミュレーションをみてみましょう。
車は中古車購入時と同じ「3〜5年落ちのミニバン」とし、その他の条件は以下の通りです。
- 契約期間は7年
- 月額料金は5万円
- 契約終了時は車を返却し、改めて別の車を契約(月額料金は同様とする)
- 70歳まで継続と仮定
また1年間にかかる維持費はこちらです。
- 駐車場代:月8000円
- ガソリン代:月6000円
- 自動車保険:年5万円
⇒年間合計21万8000円
税金(法定費用)や自賠責保険料、各種手数料、車検およびメンテナンス費用は定額料金に含まれており発生しないことから、維持費は購入時よりも9万円安くなりました。また商品によっては任意の自動車保険も定額料金に含められる場合もあるようです。
上記条件でシミュレーションした結果がこちらです。
グラフの形は購入時とほぼ同じですが、比較するとこのようになります。
- 緊急予備資金の足りない期間……購入:8年間/サブスク:10年間
- そのうちの金融資産のマイナス期間……購入:3年間/サブスク:7年間
- 老後のキャッシュアウトのタイミング……購入:84歳/サブスク:73歳
金融資産のマイナス期間や老後のキャッシュアウトのタイミングに大きく差がでる結果となりましたね。
サブスクリプションは頭金不要のため、預貯金に余裕のない相談者の家計には合っているかもしれないと思われましたが、それ以上に定額料金が家計にとって大きな負担となってしまったようです。
このようにサブスクリプションは車両代金や各種サービスが含まれた料金体系のため、希望する車の料金が想像よりも高額になってしまう可能性があります。
オンラインで契約できる手軽さゆえの安易な契約は避け、長い目で見て本当に家計にとって負担がかからないか契約前にきちんと確認しましょう。
購入後の問題の改善策は?
2つのシミュレーションを比較した結果「購入」が相談者さまの家計にとってよいということがわかりました。
しかし金融資産のマイナス期間や老後のキャッシュアウト問題があることから、何かしらの改善策が必要といえます。
<購入後の金融資産マイナスに対する改善策>
●第2子が幼稚園に入園するタイミングで妻が働き始める(年収60万円)
原因の一つに「家計の総収入が少ない期間に頭金150万円という大きな負担が2回発生する」という問題があります。
その問題を解消するために、奥様の働き始めるタイミングを3年間前倒しすることをご提案いたします。
しかしまだお子さまが幼いためあくまで家庭優先とし、勤務時間は1日4時間・週3日程度で、幼稚園の一時預かりなどを利用しながら無理のない範囲で働くものとします。
●車の購入時期を4年(相談者35歳まで)遅らせる
残念ながら上記の改善策を実施しても問題は完全に解消されませんでした。
そこで車の購入時期の変更を検討したところ、4年間遅らせることで金融資産のマイナスおよび緊急予備資金の不足を解消することができました。車を購入した翌年に奥様が働き始めることで、頭金の出費を収入面でリカバリーできたのです。
また4年後は第1子が5歳・第2子が3歳で、家族でキャンプへ出かけるにはちょうどよい年齢ではないでしょうか。もしそれまでに「キャンプに行きたい!」となったらキャンピングカーをレンタルするというのも楽しそうですね。
<老後のキャッシュアウトに対する改善策>
●子どもが独立後、2人暮らしに適した部屋に住み替える
子どもが独立されるタイミングで、2人暮らしに適した広さのお部屋に住み替えを検討されてはいかがでしょうか。
家賃9万円の2DK(2年更新・更新料2カ月分・火災保険料1万5000円(2年ごと))に住み替えたとすると、毎月の家賃が2万5000円減少します。
●老後はカーシェアを利用する
また、駅近の物件に住み替えれば、車を利用する機会は減ることが予想されます。
そこで、よりライフスタイルに合った維持費やメンテナンスの手間がかからないカーシェアを利用されてみてはいかがでしょうか。
相談者60歳以降、買い物や遠距離ドライブで毎月2万円程度利用とすると、維持費の負担が減り、年間6万8000円の節約となります。
改善後のシミュレーション
以上の改善策を実行したときのシミュレーションがこちらです。
金融資産のマイナスは解消され、緊急予備資金は最低でも200万円をキープ、そして老後のキャッシュアウトも解消することができました。
また相談者さまは車の購入時期についてお悩みでしたが、今回の場合、車を購入する最適なタイミングは35歳ということになります。
▼その他の対応策
今回ご提案した対策以外にも「子どもの成長にあわせて車種を変更する」や、維持費を抑えるために「任意保険を見直す」「費用が安い車検ショップを探す」「燃費のいい車種にする」「減税制度が適用される車種を選ぶ」などの対策をとることも可能です。
どれも固定費の削減につながるため、長い目でみると大きな効果があります。
まとめ
今回は相談者さまにとって「中古車購入が最適」という結果となりました。
しかし例えば費用面ではなく「車検やメンテナンスの手間がかからないこと」を最重視するならサブスクリプションを選び、その上で対策を考える必要があったでしょう。
このように車選びで何を重視するかはとても大切です。利用方法の選択肢が増えたからこそ、自分の中で優先順位は明確に決めておきましょう。
車選びが将来のライフプランに与える影響はとても大きいものです。じっくりと自分に合ったサービスを見極め、快適なカーライフを送ってくださいね。
この記事を執筆したのは……
金井 優子(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)
兵庫県出身、藤沢市在住。新しい分野への挑戦が好きで、CA、フリーアナウンサーを経てFPに。現在は年子男子の育児をしながら、FPとして活動している。出産後の家計管理に奮闘した経験から、子育て世代に寄り添うFPを目指している。