8月6日夜、東京・小田急線の車内で36歳の男が刃物で乗客を切りつけ、10人が重軽傷を負う事件が発生しました。逮捕された男が「車内への放火を計画していた」と話していたことから、無差別殺傷事件になっていた可能性もあります。
無差別事件において被害者に落ち度はなく、加害者による卑劣で身勝手な犯行であることに間違いはありません。そのうえで、私たちは無差別を称する犯罪に対し、自衛のために少しでもできることはあるのでしょうか。事前に危険を察知するために最低限できることとは――。All Aboutの「防犯ガイド」で安全生活アドバイザーの佐伯 幸子さんに聞きました。
【編集部より】今回被害に遭われた方に心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い回復をお祈りいたします。
安全に対する「意識格差」があることから認識を
――電車内、もしくは外で、私たちは何を気をつけていれば良いのでしょうか。
佐伯さん:まず、自宅を一歩出た先で自分がどんな風に振る舞っているか、安全に対する自分の認識を把握することからはじめてみてください。
人は育った環境や地域によって安全に対する「意識格差」があります。例えば場所によっては、近所の家がどこも鍵をかける習慣がない地域があるかもしれません。そうした地域で育った人は、都市部の人が多い場所に引っ越してきた場合、周囲の人よりも安全意識が低い可能性があります。
また、経験の有無も関係してきます。痴漢など何らかの怖い経験がある人は、そうでない人に比べて防犯意識が高くなっています。電車や階段を利用する日はスカートを履かない、自分に近づく見知らぬ人を警戒する、夜道を歩くときはスニーカーにする、などの対策をするようになるので、未対策の人とはすでに差があるわけです。
「誰でもいい」わけじゃない! 加害者には理由がある
――狙われやすい服装や立ち振る舞いはあるのでしょうか。
佐伯さん:よく事件が起きると容疑者の「誰でもよかった」というコメントが紹介されますが、彼らは自分が確実に襲撃できる相手を選んでいます。自分より弱い相手、子どもや女性、高齢者、要するに体が大きくなく、力も弱いだろう、反撃されないだろうと見た目で判断しているのです。
電車内に不審者がいることを想像してみてください。その人が自分を狙う危険性があるか、そういう視点で服装にも気をつける必要があります。
例えば電車の車両内にいて、自分は真っ先に狙われるタイプかそうでないかを周囲の人たちと比較して、体格や服装などの見た目から自分自身の危険度を考えてみましょう。
電車内では自分がVIPかつボディガードになったつもりで過ごす
――電車内ではどのように過ごしたらよいのでしょうか。
佐伯さん:物音や気配に敏感となり、五感をフルに使って身の安全を図ってください。キョロキョロするのではなく、なにげなく、さりげなく、ゆっくりと自然に周囲を見るのがポイントです。
――長時間乗車する場合、ずっと緊張状態でいるのは難しいかもしれません。何かコツはありますか?
佐伯さん:緊張感は長く続きませんので、駅に着いたタイミングや人の動きがあったときなど、ポイントポイントで緊張感を取り戻すようにしましょう。コツは、自分をVIP(Very Important Person)、かつSP(Security Police)やボディガードであると考え、自分を俯瞰して見ることです。
VIPはSPがいるからこそ、気を緩めることができますが、SPは任務中に気を抜くことはありません。誰でも自分こそが重要な人物です。SPは常にVIPの前後左右360度を見て不審者の接近などを警戒しており、異変を速やかに察知してVIPを安全にガードします。VIPとしてだけでなくSPとしても自分の身を守ってください。
映画や動画などの映像をイメージして、自分がその主人公になったつもりで周囲の状況を把握しましょう。もし後ろに人が立ったら、さりげなく移動するなど何らかの行動が取れるはずです。
スマホに集中しすぎて「周りが見えない」「聞こえない」状態は危険
佐伯さん:最近は電車内を見渡すと、ほぼ全員がスマートフォンを見ています。スマホに集中していたら、異変に気付くのが遅れ、1秒を争う状況下では非常に不利だと自覚しましょう。
駅に停車した際には、乗車してくる人の中に何か違和感を覚える人がいないか、自分の周囲の安全確認をしましょう。不審者には必ず不穏な動きがありますので、姿勢を良くして周りをさりげなく見ておかなければいけません。そして少しでもイヤな予感がしたら、状況を慎重に見て別の車両に移動する、電車から降りるなどしましょう。一人一人が自分の身を守る行動をすることがひいては全体の安全につながるのです。
多くの車両内の連結部ドア横には「非常通報装置」(車内非常ボタン、非常連絡ボタンなど)が設置されています。自分がいつも利用する電車はもちろん初めて乗る電車でも必ず乗車時に、そうしたボタンの位置を確認しておきましょう。
家を一歩出たら、外は常に「黄信号か赤信号」
――電車以外でも、外にはさまざまな危険が潜んでいます。今から何か行動に移せることがあれば、教えてください。
佐伯さん:電車内、駅ビルや勤務先のビル内、映画館や公共の場所、公園など、度合いは違えど、家を一歩出たら、そこは「黄信号か赤信号」の状態であることを忘れないでください。
犯行の種類としては、直前まで相手に気づかれないように行動する場合と、「ガンつけたな」など目が合ったことがきっかけになる場合があります。見知らぬ人とは極力、目を合わせないほうが安全です。しかし、状況はしっかり分かっておく必要があります。
人を見るときは、相手の「のど元(男性ならネクタイの結びなど)」「あご下」を見る習慣を身につけるといいでしょう。他人と目を合わせずに、それでいて目に入る情報を見落とさずにすみます。
佐伯さん:「防犯ブザー」を持つのも有効です。音や形も様々なタイプがあり、子どもや女性だけでなく高齢者や男性が持つこともできる最も身近な防犯グッズです。警報音は周囲の人に何かあるのかと気づいてもらえますし、大音量で不審者に犯行を思いとどまらせるなどの効果が期待できます。
警視庁は、無料の防犯アプリ「Digi Police(デジポリス)」を提供しています。防犯ブザー機能が搭載されおり、「痴漢です 助けてください」と周囲に助けを求める文字画面を出すこともできます。困っている人、いざというときに声が出せないと思う人は入れておくと安心でしょう。
この世で怖いのは、「ゆうれい」よりも生きている人間
佐伯さん:この世で怖いのは、「ゆうれい」よりも凶器を振り回す生きている人間です。自分に近づく不審な人物や危険な気配にいち早く気づいて安全でいられるように、自分の命を守る行動をしましょう。
――ありがとうございました。
今回佐伯さん教えていただいたことを今すぐにすべて、ではなく一つずつ確実に習慣にしていくことが個々人が危機意識を少しずつ高めるために大切なのかもしれません。自分でできる万一に備えた対策や工夫をしていきたいですね。
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