貯蓄1300万円、もうすぐ年金生活。孫に教育資金を送っても大丈夫?

年金生活を迎える頃には、孫が可愛くて仕方がないという方も多いのではないでしょうか? 今回は孫に対して教育資金の援助を検討した場合、どのような点に注意すべきかを自分たちの介護資金と合わせてシミュレーションしました。

貯蓄1300万円、もうすぐ年金生活。孫に教育資金を送っても大丈夫?

教育資金は生涯の中でも大きな出費となり、子供1人当たり1000万円ともいわれています。

今回は、孫に教育資金の援助を希望されているご夫婦を例に、教育資金援助と自身の介護費用について考えてみたいと思います。
 

相談内容

神奈川県在住のご夫婦。結婚して独立した子供の家に1歳の孫がいる。今後大きな出費の予定はなく、リタイア後は年金だけで生活できそうなので、貯蓄の一部を孫へ教育資金として援助したいと考えている。

そこで、具体的に次の2点を相談したい。

1. 貯蓄から孫に500万円を援助したいと考えている。援助しても資金不足にならないか知りたい。

2. 孫の教育資金を援助するときの注意点と、対処法なども教えてほしい。
 

相談者の基本データ

相談者の基本情報や家計状況などは以下の通りです。

家族構成

・夫(59歳)、正社員
・妻(56歳)、パート
・独立した子供2人(現在、孫は長男宅に1人)


収入
・夫:年収750万円(うちボーナス150万円)
60歳の退職後は関連会社で働くことを検討中。関連会社で働く場合は、65歳まで年収120万円の見込み。

・妻:年収60万円(ボーナスなし)
60歳で定年となるが、65歳まで延長可能。年収60万円の見込み。

年金、退職金など
・夫:厚生年金、退職金1500万円の見込み
・妻:国民年金、退職金なし

現在の状況
・住居:戸建所有、毎月のローン返済額14万2000円。固定資産税、年間10万円(30歳で3500万円の新築戸建て購入。頭金500万円、借入金3000万円、金利4.5%)
・貯蓄:1300万円(このうち定期預金500万円、金利0.002%)
・生活費:毎月約20万円(保険・住居費を除く)

保険
<夫>
終身保険:300万円=保険料の支払い完了
介護保険:終身入院給付5000円、介護一時金50万円、介護年金60万円=保険料9377円/月

<妻>
終身保険:200万円=保険料の支払い完了
介護保険:終身入院給付5000円、介護一時金50万円、介護年金60万円=保険料1万794円/月

<家屋>
火災保険=保険料1万2600円/年
地震保険=保険料3万8000円/年

その他のご要望、予定など
・75歳までご夫婦で旅行を希望。2年ごとに予算10万円
・退職金1500万円のうち約1000万円を住宅ローンの一括返済に充てる予定
・介護が必要になったときの具体的な計画は行っていないが、できるだけ自宅で過ごしたい
・メンテナンス程度のリフォームを考えている。概算でシミュレーションしてほしい
 

現状のシミュレーション

相談者のご要望をもとに、60歳で退職された場合の資金のシミュレーションを行いました。ご自宅のメンテナンス費用には60歳時に屋根と外壁で200万円、75歳時に水回り350万円を費用として加算しました。その結果が次のグラフです。
図1 現在の状況をもとにしたご夫婦の金融資産推移(milize Proを使用してシミュレーション実施)
図1:現在の状況をもとにしたご夫婦の金融資産推移(milize Proを使用してシミュレーション実施)

グラフの黄色の部分は住宅ローンの残金、青の部分は現金化できる資金を表しています。

シミュレーションの結果、夫の収入がなくなった60歳から資金が減少し、65歳頃に資金が少なくなるものの、この条件では資金がマイナスになることはないようです。
 

注意したほうがいいこと

では、本当に資金は足りるのでしょうか? 気を付けていただきたいことが2点あります。

注意点1:夫婦の介護資金
まず1点目、ご夫婦の介護資金についてです。自宅で過ごす場合、介護状況によっては備品の購入や自宅のバリアフリー工事が必要になる可能性があります。公益財団法人生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(平成30年度)によると、備品購入等の一時費用は平均69万円、毎月の介護負担費用は平均7万8000円になるそうです。

介護施設で過ごす場合は自宅での介護よりも費用が割高になる傾向がありますので、自宅で介護しきれなくなり、施設に移る場合は、先ほどの費用例よりも高額な介護費用がかかる可能性もあります。

まずは、自身の介護で子供に費用面の負担をかけないよう、資金計画を立てることが大事かもしれません。

注意点2:今後、孫が増える可能性も
次に2点目、今後孫が増えた場合です。1人目に500万円の教育資金援助をしてしまうと、今後も孫が生まれるたびに援助してもらうことを期待される可能性があります。

資金調達ができなくなった時点で援助をやめてしまうと、援助してもらった孫としてもらえなかった孫で不公平感が生じてしまうかもしれません。

子供や孫のためを思って行った援助がトラブルのもとになってしまっては残念です。孫が増えても同様に援助できる金額を検討しましょう。
 

いくらくらいまでなら孫への援助ができる?

では、具体的にどのくらいの援助ができるか検討してみます。

介護費用は、自宅介護の平均値とします。また、85歳の時点で介護が必要になったとして、100歳まで同額の費用が掛かるとしてシミュレーションを行いました。

介護費用は、1人につき毎月7万8000円ですので、ご夫婦では15万6000円となり、生活費と比べると割高になります。

介護費用をまかなうために、ご夫婦で定年後も働くことで生涯収入を増やすことや、運用に興味がある場合には、預金の一部を国債やつみたてNISAで運用するなどの方法があります。個人向けの国債であれば元本割れの心配はありませんし、つみたてNISAは元本割れの危険性はあるものの比較的低リスクの商品です。

次に介護費用を支払いつつ、孫に公平に援助できる方法を考えてみます。

今後、孫が増えたときのために1人あたりの金額を少額にして資金を残しておく、入園・入学などのタイミングでお祝いとして渡すなどの方法も視野に入れてはいかがでしょう。

今回は、ご夫婦ともに65歳まで働き、70歳まで毎月2万円ずつ投資信託で運用した場合のシミュレーションを行いました。

ご夫婦ともに65歳まで働いたことで生涯収入が900万円増えることになります。また、投資信託では70歳まで1年間24万円の資金をもとに3%の利益を得ることとし、85歳で売却することにしました。その結果、85歳で306万円の資金を得られる想定です。

孫への資金援助については、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・大学の入学時に10万円ずつ、合計50万円をお祝いとして渡すことにしました。また、孫がもう1人、生まれたと仮定し、同様に10万円ずつ5回に分けてお祝い金を渡すとしてシミュレーションしました。

その結果がこちらのグラフです。

図2 改善策を取り入れたご夫婦の金融資産推移(milize Proを使用してシミュレーション実施)
図2:改善策を取り入れたご夫婦の金融資産推移(milize Proを使用してシミュレーション実施)


介護が始まると同時に資金が減少していますが、100歳まで資金をプラスで維持できました。ご夫婦の想定より孫への資金援助額は少なくなってしまいましたが、ご自身の介護費用を準備し、孫がもう1人生まれても同額のお祝い金を渡せるようになりました。

 

無理のない範囲でのサポートを

今回の例では、ご夫婦が意識していなかった介護費用が大きく影響を与えることとなりました。実際の介護では必要になる設備やサポートによっては費用が変わってしまうこともあります。自治体で独自の補助金などのサポートを行っている場合もありますので、ご参考にされてはいかがでしょう。

かわいい孫への援助は、生活の楽しみの一つであるかもしれません。ご自身の介護費用を意識しつつ、無理のない範囲を心掛けてください。

この記事を執筆したのは……
黒川 一美(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)

大学院修了後、IT企業や通信事業者でセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側に立場が変わり、お金の守り方を知らなかったことを痛感。自分に合ったお金との向かい合い方を見つけるため、FP資格を取得する。資格取得後は、FPの勉強を通じて得られた知識をもとに、よりよい家計管理を求め試行錯誤の日々を過ごす。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。
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