デリバリーが浸透する、韓国社会
韓国は、フードデリバリーを始めとするさまざまな配達システムがとても発達しています。韓国でコロナ第1波の時期、家から1歩も出ず数か月暮らした人が少なくなかったと言われています。それが可能だった理由の1つには、こうしたサービスが既に社会に浸透していたことが挙げられるでしょう。お隣の国の配達事情を解説します。
国民総利用、出前は暮らしの一部
韓国の出前事情を語るとき、必ず例として出されるのが漢江の河川敷にも出前可能というエピソードです。この場所に行くと、芝生の上でチキンやピザを食べている人、行き交う配達員の姿を必ず目にします。正確な住所の伝えようがないこういった場所でも、目印となるオブジェや植物などを伝えれば配達に来てくれる柔軟ぶり。実際、漢江に限らず、海辺、釣り場、キャンプ場にだって届けてもらえます。
出前可能な料理も多様で、各種韓国料理はもちろん、パスタ、寿司、刺身、ケーキ、アイスクリーム、かき氷などのデザートも可。麺類は麺と汁を別に包装し出前してくれるため、伸びてしまうことなくあらゆる種類の麺料理を自宅で楽しめます。
「配達の民族」など、スマホアプリで簡単注文
それを実現するのは、デリバリープラットフォームの存在。事前に決済し、置き配を頼める出前は、コロナ禍の韓国で今まで以上に利用されています。出前アプリとして代表的なものに「配達の民族」「ヨギヨ」「出前箱」があります(※1)。
韓国のフードデリバリーサービス業界シェアNo.1を誇る「配達の民族」のアプリダウンロード数は累計5400万回、アプリ訪問者数は1カ月1千万人、注文数は1日5千万食、毎日170万世帯がこのアプリを利用して出前をとっている計算になるそう(※2)。
出前はそれだけ韓国人の生活に根差しており、もはや文化。 韓国ドラマ・映画でも配達シーンは必ずと言っていいほど登場するため、ピンと来る人もいるかもしれません。
ちなみに、最近日本のフードデリバリー業界に参入した「フードネコ」は、「配達の民族」を運営しているウーワ・ブラザーズが展開するブランド。ウーワは韓国の市場はもちろん、最近ではベトナム進出にも成功しており、「選択肢が多く、手軽に注文でき、早く届く」といった「配達の民族」で培ったノウハウで日本でも成功できるか、本国でも注目されています。
進化する出前スタイル、ロボットも登場
飲食店でサービングロボットが店内を往来する様子は既に珍しい光景ではなくなりましたが、出前の分野でもロボットが当たり前に活躍する時代はすぐそこまで来ている予感。
GSリテイルが運営するコンビニエンスストアGS25や「配達の民族」は、人工知能を搭載した自動走行ロボットによる配達の試験運用(一部実用化)を始めています。ドミノピザは、「ドミエアー」と名付けられたドローン配達を導入することを決めており、来年上半期には、漢江公園や海水浴場などでの実用化が予定されています。
あらゆる「配達」が便利
韓国では料理だけでなく、あらゆる場面で普通に配達が利用されています。たとえば、韓国のスーパーのほとんどが一定の金額を購入した顧客に対し、商品配達のサービスを実施しています。平均的に3~5万ウォン程度購入すれば、数時間以内に配達料なく玄関前まで配達してもらえます。車を使わない人、高齢者にとっても非常に便利なサービスです。
アパレル、雑貨などあらゆる業種のオンラインショッピングモールが発達しているのも韓国。配送料も一定以上の金額で無料、あるいは2,500~3,000ウォン程度なので顧客側の送料の負担はさほど大きくありません。
さらに魅力的なのは翌日~長くとも3日以内に宅配されるというスピーディさです。また、スピード配達の極致ともいえる通称クイックと呼ばれるサービスがあります。依頼が入るや、すぐにオートバイやトラックが出動し、荷物を回収し目的地へ配達してくれるというもので、距離や運ぶモノによって料金に差はあるものの、書類なら7,000ウォン程度から利用できます。
出勤した後、自宅に大切な書類を忘れてきた! お祝いの品を一刻も早く届けたい!等、今すぐ必要な何かを配達したいときに重宝するサービスです。
「便利さ」の裏には
消費者側の立場では、スピード感ある配達はとてもありがたいもの。ですが、問題も多くあります。多くのフードデリバリーサービス配達員が危険と隣り合わせで仕事をしており、雇用労働部傘下の安全保険公団の資料を元にしたある報道によると、2011年から2020年の間、配達中の交通事故で亡くなった19歳以下の若者は63名。別の報道では、2人に1人は何らかの事故を経験しているとのデータも。
同じくスピーディーさが魅力の韓国の宅配便サービスですが、宅配員たちの過労死や業務に基づく体調不良等の問題が昨今ますます深刻な状態になっています。国土交通部によると、2019年の2月~7月までの宅配件数は13億4280万個だったのが、2020年に2月~7月は16億5314万に。コロナ禍の影響もあり、23パーセントも増加したとのこと。今年1年で過労死した宅配員は14名という報告もあります。
そんな中、宅配産業が韓国で始まってから28年目の今年8月14日、 雇用労働部は 民間宅配業に従事する配達員が休めるよう、 毎年この日を「宅配の無い日」と定めました。労働環境や過剰なスピード競争等が問題視される中、少しずつ改善の取り組みが行われているものの、まだまだ課題が多く残っているのが現状です。
※1 2019年1月、ドイツの飲食宅配代行最大手「デリバリーヒーロー」が、ウーワ・ブラザーズの買収を発表。デリバリーヒーローは既に韓国出前アプリ2位「ヨギヨ」3位「ペダルトン」も買収しており、それぞれ分離運営している。2020年11月公正取引委員会がヨギヨ売却の条件を出している。
※2 우아한형제들 HP배달의민족 2020年3月基準統計