「今年は無理か……」諦めかけていたステージのオファー
10月9日、僕は約10ヶ月ぶりにステージに立った。場所は今年8月に開業したばかりのホテルエルシエント大阪。
宿泊、外来問わずお客さんが観覧できるゲストラウンジでのパフォーマンスという、いわゆる営業的な案件だったのだが、僕はほんの少し前までまさか今年ライブができるとは、しかもそれがホテル営業という形で実現するとは思ってもみなかった。
音楽、イベント業界がコロナ禍の影響を受けて久しい。2月頃からじわじわとイベント自粛の風潮が広がり、3月にはもうまともな興行はできなくなった。6月にようやく政府が感染拡大予防ガイドラインを発表してイベントが再開されたが「1~2mのソーシャルディスタンス」など経営面を無視したハードルが課せられ、客足も鈍く、依然として復活への見通しは暗かった。
「もう今年はライブは無理だろうな」、「無理にやって周囲に白い目で見られたくないな」…今回のオファーが来るまで僕はそう思っていたのだ。
ホテルエルシエント大阪でのライブは盛況だった。席数は本来60名のところ、半分の30名という制約はあったが、観客のみなさんは歌って喋って約1時間のステージを楽しんでいただけていたと思う(きっと)。久しぶりにライブを観ることで、長すぎるコロナ疲れからの解放感もあったのではないだろうか。やっている当の僕もあらためて「音楽っていいもんだな」と感じることができた。
後から関係者に聞くところによると、ホテルエルシエント大阪ではこれまでにもいくつかのイベントを実施したが、コロナ禍への配慮から歌ものはやっていなかったらしい。僕が出演歌手としては第1号。これで「歌ものもイケるじゃん!」となって今後の地場の音楽シーンの盛り上がりに少しでも貢献できたらいいのだが。
有名ミュージシャンも…ライブ再開の機運が高まる音楽業界
自分がやったからというわけではないが、音楽業界全体でも本格的なライブ再開の機運はたしかにある。政府が9月19日から「5000人超え」イベントも開催できるよう規制緩和したことを受けてか、10月に入って大黒摩季さん、あいみょん、King Gnuなど年内のライブ再開を宣言するアーティストが続出しているし、大都市の主だったライブハウスもスケジュールが埋まり始めている。
SNS上でも、イベントが開催されることに対して以前のようなバッシングはあまり見られない。これは大衆の心が脱コロナに向けて動きはじめたことの一つの現れではないだろうか。
コロナが流行して以来、感染を警戒するあまり必要以上に自分や他者を追い込んでしまう人が増えているという。経済的に追い込まれている人も多いだろう。これからこの社会に満ち満ちたストレスを拭い去っていくには音楽など芸術の力が欠かせないと思う。
まだまだコロナを警戒しなければいけないことに変わりはないが、どうか良い形で音楽の現場が復興することを願う次第だ。