泣いたり笑ったり、上野樹里がまぶしい
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女優という響きから想像することは、ひとそれぞれ違うのではないだろうか。たとえば、圧倒的な美しさを誇る憧れであり、どこか近寄りがたさを感じる存在としての女優を想像することもあれば、振り切った激しさを大胆に見せる女優を想像することもある。

しかし、上野樹里の場合はそれとは違う。かと言って、幅の広さを「コメディからシリアス」までと表現しても、それでは追いつかないし、常に私たちに新しい表情を見せてくれることから「進化する女優」としても、やっぱり足りない。

さまざまな形容詞を駆使しても彼女の演技は、ことばを超えてしまうのだ。あえて言うなら女優を超えた女優というところだろうか。その軌跡を振り返りたい。
 

日本中を笑顔にする天真爛漫なエネルギー

日本中がワクワクしたのだめのピアノ
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『のだめカンタービレ』(2006年/フジテレビ系)が日本中にクラシック旋風を巻き起こしたことを記憶しているひとも多いだろう。ちょっと不思議な音大生ののだめを演じたコミカルでキュートな上野樹里に魅了されたものだが、可笑しさだけでは旋風は起きない。メリハリの効いた彼女の演技があったからこそ「音楽を楽しみたい」という純粋な想いにかられたのだろう。

ピアノを弾くときの集中力、大きく伸びやかな手の動きに首から背中へのライン、まさにのだめがそこにいた。ピアノを弾くときや音楽を聴くときの幸せそうな表情は、音楽の天使が舞い降りてきたかのようだった。少女から大人へ、楽しいピアノから芸術のピアノへ、そんな変化も鮮明に映した上野樹里は、本当に素晴らしかった。

映画『スウィングガールズ』(2004年)で見せた東北弁の女子高生もチャーミング&クール。10代の無防備で純粋なJAZZに日本中がスウィングした。どちらも永久保存版だ。
 

内在する光と影を巧みに表現し、体温さえ感じさせない

濃厚な影にゾクゾクしながら引き込まれる
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2014年には壮大な復讐劇『アリスの棘』(TBS系)で冷酷な一面をみごとに見せ視聴者を引きこんでいる。全員が謎めく展開の速い物語は、センセーショナルな雰囲気にのみ込まれ、深い部分を見過ごして最終回を迎えることもあるのだが、これは違う。

次々に狙い撃ちする主人公を演じた上野樹里には照明すら必要ないのかと思わせるほど内在する光と影を表現してしまうことに驚いた。今にも壊れそうな何かを抱えながら、貫くべきものを忘れない強い意志は『ラストフレンズ』(2008年/フジテレビ系)や『ウロボロス~この愛こそ、正義。』(2015年/TBS系)でも感じられる。どこか生き難い雰囲気を自然体で見せてしまう力量には驚くばかりだ。
 

豊かな愛と寄り添う心で女性の美しさがにじみ出る

指導医として主人公に向き合う姿勢に心打たれた
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最近の上野樹里はグッと深みを増している。時々、菩薩のような慈悲を感じることすらあり、その姿がとても美しい。

『グッド・ドクター』(2018年/フジテレビ系)では、サヴァン症候群のレジデントにしっかりと寄り添う小児科医を温かく演じ涙を誘った。『テセウスの船』では行動する週刊誌の記者を力強く演じ、第4話で耳を貸すことのないひとたちを前に圧巻のスピーチを繰り広げ、視聴者をクギヅケにした。

11月2日に第2シーズンがはじまる『監察医 朝顔』は秋冬2クールの連続放送だ。父親と夫が刑事であることからも、常にさまざまな事件と隣り合わせだが、家族を描く風景には、私たちと何ら変わらない暮らしが映る。畳の匂いがプンとしてきそうな家屋と冷蔵庫の中の麦茶。お互いを大切に想う家族の毎日が胸にしみる温かい作品だ。

主人公の心の奥底に残る震災の哀しみにも注目してほしい。第1シーズンの第10話は、朝顔が大学の講義で約8分間、法医学について、解剖について、どんな姿勢で日々臨んでいるか、ことばの一つひとつに宿る魂がヒシヒシと伝わってきて、胸がふるえた名シーンだ。

2クールとなる第2シーズンでは、さらにていねいに繊細に人間ドラマが深掘りされ、家族の姿にほっこりしながら、何度も目頭を熱くすることになりそうだ。

彼女を観ていると「女優」への思い込みから解放される。上野樹里が演じていることを忘れ登場人物を堪能することが本当に多い。上野樹里は本当にうまい。しかし、そのうまさの背景にある不断の努力と妥協しない彼女の粘りを、忘れてはならない。