生理は「個性」なの? ある重度の“PMDD”を抱える女性の率直な思い

「生理は個性」と打ち出した花王「ロリエ」のプロジェクトが、プチ炎上しています。確かに生理の辛さは人それぞれ、そこだけを切り取れば【個性】と言えなくもない? 重度のPMDDに悩む女性の率直な声をご紹介しましょう。

【生理を“個性”ととらえれば 私たちはもっと生きやすくなる。】――「生理は個性だ」と打ち出した花王「ロリエ」のプロジェクトが、現在、プチ炎上しています。炎上の理由の多くは「生理は【個性】というひとことでくくるべきことではない!」というもの。確かに生理の辛さは人それぞれで、そこだけを見れば【個性】と言えなくもありません。

しかし同時にPMSやPMDDなど、人によっては【個性】という言葉だけでは形容できない辛い症状に揺さぶられ続けるケースも……。そこで今回、重度のPMDDに悩んでいる女性にインタビュー。自身の症状は【個性】で片づけられることなのか、率直な意見をお聞きしました。
 

そんな【個性】なら、私はいらない

東京都在住のゆかりさん(仮名・34歳)は、大学生の頃から重度のPMDDに悩んでいるひとりです。PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder)とは、「月経前不快気分障害」という疾患で、一般的に良く知られているPMS(Premenstrual Syndrome/月経前症候群)に比べて症状が重く、抗うつ剤が処方されることもあるほど深刻なもの。今回の花王のプロジェクトをみて、ゆかりさんはどのように感じたのでしょうか。
 

「はぁ? 個性!? 思わず笑ってしまいました。私のPMDDが【個性】だというのなら、がんや白血病や、認知症の人だって、全部【個性】ってことになりませんか? そもそも【個性】って、性格を表す言葉ですよね? 本当に衝撃的でした……」
 

ゆかりさんは、【個性】という言葉の裏には「褒める要素がない人に当てはめて片づけてしまおうという悪意」を感じるともいいます。
 

「優しい人には『優しいね』、頭の良い人は『天才!』、優れている人には『スゴイね』。そんな風に、優れた何かを持つ人に対してはストレートに褒めますよね。そうでない(と感じる)人や、優劣・賛否を判断しにくい人に対しては、『変わった人だよね』とか『個性的だよね』とか、そんな声掛けをしてお茶を濁している。【個性】って“区別”をするための言葉なんですよ。
 

障害をかかえている人に対して【個性】という言葉を使うことに違和感を感じていたのですが、ある意味、そう名付けることで自分の罪悪感を薄めているだけ。言われた人の気持ちが置き去りになっている。私自身も、そんな【個性】なら、私はいらない!と。そう思わずにはいられません」
 

辛いPMDD…彼女の生活は壮絶だった

27歳で結婚。現在は専業主婦となり、基本的には穏やかに暮らしているというゆかりさん。しかし生理が始まる1週間前、彼女の心に嵐が襲いかかるのだといいます。
 

「もうね。何事にもイライラピリピリしてしまい、夫を攻撃してしまうんです。自制がまったくきかなくなってしまって……」
 

ゆかりさんがこれまでに“してしまった”ことを一例を挙げると、
 

  • 夜になってもイライラが止まらず眠れなくなるため、横でぐっすり寝ているご主人のことがたまらなく憎くなり、枕やスリッパをぶつけてたたき起こす
  • 食事中に意味もなく怒りたくなり、食卓に並んだ煮物やお惣菜を皿ごとゴミ箱に捨てる
  • ほんの少しでも自分の思い通りにいかないことがあると、文句を言わずにいられなくなる
  • テレビのキャスターの顔が気に入らない!と思った瞬間なぜか怒りが止まらなくなり、テレビを引き倒す
     

と、その攻撃性は驚くばかり。普段のゆかりさんは、笑顔が素敵でたおやかな印象の女性なのですが……。
 

「これも、ほんの一部なんです。自分で言うのも何ですが、よく夫に離婚されないなぁと思うほど酷いことばかりしてきました。自分が悪いことは頭では理解しているんですが、どうしても気持ちがついていかない。気付いたら言葉や態度で攻撃してしまっているんです。
 

少し前まではパートに出ていたのですが、一度、PMDDがひどい時期にどうしても出てほしいと言われて仕事に行って、やらかしてしまって……。職場で『アブナイ人』『触っちゃいけない人』みたいなレッテルを貼られてしまい、それまで仲良くしてくれた人にも縁を切られました。これを【個性】って言われたら――そんなダメな【個性】を持つ私は、存在する価値もないのでは?とすら……」
 

【個性】で片づけず、正しく向き合うことが大切

誰も自分のことを分かってくれない。辛い。死んでしまいたい……。生理が訪れて思考が正常な状態に戻るたびに、ゆかりさんはひどく落ち込み、辛い気持ちになるといいます。幸運なことに、ご主人がPMDDについて深い理解があり、ゆかりさんの辛い気持ちに寄り添ってくれることで、なんとか生きていられるのだといいます。
 

「夫は、私のこの症状を【病】と捉えてくれています。私という人間の【個性】ではなく、あくまでも病気なのだと。そうして切り離して考えてくれることが、私にとっては救いなんです。
 

私は私。病は病。そうやって考えることで、自分自身を守れる人もいるんです。【個性】といわれてしまうと、【私=病】になってしまう。私は病気じゃない。PMDDを抱えているのは事実ですが、私という根本が病んでいるわけじゃないんですから」
 

今回の炎上が「プチ」で済んでいるのは、ゆかりさんのように本当に辛い思いをしている人が少なく、その声が小さく届きにくい、ということもあるでしょう。
 

何でもかんでも【個性】で片づけようとする文化は、どうなのだろう? ゆかりさんの言葉から、【個性】というものの考え方をあらためるきっかけをもらったような気がします。

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