物語の向こうに映る私たちの日々『アンサング・シンデレラ』

医療現場を支える縁の下の力持ち(=アンサング ヒーロー)、薬剤師たちの奮闘を描いた『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』は、私たちにとっての”生きる”をていねいに掘り下げたヒューマンドラマだ。ひとりでも多くのひとに観てほしい。

かけがえのない人生が、薬を通して見えてくる

主人公が寄り添うのは、わたしたちの人生
画像はAmazonより

「医療ドラマ」が多いと指摘する声も聞こえてくるが、私はこの作品が楽しみだった。医療ドラマは、どこかで誰かの支えになっているはずだし、私たちの日常と薬のかかわりが興味深かったからだ。

医療ドラマにはふたつある。個性的な主人公の圧倒的な機知と行動力に勇気づけられるものと、主人公が寄り添う誰かの人生に自分を重ねて、日常を模索し希望へと結びつけられるものと。

薬剤師を主人公として描いたはじめての医療ドラマ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』はおそらく後者だ。どのエピソードにおいても、石原さとみ演じる主人公の薬剤師・葵みどりが「カッコよかったね」とか「大活躍だったね」に着地しない。ゲストとして登場する、今を生きるひと達の人生に想いをはせ、大切なひとに電話してみようとか、生活習慣を見直そうとか、自分にグッと引き寄せて何かを気づかせてくれる貴重なドラマだ。
 

主人公の逃げない姿に教えられる

縁の下の力持ち、薬剤師の責務は大きい
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恋に仕事にドキドキしながらキラキラもする、お仕事ドラマが大躍進している昨今だが、『アンサング・シンデレラ』で描かれる医療の現場に甘さはない。ファッション性とキラキラ感を払拭して、逃げない葵みどりが骨太に描かれる。ひとを大事に想うからこそ、ぶつかること、嫌われることから逃げない彼女の行動は、強さではなく信念からだ。「ここで逃げたらダメなんだ」と自らを奮い立たせ、悩みながら迷いながらぶつかっていく主人公は、決して特別強靭なハートを持っているわけではない。私たちと同じ”怖さ”や”痛さ”をかかえながら、嫌な現場に飛び込んでいく姿に教えられることは多い。

人生において”修正”や”見直し”が必要な現実は何度も訪れるものだ。しかし、ひとは変えることが苦手だし、突かれることを嫌う。薬についても同じで、正しく飲まないし、そもそも理解を怠る。自分の体を自分が一番わかっていると勝手に判断し、インターネットの情報を鵜呑みにすることもある。しかしそうではないと、ていねいに教えてくれるのが『アンサング・シンデレラ』だ。

ファッショナブルに人生を謳歌する女性像もいいが、決意や覚悟を持った人物を演じる石原さとみは光る。壁を越えて、あえて向こうの場所に斬りこんでいく姿はいたって冷静だ。『アンナチュラル』や今回の『アンサング・シンデレラ』のように、彼女にモノ申す存在(市川実日子や桜井ユキ)が近くにいると、がぜん旨みが増してくる。薬剤師の仕事には覚悟が必要だが、彼女はその覚悟を視聴者に対しても発しているように感じる。そこが魅力だ。
 

プロフェッショナルな薬剤師を知る

誰かの人生に想いをはせる素晴らしさ
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薬剤師の仕事は薬を処方するだけでなはい。ダブルチェック、疑義、一見面倒なシステムは命を守るためだ。薬剤師の責務と厳しさをアットホームな風景を交えながら俳優陣が生き生きと見せている。

女性が多い職場でしなやかに働く若き薬剤師役の井之脇海、コミュニケーション力に長けたベテラン薬剤師役のでんでん、背中で語る副部長役の田中圭と、男性陣がいい。部長役を演じる真矢みきも味がある。薬剤部の阿吽の呼吸もみごとだ。スピードと正確性が高水準で維持されている空気も気持ちいい。日々の積み重ねを派手な演出に頼ることなく、さりげなく見せているところも新鮮だ。

医療現場を描く作品は年齢層や性別が幅広いところも魅力と言える。第6話で頑なで孤独な女性の心情を見せきった74歳の高林由紀子を堪能できたし、小林隆、伊武雅刀、菅原大吉といった実力派の演技に何度も泣かされた。

自分のこと、誰かのことをこんなにも考えてしまう作品はそうそうない。それはドラマでありながら薬剤部のメンバーが画面のこちらに、懸命に送ってくれるメッセージがちゃんと届いているからだろう。この夏、ぜひ観てほしい1作である。

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