『半沢直樹』が好調だ。7年を経て帰ってきた半沢直樹は、2013年の仰々しさや重々しさをそのままに、新しい時代の波をとらえ、ITあり黒幕ありでエンターテインメントを極めている。濃厚な世界観が令和の視聴者にどう映るのか、その不安は一瞬で消え去ったようだ。
個性派ヒールの競演だけじゃない! 半沢直樹を観る理由
重厚な歌舞伎型だけじゃない! ワクワクさせるモチーフのオンパレード
2013年版では脅威の視聴率42.2%をたたき出した『半沢直樹』。「いったいどうなるんだ!?」と毎週日曜日が待ち遠しくてしかたない。煽るナレーション、煽る音楽を聴くだけで、なんだかワクワクするから不思議だ。ナレーションは元NHKアナウンサーの山根基世。現在70代と伺っただけでしびれる声だ。音楽は服部隆之と聞けば心は自然と躍動する。
Spiralや東京セントラル証券を舞台にした大逆転の瞬間は、かつて観た『下町ロケット』の佃製作所のよう。ハラハラドキドキのあと”全員一斉”のガッツポーズが織り込まれることで、さらにワクワクが倍増し、テレビの前で「よっしゃ!」と歓喜の声をあげてしまう。
心の中でツッコミながらもついつい見入る怒涛の半沢型逆転
劣勢であればあるほど、逆転劇は私たちの心をつかむものだ。勧善懲悪を確信しながらも「どうする?半沢」と毎週手に汗握らせる『半沢直樹』の旨みはそこにある。
情報収集力がモノを言う逆転劇において、『半沢直樹』では時折『家政婦は見た』流の盗み聞きを成功させるし、東京中央銀行の重鎮たちが意外に自由時間が多く、多忙な半沢と接点を持てることも大逆転の要因となっている。まさにドラマだ。おもしろい。
働き方改革は大丈夫なのかと心配になることもあるが、とにかく半沢はタフである。この体力と気力も逆転劇には必須なのだろう。おもしろがっているものの、その心の強さは素直に見習いたいと思ってしまう。
半沢直樹という人間の生き方をこの目でしっかり見届けたい。それこそが観る大きな理由となっている。
半沢劇場を踏襲しながら、時代とともに進化する『半沢直樹』の魅力
踏襲される男たちの顔格闘
そもそもドラマは劇場型だが、『半沢直樹』は、そこを超えての超劇場型である。
超劇場型を支えるのは、これでもかと繰り広げられる、芸達者な俳優陣の仰々しく重々しい夢の競演だ。
香川照之演じる大和田に加え、第1部では市川猿之助演じる伊佐山が登場し顔と顔を突き合わせた。いとこ同士の顔対決にうなりながら、今回感じていることは、重々しさも様々ということだ。
北大路欣也演じる頭取・中野渡の重々しさには品格と絶対的なオーラを感じるし、検査官・黒崎(片岡愛之助)の重々しさにはユーモラスで茶目っ気がある。山崎銀之丞が演じた太陽証券の広重の重々しさには若干の揺らぎがあり、みごとに3段階で言う「中」の重々しさを見せてくれた。池田成志演じる諸田もしかり、中クラスの重々しさも味わい深い。
実は大人げないひと大集合ではないかと言いたいが、だからこそおもしろい。全力で浅はかでおろか、最終的にはヤケクソになるヒールの格闘は最終回まで続くはずだ。
進化した”倍返し”
それは、はたらく私たちが胸を張りプライドを取り戻すための合言葉だ。
半沢の怒りと土下座への執念が鮮明に描かれた前作では、彼の原動力はそこにあると感じていたが、本作はそうではない。見過ごせないやり方に対するひとつのこたえであり、仕事をするうえで奮迅するための合言葉として存在している。
若い世代がはたらくうえで、人生を考えるドラマとして視聴できるのが2020年の半沢直樹だと心強く思っている。そこが前作よりさらにブラッシュアップされている。
8月9日に放送された第4話では、セントラル証券を去ることになった半沢直樹がチームへ送ったことばに息をのんだひともいるだろう。勝ち組負け組の話である。そしてバブル期と就職氷河期の話である。バブルを生んだ世代が能天気にウンチクをたれ、本来の実力を発揮できないままの氷河期時代の若い彼らが、どこかでうずくまっている現実を私は直視してこなかった気がして、非常に胸が痛かった。
彼のことばは働くすべてのひとに響く。何のためにはたらくのか、その仕事は未来にどうつながっていくのか。倍返しの根底にあるのは、もはや恨みではない。胸を張りプライドを持ってはたらくひとたちが、不要な忖度や遠慮をしないための勇気ある言葉なのだ。
第2部では政治の世界が登場する。ここで私たちはなにを観ることになるのか注目したい。半沢劇場の新しい幕が上がった。