2018年の日曜日の夜を明るく盛り上げた『今日から俺は!!』が映画になった。贅沢すぎるゲスト陣と愛されキャラが揃うレギュラー陣が、ただ強さを競う日々は愉快だが、どこかまぶしい。さらにパワーアップした公開中の『今日から俺は!!劇場版』は、日本中を明るく照らす貴重な作品となっている。
『今日から俺は!!劇場版』が全世代を爆笑させている
新しい日常が実践されていることもあり、通常よりは来場者が少ない映画館だが、私が訪れたときは、その方式での”満席”状態だった。何より年配のご夫婦から、若いカップル、中学生にちびっ子まで幅広い年代が足を運び、大笑いしていることに驚いた。もちろん笑うシーンは各世代で違いはある。
佐藤二朗とムロツヨシが登場するだけで爆笑するちびっ子たち。コスチュームと独特のしゃべり方がおかしいらしいが、子どもたちの笑い声が上がる作品は尊いと感じる。80年代のツッパリロックの俳優陣も登場するのだが、ここで沸くのはシニア世代だ。若いひとにはわからなくても、仕込んでくれる福田監督のサービス精神が粋ではないか。全世代に向けた笑いの仕掛けに完敗である。
映画ならではスケールだったり、そうでもなかったりの福田流がいい
映画版ならではのスケール感もみどころだ。クライマックスのバトルアクションは見応え十分、清野菜名演じる理子は、ちょっとマーベルのヒロインみたいで(個人的な思いだが)ワクワクした。ツッパリたちが一斉に走り出すシーンには胸が高鳴った。青春はいつも熱くてエネルギッシュだ。
伊藤(伊藤健太郎)の前では態度が変わる女番長・京子(橋本環奈)の2面性とスケバン・明美(岩月佑美)の巻き舌は、さらに磨きがかかったし、友情に熱い今井(仲野太賀)と伊藤も、いざというときは一人で判断し行動する強さを持っている。ケンカの強い男は心も強い。そんなメッセージも劇場版ではさらに感じた。
一方、職員室の牧歌的な笑いは、相変わらず最高におかしいし、声が大きい三橋の家族には応援したくなる魅力がある。映画版だからと気合を入れ過ぎない『今日から俺は!!』らしさといったところだろうか。こちらの塩梅も気持ちいい。
スケールを拡大したり縮小したりして『今日から俺は!!』的世界をつくりあげていると言えるだろう。脱力の巧さ、緩急の変則的なリズム、これこそが福田雄一監督の魅力だが、この感性を表現することは難しい。スタッフと演者の力量と努力があってこそである。
いくつものスイッチを瞬時に入れ替える賀来賢人の瞬発力と調整力
賀来賢人の進化は感じていたものの、これまで自分では説明できなかった。しかし『今日から俺は!!劇場版』を観て、自分の中で説明がつきはじめている。”コメデイもシニカルも”の枕詞はもちろんだが、コメディとシニカルの間にある、いくつもの立ち位置を、彼は微調整しながらスイッチを切り替えているのだ。しかも瞬時に。
2016年の『グッドパートナー ー無敵の弁護士ー』でもコメディアンぶりを発揮していたが、そこから確実に進化していている。私たちの”予感”を”構え”にさせない空気のつくり方が変化したのだ。表現したい気持ちをマックスで見せるべきときと、余白を持たせるべきときを、うまく使い分けている。
そしてそれは放送中の『半沢直樹』でも確認できる。濃厚な競り合いにのみ込まれることなく若き証券マンを演じる賀来賢人は聡明でクールだ。周囲とは違う濃度でそれを一貫させている。みごとである。
『今日から俺は!!劇場版』では、力むことなく伸び伸びと”どこまでもバカバカしく”をギリギリまで引っ張っているが、決して嫌味なところまで持っていかず、笑いをうまくおさめている。”仲間を守る”のヒーロー的表情も時折きっちり見せて作品を引き締めることもしている。それらを瞬時に切り替える賀来賢人のポテンシャルは未知である。
いろいろ考えてしまうが、本当は考えなくていい。それが『今日から俺は!!劇場版』だ。泣きたくなるような つらい時こそ、ぜひ観てほしい1作である。