社会派×エンターテインメント 機捜の活躍を目撃せよ!『MIU404』

『アンナチュラル』の制作チームが再結集し機動捜査隊を描いた金曜ドラマ『MIU404』は、1秒たりとも目が離せない注目の作品だ。ダイナミックなのに決して過剰ではないバランス感と、切ない人間ドラマを見せるセンスは群を抜いている。

6月26日にスタートした注目のドラマ『MIU404』(毎週金曜よる10時~/TBS系)。ポップな感覚で楽しませながらも、想像をはるかに超える展開と繊細な人間描写は、従来の刑事ドラマのモチーフを生かしながら、新しい時代のドラマとして最高にクールに仕上げている。
 

事件を追う、誰かの人生に寄り添う、その視点と描写にあふれるセンス

綾野剛(右)と星野源(左)のバディが活躍する『MIU404』
画像はAmazonより

ダイナミックと過剰は違う、そのバランス感が卓越

事件を追いながら、私たちは誰かの人生を垣間見て、現実を知り正義について考える。おそらくそれが刑事ドラマだ。『MIU404』もまさしくそうではあるものの、その描写は規格外。

脚本家・野木亜紀子があおり運転、マウント、ネットリンチ、虐待、ドラッグと生々しい現実を織り込みながら、極上の人間ドラマに昇華させている。カーアクション、ハイパーゲーム、バスジャック、目の前の事件を追う機捜隊ならではのダイナミックな映像はスリリングだが、過剰でない演出こそが『MIU404』の巧さだ。

一方、視聴者に問題提起しながらも、ここも過剰ではない。どちらもオーバーヒートしないので、ドラマを見失うことはない。

エンターテインメントとしての楽しさをふんだんに盛り込みながら、この時代の負の側面へのアプローチを試みる社会派。緩急という単語でおさまらないリズムを奏でる新しい刑事ドラマと言えるだろう。プロデューサー・新井順子と演出・塚原あゆ子の存在も大きい。
 

胸を打つ渾身の演技から目が離せない

綾野剛の新しい表情に引き込まれる
画像はAmazonより


俳優陣の迫真の演技が堪能できること、そして俳優たちが希望を見せる瞬間を目撃できることも『MIU404』の魅力だ。

第2話は、3度観て3度泣いた。逃走犯・加々見崇(松下洸平)の哀しみと、逃走中の彼と時間をともにした夫婦(鶴見辰吾と池津祥子)の寄り添おうとする想いに胸が苦しかった。第1話では「マウント」が、第2話では「ごめんね」のことばが作品を深めているのだが、事件解決後、夫婦は加々見に「ごめんね」を懸命に届けていた。何度も繰り返された「約束を守れなくてごめんね」は、希望の光をまとっていた。

第3話では元陸上部の無垢な想いが羅針盤を失ってしまうエピソードだ。胸をしめつけられる高校生・勝俣奏太(前田旺志郎)の告白に大人たちが耳を傾けたその瞬間、すべての音が鳴りやみ、静かに希望の光が射した。
第4話では、バスの中から流れる景色を目で追う青池透子(美村里江)が希望を観た一瞬に、私たちは救われた。

事件を追う伊吹と志摩の”阿吽の呼吸”も絶妙だが、事件にかかわったひと達の人生に寄り添う2人の顔がいい。2人は、画面という境界線を取り払って私たちを引き寄せる。野木ワールドを体現する素晴らしい担い手だ。

機動捜査隊の要と言える無線のリアリティを声で表現する橋本じゅんにはしびれるし、高い意識と自意識が混在する若い刑事のアンバランスを伸び伸びと見せる岡田建人も新鮮だ。
 

日本の刑事ドラマのDNAを継承しながら生まれた新しい刑事ドラマ

主題歌『感電』が収録された米津玄師のアルバム『STRAY SHEEP』
画像はAmazonより

刑事ドラマへの挑戦がはじまった

最近の刑事ドラマでは科学の専門性で謎を解く探求型が主流だ。組織のあつれきや冷酷な人事、犯人との知能戦など、テクノロジーを背景とする刑事ドラマが目立っているが、第1話のカーアクションや伊吹の全力疾走を見ていると、少し前の刑事ドラマを意識しているのかと正直驚いた。

公式ホームページではキャラクターのポリまるが活躍していることもしかり。そう来たかと身構えたが、その想いはすぐに払しょくされた。想像をはるかに超えて作品は「今」を描いているからだ。この時代を描く刑事ドラマにおける新たな試みなのだろう。

古い刑事ドラマのモチーフを詰め込み、その面白さを再確認させながら、古さを感じさせない。もちろん俊逸なのは見せ方だけではなく、メッセージも骨太だ。令和に生きる私たちが向き合うべき現実を掘り下げながら、作り手の想いは随所に見える。

たとえばそれは、機動捜査隊の隊長・桔梗ゆづる(麻生久美子)の揺るぎなさだ。「裁くべきは司法」「救うべきところは救う」少年犯罪に対して、ネット社会に対して、常に桔梗の姿勢は一貫していて、気持ちいい。
 

作品のコントロール力が圧巻!

クライマックスで一気に加速させながらセーブするのが、このチームの手腕である。言い過ぎない、見せ過ぎない、無駄がない、無理がない、しかも乾きすぎない。エンターテインメントが得意とするスリリングな展開を複層的に用意し、いくつもの人間関係を織り交ぜているのに、雑多感なしでシンプルに私たちを引き付ける。秘密はまだありそうだが、ひとつ言えることは、ドラマの隅々までつくりこむことで、冗長を生まず洗練のままで染め上げているということだ。

おそらく私たちは新しい刑事ドラマが誕生する瞬間を目の当たりにしているのだろう。少し気が早いが、いつかスクリーンで観たい作品である。
 

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