視聴スタイルは多様化しているものの、今も視聴率主義は根強い。しかし、それほど高い視聴率ではないものの素晴らしい作品はいくつもある。2010年以降の作品で、心に残る作品を紹介したい。
大人世代もギュッと胸をしめつけれれる
『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』
地方から上京した若い2人の切なすぎるラブストーリー。月9にしては重たい物語だが、若者たちの小さな小さな心の揺れと精一杯の恋心を繊細に紡いでいる。ついこぼれる言葉の棘とやさしさ、胸が詰まる指先の動き、そんな一つひとつをみごとに見せる俳優たちの巧さ、過酷な現実を生きる彼らが見る希望に胸が震える名作だ。
正解のない人生の素晴らしさを教えてくれる
『僕らは奇跡でできている』
大学で動物行動学を教える主人公の相河一輝は、好奇心旺盛だが苦手なことが多く、彼を理解できない人間も多い。マイペースで一見不思議な彼のユニークな講義にクスクスしながら、私たちの”フツウ”がざわつき始め、いつしか心が洗われる。音楽よし、森の風景よしの、小説を読むようなワクワク感に満ち溢れた極上の1作。
乾いた空気と湿った空気が不思議に気持ちいい
『まほろ駅前番外地』
三浦しをんの人気作をドラマ化。深夜ドラマは、いつ見ても古さを感じさせないノスタルジックな風景に仕上げる巧さが絶品だ。しかし、深夜枠の宿命なのか視聴率はそう高くならない。便利屋を営む主人公と転がり込んできた相棒に、ワケアリ依頼者が加わった、奥深い人間模様を淡々と映すまほろ駅前。深夜ドラマの技が生んだ快作だ。
大人が楽しむ古のファンタジー
『鹿男あをによし』
原作は万城目学。奈良の女子校を舞台に気弱な高校教師の主人公が人間を守ってきた鹿にある役割を任命され遂行するファンタジー。奈良の青空、人間のことばを話す鹿、厳かな剣道の風景に魅せられながら、トホホ感満載の玉木宏演じる主人公がなんとも楽しい。日本の歴史と風土から生まれる物語は希少で美しい。
一歩いっぽ前に進んだ彼らの軌跡に涙する
『HOPE~期待ゼロの新入社員~』
プロ棋士をあきらめた主人公が大手総合商社のインターンに参加するところから物語が始まる。身を削っての競い合いとプレゼンの緊張感は新鮮。主人公に立ちはだかる高卒の壁と、正社員への道を切り開こうと奮闘してくれる仲間たちの姿は、力強く尊い。現実に屈折しながらも希望につないだ作品の想いに涙した、気持ちのいい傑作だ。
明日を見るチカラを失わないために
『健康的で文化的な最低限度の生活』
生活保護受給者をサポートする新人ケースワーカーの奮闘を描く。ドラマを楽しむには重たいテーマであり、荒んだ現実に目を背けたくなるが、粘り強く粘り強く足を運び言葉をかけるケースワーカーの姿は力強く、若い俳優陣の全力の演技に心が震えた。映像化に挑み、光を見せる作品づくりを目指した制作チームも素晴らしい。
家族は、つながりなのかしがらみなのか
『家族ノカタチ』
シングルライフを謳歌してきた主人公(香取慎吾)が疎遠だった父親との同居から、個人主義を貫けなくなる日々をユーモラスに描いている。淡々とした主人公に対して表情豊かな周りの人間たちが可笑しくて愛しくて恋しくなる。都会の風景と浮き彫りになる現代社会の盲点をていねいに対比させた意欲作とも言える温かい作品だ。
こうして見ると、”スリリングな展開”ではない作品が高視聴率に結び付かないのだろうかと感じてしまう。時にはあっと驚かないものの、ジワジワとくる感動作も見てほしい。