したくない人は、しなくていい?女性が「ひっそり引退」を願う理由

「セックスってしたくない人は、しなくていいよね」――そんな当たり前のことを本にしたいと思ったのが、いまから10年近く前のこと。週刊誌で「死ぬまでセックス」のような特集が毎週のように組まれた時期のことです。

「セックスってしたくない人は、しなくていいよね」――そんな当たり前のことを本にしたいと思ったのが、いまから10年近く前のこと。制作に携わった『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(宋美玄著、ブックマン社)がベストセラーになった直後、そして週刊誌で「死ぬまでセックス」のような特集が毎週のように組まれた時期のことです。
 

もっと気持ちいいセックスを、いくつになっても精力的なセックスを!と声高に叫ばれるほど、セックスしないことが一層ネガティブにとらえられるようになりました。したくないという気持ち、しないという選択も尊重されるべきではないのかと考えいくつかの出版社に企画を出したのですが、相手にされませんでした。
 

私の実力不足でもあるのでしょうが、セックスしないのはいってみれば“生産性がない”と思われ、だから売れないと判断されたのだなと感じました。
 

「性」についての風向きの変化

しかし、ここ1、2年で風向きが変わってきたと感じます。これまた制作に携わった『夫のHがイヤだった。』(Mio著、亜紀書房)はまさに夫とセックスしたくない女性の物語です。10年前にはほとんど知られていなかったAセクシャル(アセクシャル、恋愛対象や性的欲求がない人)の存在も徐々に認知されてきています。
 

そしてまたひとつ編集協力した『セックス難民』(宋美玄著、小学館)があります。セックスしたい・けどできない“セックス難民”状態は、苦しいものです。シニア世代に多いそんな人たちに向けて満足のいく性生活を送るためのヒントが詰まった1冊ですが、実は同時に、セックスしない・したくない人のための本でもあります。
 

後者をパートナーに持つ人はその意志を尊重し、それでもしたいのであれば、「したい」と思ってもらえるよう努めなければならないということが大前提となっているからです。
 

50代前半で男女間に大きなギャップ

どのような調査を見ても、そしてどの世代においても「性欲がある」と答える男性は、「ある」と答える女性を大きく上回ります。しかしその欲求も、多くの人は年齢とともに低下します。
 

加齢とともにホルモンの分泌量が少なくなるからですが、特に女性は更年期、閉経を経るとガクンと下がる傾向にあります。TENGAヘルスケア「エイジングと性に関する意識調査2018」によると、男性と女性のあいだで性欲のギャップが最も大きいのは50代前半でした。
 

加齢によって、性機能も低下します。男性なら勃起不全(ED)、女性なら体液の分泌が減る、性交痛を感じやすくなります。
 

女性が「ひっそりと引退」を願う理由

性欲も性機能も、する/しない、できる/できないに大きく影響することは間違いありません。が、主に女性たちから性の話を聞いていると、もっと重要な要素があると感じます。それは、「これまでセックスを愉しんでこられたか」どうかです。
 

その人にとってセックスが基本的に「気持ちいい、楽しい、大好き!」なものなら、性欲は低下しても「もう一度、あんな時間を過ごしたい」と思うものですし、性機能の低下も自身で、もしくはパートナーと協力して克服し、充実したセックスライフを目指せます。
 

けれど、「苦痛、つらい、痛いだけ」のセックスしか経験してこなかったら、性欲も性機能も低下するなかで「もうしたくない、しない」となるのは当然でしょう。モチベーションにつながるものが、まるでないのです。
 

40~50代で「一度でいいから気持ちいいセックスを」と願い驚くほどの行動力を発揮する女性もいないわけではないですが、ひっそりと引退を願う人のほうが多いと見受けられます。
 

セックスが好きじゃない、できればしたくない、本当はまったくなくていい、という女性は少なくありません。前述の『夫のHが~』を制作中、著者のブログに寄せられる声にも目を通しましたが、肉体的な苦痛を味わい精神的にも追い詰められていく女性たちのか細い悲鳴に満ちていました。そこまででなくとも、「セックスで一度もつらい思いをしたことがない」女性はほとんどいないと感じています。
 

男性の悩みは3つにほぼ集約

一方の男性は、身体への侵襲がないぶん、女性と比べて苦痛を感じにくいことはあきらかです。セックスカウンセラーをしている人に話を聞くと、男性の悩みは「勃たない・小さい・早い」にほぼ集約されるそうです。痛い・つらいと訴える人はほとんどいない。
 

コンプレックスがあるのはしんどいと思いますが、特に小さい、早いに関しては、実はパートナーはまったく気にしておらず、個人的な“思い込み”でしかないケースが多そうです。こうした男女間の悩みのギャップが、前述した性欲ギャップにつながっているのではないでしょうか。
 

「したい」という気持ちは肉体的欲求からだけでなく、パートナーと親密な時間を過ごしたい、すっきりしたい、日常のことを忘れたい……というさまざまな欲求が絡み合って総合的に湧き上がってくるものです。すなわち、これまでどんなセックスをしてきたかが色濃く反映されます。シニア世代の「したくない、もうしない」には歴史があります。いっそう尊重されるべきではないでしょうか。

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