民法第752条に「夫婦は同居し、違いに協力し扶助しなければならない」という規定があります。つまり、結婚したら夫婦が共に住み、仕事や家事、育児といったすべてのことで協力しあい、助け合うことが、法律で定められているのです。しかし、世の中には変わった夫婦も存在するもの。今回は、取材を終えた後も疑問形が浮かんでしまった、とある夫婦についてお届けします。
 

結婚してから1度も、家でごはんを食べない夫

ああ、この女性はきっと会社でバリバリ働いているんだろうな。
 

田中弓子さん(34歳・仮名)を見た瞬間、そんな印象が思い浮かびました。スマートでこざっぱりとしたスーツに、8cmヒールの瀟洒なパンプス。隙のないメイク。肩にかかる髪を時折かき上げるしぐさ。こんなにデキそうな女性が、いったいどんな悩みを抱えているというのでしょうか。
 

「それが……不思議なことに、結婚してから1度も、夫が家でごはんを食べてくれないんです」
 

弓子さんは、そう口を開きました。
 

昨年の春に結婚してから約10カ月。その間、弓子さんは忙しい仕事の合間をぬって、朝晩の食事を作り続けてきました。でも夫はただの1度も家でごはんを食べず、朝は自分で淹れたコーヒーを飲むだけ。夜は近距離別居の義実家に行き、食事をしてから帰宅するといいます。
 

「ぶっちゃけてしまうと、義母は決して料理上手とはいえません。結婚する前に1度、お義母さんの手料理をいただいたことがあるのですが、煮物はやたらと甘かったし、焼き魚は生焼け状態でした。お味噌汁は美味しかったかな。義母さんのご実家が熊本らしくて、麦みそを使っているんだって聞きました。
 

その後、自分の実家に帰って母と話したときに『そんなお義母さんの手料理で育ってきているなら、あなたの料理がすごくおいしく感じるんじゃない? よかったわね』なんて母から言われたんです。
 

実は私、高校時代からずっと料理が趣味で、自慢するのも何ですが、和食でも中華でも洋食でも、ひと通りは美味しく作れるんですよ。夫もそのことは知っているはずなのですが、ただの1度も、私の手料理を食べてくれなくて……」
 

料理ベタな親元で育った男性が料理上手な女性を妻にすると、味覚が蘇ったかのようにモリモリと食べるのが一般的でしょう。しかし、なぜか義実家での食事に固執するという弓子さんのご主人。
 

好きなもの、嫌いなもの、食べたいもの、食べたくないもの、そうした食の好みを、何度も何度もご主人に尋ねたという弓子さん。しかしご主人からは、何の反応もなかったそう。
 

「お義母さんに夫の好物を尋ねると『そうねぇ……とくに聞いたことはないけど、ハンバーグとか、肉団子とか、そういう子どもっぽい料理はたくさん食べるような気がするわ』って言われたんです。
 

なので仕事帰りに美味しそうな牛肉を買ってきて、ミンチにするところから丁寧に作ってみたんです。焼き上げる前のハンバーグを写真に撮って、『あなたの好きなハンバーグを作ってみたよ。今日はまっすぐに家に帰ってきてね♡』ってメールをしたのですが、その日も夫は義実家でごはんを食べてきました。さすがにそのときは腹が立ちましたが、なんていうかこう、『いつか、絶対に私の料理を食べさせてやる!』みたいな意地が強くなってしまったというか……」
 

夫婦間の不毛な戦い(!?)に落としどころは……?

好きで結婚した相手だし、今でも夫のことは大好き。食事を食べてくれない以外は不満がまるでないので、離婚はまったく考えていないという弓子さん。
 

「お互いに忙しいので、仕事の帰りに落ちあって、都心のレストランで食事をすることが週3~4回くらいあるのですが、そういうときは普通に私と一緒に食べるし、会話も弾むんです。だから、私のことが嫌いとか、一緒にごはんを食べたくないとかではないと思うんですよね。
 

なぜ家でごはんを食べないのか何度か聞いているのですが、夫は黙ったまま。一緒に夕飯を食べたい、私が愛情をこめてつくった料理を食べてほしい、そう訴えても、夫は黙りこくったままでした」
 

もしかして、食事のマナーが悪いのかも? それが恥ずかしくて、家で食べてくれないのかも?
 

もしかして、好き嫌いが激しいのかも? 野菜が食べたくなくて、義実家で食べるのかも?
 

丁寧な料理じゃなく、もっと気楽な、B級グルメみたいなものが食べたいのかも?
 

しかし、外食時にマナーを見ても問題ないし、野菜も好んで食べている様子……あらゆる仮説を立てて夫の言動からヒントを探った弓子さんでしたが、どれも腑に落ちるものではなかったといいます。
 

妻の手料理を拒み続ける夫の真意

そんな生活が半年ほど続いたある日のこと。弓子さんは意を決してご主人に「もしかして、私と結婚したことを後悔しているの?」と聞いてみたといいます。するとご主人は、それを全面的に否定。弓子さんのことは誰よりも愛しているし一緒にいたい。だから結婚をしたと、必死の形相で訴えてきたといいます。
 

「それでも、料理を食べない理由は頑なに話さないんですよね。もう、本当に何が何やら……」
 

結局のところ、夫が家でごはんを食べない理由は分からないまま。「それはそれでラクなのでは?」と弓子さんに聞くと、面白い答えが返ってきました。
 

「でも、なんか悔しいので。いつか必ず、私の料理を夫に食べさせてみせます!」
 

夫婦といえども、お互いに譲れない一線がある。そこを尊重しつつ、落としどころを探すために戦い続ける……こんな夫婦関係も、それはそれで“楽しい”のかもしれません。なぜ、弓子さんのご主人は家で食事をしないのか……? この疑問がいつか解決する日を、弓子さんともども待ち望むばかりです。