結婚できない女――その理由はさまざまです。出会いがない、お金がない、そもそも結婚したいと思わない……。そんな中、20年間待たされた挙句に今なお独身のままだという女性と遭遇。彼女が結婚しなかった理由とは……?
40歳過ぎても結婚できない、その理由
紺色のジャケットとヒザが見えない長さのタイトスカート。清潔感のあるブラウス。5cmヒールのパンプス。
「就職活動の時以来、こんな格好をしたことはありませんでしたよ」、そう言って寂しい笑いを見せたのは星野美也さん(仮名)。
彼女が思い出したのは、とある早春の日こと。付き合って4年になる同じ年(当時28歳)の彼から「そろそろ結婚したいと思ってるんだけど、ウチの親に挨拶にきてくれたらうれしいな」、そう言われてから2週間後。スーツをクリーニングに出し、ブラウスとハンカチに丁寧にアイロンをかけ、かばんや靴を吟味して、ドキドキしながらその日を待っていたという美也さん。当日、彼の家で大歓待を受けたといいます。
「ご両親ともに、すごく明るく気さくないい人たちでホッとしました。ああ、私、この人たちと家族になるんだ。がんばろう。そう思ったのを覚えています」
しかし、その喜びは次の瞬間、叩き壊されました。
「『何してるの?』と、私たちが通されていた客間に彼のお姉さん(以下、彼姉)が入ってきたんですよ。実は彼姉さんとはこれまでに数回お会いしたことがあったので『こんにちは。今日は正式に結婚のご挨拶に伺わせていただいています。どうぞよろしくお願いします』って挨拶をしたんですが……彼姉さんから返ってきたのは、驚くべき言葉でした」
「は? 何言ってるの? 長女である私が結婚してないのに、なんでアンタたちが結婚するの? 順番が違うでしょ! 順番が!! ふざけないでよ!!」
「彼も私も、思わず愕然。助けを求めるようにして彼の両親を見ると、ふたりとも戸惑っているようでしたが『美也さん。わざわざ足を運んでいただいたのに申し訳ないが、これでお引き取り願いたい』と言われて……」
その後も付き合いは続いたけれど……
2日後。彼から連絡があり、その後の報告を受けた美也さん。想像していたとおり「結婚はしばらく待ってほしい」と言われたといいます。
彼姉は幼い頃から祖父母に甘やかされて育ったためか、一度「NO」と言ったら絶対に撤回せず、周囲が諦めるまでその態度を貫くタイプなのだそう。さらに彼姉と同居していた両親も、そして彼も、彼姉のご機嫌をとることが常態化しており「彼姉に逆らうことなどありえない!」という雰囲気を醸し出していたのだとか。
「それでも彼が『俺には美也しかいない。絶対に結婚したい。姉貴ももう32歳だし、付き合っている彼氏もいることだし、わりとすぐに結婚するはず。姉が片付いたら、俺たちも結婚式を挙げよう!』と言ってくれたので、信じて待つことにしたんです。まぁ、待っても2年くらいかなって。その時はあまり深刻に考えてもいませんでした」
しかし、5年経ち、10年経っても彼姉は結婚のケの字もなし。当時付き合っていた人ともいつのまにか別れ、独身をこじらせてしまったといいます。
彼が両親に「姉貴が結婚しないのは自分の勝手だろ。俺は俺なんだから、結婚を許してくれ」と訴えると、そのたびに「もうちょっとだけ待ってやってくれ。今(姉を)刺激するな」と諭されてしまい、美也さんとの結婚は延びに延びてしまいました。
「実は……私から彼に何度も、『お姉さんは、私のことが嫌いなんじゃない? だから結婚に反対しているんじゃない? だったら、私たちは別れたほうがいいんじゃないの?』と言ったんです。そのたびに彼は『俺は絶対に別れたくない! 絶対におまえと結婚するから!』って、泣きながらすがり付いてきて……。私自身も、彼のことを愛しているのでしぶしぶ待つことにしたのですが、まさか……20年も待たされるとは思ってもいませんでした」
長きに渡る同棲の果てに……
48歳になった美也さんは、今でも彼と付き合っています。8年ほど前に半同棲をはじめ、彼と一緒にいる時間は充実しているといいますが、時折、虚しさに襲われるといいます。
「結局、彼姉さんは独身のまま。『いい加減、俺たちを結婚させてくれ!』と彼が頼んでも『うるさい! 私が結婚してからにして!』って、ケンモホロロな状態です。彼女、もう52歳なんですけどね。彼氏いない歴も18年くらいになるようなのですが……ウェディングドレスを着たいんですって。なんかもう、痛くて痛くて。可哀想な人だとは思うのですが、同情する気持ちはゼロです」
結局のところ、結婚まで強引にでもこぎつけられなかった彼がおかしいのでは?と、率直に、美也さんにぶつけてみると、彼女もそのことは十分に承知している様子。
「何度も何度も別れようと思ったんですよ。実際、1年くらい会わないでいた時期もありました。でも、彼以上に一緒にいて楽しくて満足できる相手は他にはいないって、そう思えてしまって……。結局のところ、彼も私もダメな人間だったんだってことですよね。
それと……ウチの両親がすごく考え方が古いタイプで、結婚もしていないのに子どもを産むなんて!って反対されていたので、彼との行為の際は、避妊具を使っていたんです。でも、47歳になったときにたまらなくなって、思わず彼に言ってしまったんです。『私、子どもが欲しかった……』って。そしたら彼は『え? まだ産めるでしょ!?』って……。ああ、この姉にしてこの弟ありってことかと、なんだか笑えてきちゃいました」
2020年。50歳に王手がかかる美也さんですが、彼と別れる気も、家族になる気も、いずれも失くしてしまったといいます。
「今になって思うのですが、もしも彼と結婚して、あの彼姉と家族になっていたとしたら、結局は苦労の連続だったかな? であれば、事実婚でいいのかな、と。結婚の挨拶をするときは、相手の両親だけじゃなくて、家族全員に会うことが本当に大切なのだと思いました。とりあえず、今がラクなのでこのままいくと思いますが、彼姉への憎しみだけは、どうやっても消えません」
愛する人と結婚をして、子どもを授かって……という思い描き続けた幸せを手にすることはできなかった美也さん。それでも、20年にわたって彼の心を掴み続けているわけで、ある意味、女性としては幸せな人生かもしれません。今はただ、その幸せに気付いてくれることを祈るばかりです。