8区を見れば「未来の山の神」がわかる?箱根駅伝、区間ごとの特徴

箱根駅伝は、東京・大手町~箱根間を往復する全10区間217.1kmで行われ、それぞれの区間が20kmを超える距離に設定されていますが、各区間によってコースの特徴が異なり、選手に求められるものも違ってきます。そこで、本稿では筆者が考えた、区間別に「こんな見方をするとおもしろいのでは」というポイントを紹介します。

箱根駅伝が間近に迫ってきました。

箱根駅伝は、東京・大手町~箱根間を往復する全10区間217.1kmで行われ、それぞれの区間が20kmを超える距離に設定されていますが、各区間によってコースの特徴が異なり、選手に求められるものも違ってきます。
 

そこで、本稿では筆者が考えた、区間別に「こんな見方をするとおもしろいのでは」というポイントを紹介します。
 

1区:大手町~鶴見(21.3km)

●レース前から「駆け引き」が多い区間

出だしで絶対に出遅れたくない重要区間である1区。そのため、12月29日に行われる区間エントリーから「駆け引き」が始まります。区間エントリーが発表された時点で、1区にエース級の選手を置いたチームがなければ、スローペースになることが予想されます。そのため各校の指揮官は「1区にエース級を投入せずとも、この重要区間を凌げる」という考えが出てきます。逆にエース級選手が揃うようであれば、これに対応しなければなりません。以上のことから、他校の出方を伺い、当日変更が活発に行われる区間でもあります。
 

●「エース投入」でレースが激しく変わる

そんなレース前からの「駆け引き」もあってか、近年は上位校が僅差で鶴見中継所に駆け込むパターンが続いています。1区は区間下位でも上位から大きく離されなければ良しとする考えも多く、「失敗しない」ことが求められる区間でもあります。しかし、過去には「エース投入」で2位以下と大差がついた例も。第83回箱根駅伝では東海大学がエースの佐藤悠基選手(現・SGH)を1区に起用。序盤から飛ばして区間新記録を樹立し、区間2位に4分01秒差をつけたこともありました(往路2位、総合3位)。
 

2区:鶴見~戸塚(23.1km)

●エースが集う「花の2区」

9区と並ぶ最長区間であり、序盤の流れを決める区間です。各校、もれなくエース、またはエースに準ずる選手が出場する傾向があります。東京五輪マラソン代表の服部勇馬選手(東洋大学OB、現・トヨタ自動車)は第90回(区間3位)、第91回(区間賞)、92回大会(区間賞)で2区を走っています。また、1区で予期せぬ出遅れがあると、2区でエースたちによる「ゴボウ抜き」が見られるかもしれません。
 

●終盤の難所「権太坂」

13km付近から始まる権太坂、そして最終3kmの登り基調のコースは2区の難所。特に最終3kmのポイントで余力が残っていなければ、ペースダウンが如実に表れてしまいます。序盤をハイペースで攻め、終盤の登りを凌ぐ走りができるのも、エース級の選手たちだからこそ。区間賞争いにも注目が集まります。
 

3区:戸塚~平塚(21.4km)

●前半下り、その後もフラットなコース

序盤5kmほど下り、その後もほぼ平坦なコースなのが特徴。11.9km浜須賀歩道橋地点を過ぎると、相模湾・富士山が見渡せる、全区間でも屈指のロケーション。しかし第89回大会のように強風が吹くと、特に後半はさえぎるものがないため、自然の影響を受けやすい区間でもあるといえます。コースが平坦、比較的走りやすい区間ということもあり、下級生や初出場の選手を起用しやすい区間でもあります。
 

●下級生の選手も起用が目立つが一方で……

逆に層の厚いチームであれば、ここでエース級の選手を起用し、2区の流れを維持したい、または差を付けたい、と考える指揮官もいるでしょう。第95回大会では森田歩希選手(青山学院大学OB、現・GMOアスリーツ)や阿部弘輝選手(明治大学OB、現・住友電工)が起用され、それぞれ大きく順位を上げました(森田選手8位→1位。阿部選手17位→12位)。
 

4区:平塚~小田原(20.9km)

●距離延長、往路の準エース区間に

第93回大会より、距離が変更になりました(18.5km→20.9km)。平地区間では最短距離の区間になりますが、5区へ繋ぐ重要区間となるため、各校とも、エース、またはエースに準ずる選手を起用する傾向が見られます。コース自体は概ね平坦であり、箱根の山に向かって進むため、気温は比較的あがらないコースとなっています。
 

●実はエースが4区に集まる傾向?

第95回大会では2区に起用か?と言われていた相澤晃選手(東洋大学OB、現・旭化成)を4区に起用し、区間賞を獲得。区間2位に1分43秒の大差をつけ、往路優勝の要因となりました。また帝京大学はかねてより戦術的に4区にエース選手を起用する傾向があり、この区間で大きく順位をあげるケースが見られます。
 

5区:小田原~箱根(20.8km)

●標高874mまで駆け上がる、通称「山登り」

2区と並ぶ花形区間である5区は、3km過ぎから本格的な登りが始まります。数回、下るポイントもありますが、終始登り基調の区間となっています。箱根山中を走るコースのため、気温が著しく下がり、低体温症になり、本来の力を発揮できない選手もいます。
 

●順位変動が激しい

5区は順位変動が激しい区間であり、第95回大会では実に17校で順位変動がありました。テレビだけでなく、ラジオやインターネットを使い、順位の動向をチェックしましょう。予期せぬ順位変動が起こっているかもしれません。また第93回大会より距離が変わりましたが(23.2km→20.8km)、他区間より差がつきやすいことに変わりはなく、各校が適任者選出に比重を置いている区間のひとつでもあります。
 

6区:箱根~小田原(20.8km)

●「山下りから世界へ」

登りが続く5区の裏を走ることになります。基本的にはほぼ下り基調のコースで、ラスト3kmは平坦ですが、ランナーにとっては登っているような感覚になり、この3kmで差が大きく広がることも。過去、この区間からは谷口博美さん、川嶋伸次さん(ともに日本体育大学OB)、川内優輝選手(学習院大学OB、現・あいおいニッセイ同和損保)など、のちに日本代表となって五輪や世界陸上に出場する選手も輩出しています。5区に比べると華やかさは無いかもしれませんが、「箱根から世界へ」という理念に最も近いのは、実は6区なのかもしれません。
 

●「スペシャリスト」がなせる業…

6区は適任者を探すことに苦労する大学も多く、5区と合わせて、「特殊区間」という表現も聞こえるほどです。下級生時に区間上位で走ると、残りの在学期間もそのまま6区という選手が他の区間に比べて多い印象です。前区間記録保持者である小野田勇次選手(青山学院大学OB、現・トヨタ紡織)も4年連続で6区を出走しています。
 

7区:小田原~平塚(21.3km)

●序盤は平坦、後半アップダウン多し

序盤は下り基調の平坦なコースも、後半に細かなアップダウンが続くコースです。気温の上昇にも注意しなければいけません。また7区に限らず復路は往路と違い、集団で走るケースは稀であり、単独走が得意な選手が望ましいと思われます。
 

●時差スタート

復路は往路のタイム差のままスタートします。往路10分以上のタイム差がついた場合は一斉スタートとなり、見た目と実際の順位が違うケースが見受けられます。7区でも見た目と実際の順位が異なることがありますので注意して観戦しましょう。
 

8区:平塚~戸塚(21.4km)

●終盤の難所「遊行寺」

8区は富士山をバックに走るコースもあり、観戦者にとっては全区間でも屈指のロケーションでしょう。コースは中盤の遊行寺から登りが始まり、特に19.4kmの原宿交差点からは傾斜が厳しくなっています。テレビを見ていて、ここでもがいている選手を見たことがある方も多いはずです。
 

●5区への登竜門?

上述の通り、5区ほどではありませんが、終盤に厳しい登り坂が続くため、ここを上手く乗り切った選手は登りの適性があるのでは……という見方もできる区間です。たとえば、第94回大会5区区間賞の青木涼真選手(法政大学OB、現・HONDA)も、第93回大会5区区間賞の大塚祥平選手(駒澤大学OB、現・九電工)も共に8区の経験があります。翌年以降の箱根駅伝の「山登り」を楽しむためにも、8区は要注目の区間です。
 

9区:戸塚~鶴見(23.1km)

●「復路のエース区間」は主将の起用が多い

9区は権太坂を下り、鶴見中継所を目指します。2区と同距離である「復路のエース区間」である9区で優勝争い、シード権争いに決着を着けたいという思惑もあるでしょう。この重要区間には各校の主将が起用されるケースが目立ち、第95回大会では5名が起用されています。9区に有力選手を置けるかどうか、各チームの「選手層の厚さ」が試される区間でもあります。
 

●関東インカレのハーフマラソンの実績者に注目

9区はおおよそ11時すぎにスタートすることから、晴れていれば気温の上昇が予想されます。走力はもちろん暑さに強い選手も求められており、日々の練習などで適正を見極めます。ファンとしてひとつの目安になるのが5月に開催される関東インカレのハーフマラソンです。気温が上がるこの試合で活躍すると、9区のイメージができるのではないでしょうか。実際に第95回大会9区区間2位の湊谷春紀選手(東海大学OB、現・NTT西日本)、区間5位堀合大輔選手(駒澤大学OB、現・ヤクルト)なども関東インカレのハーフマラソンで入賞実績がある選手です。
 

10区:鶴見~大手町(23.0km)

●上級生が多く起用される

最終10区は実は23.0kmの長丁場となっており(全区間で3番目に長い)、総合順位が決まる重要な区間です。前も後ろも見えない位置で走り出す可能性も大いにあるため、単独走でも確実にペースを刻める選手が向いているでしょう。こうしたことから毎年、各校10区にはスタミナと経験を買われて、上級生、特に4年生の起用が目立ちます。
 

●ラストスパート

上述の通り、総合順位が決まる10区ですが、第87回大会(8位日本体育大学、9位青山学院大学、10位國學院大學、11位城西大学)、第89回大会(4位帝京大学、5位早稲田大学)のように数秒の差で順位を争う場面も見られました。200km以上襷を繋いで、最終10区にどんな結末が待っているのでしょうか。

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