あの人、更年期じゃない…?「子宮」と女性の人格を結び付ける人たち

「あの人、更年期なんじゃない?」……多くの女性がギクッとするフレーズです。多くの人に訪れる生理現象だし、「更年期だからイライラするんだよね」と口にすることで、症状が軽くなることはなくとも気が紛れたりもするのに、それを言いたくないこの心境。

あの人、更年期なんじゃない?

「あの人、コーネンキなんじゃない?」……多くの女性がギクッとするフレーズです。
 

私ごとですがこの秋、擬似的に閉経を体験しました。不正出血が続き、病院で診てもらったところ、小さな子宮筋腫があるとわかりました。薬で女性ホルモンの分泌を止め“偽閉経”の状態にして筋腫を小さくするという治療を選択しました。閉経を前に急激にホルモンの分泌量が減る時期を、更年期といいます。というわけで、ひと足早く更年期も経験することになったのです。
 

噂どおり? “不調のデパート”更年期

更年期というと、ホットフラッシュをはじめ“不調のデパート”のようにいわれますが、なにも起きないままその時期を終える人も少なくありません。どうか私もそっちでありますようにと祈ったものの、まんまと不調が出ました。
 

体温の調節がうまくいかず、大量の寝汗をかいて目覚めたり、周囲が半袖なのにひとりで寒さに震えたりする日々。しんどいながら「これが噂に聞いていた、あの!」と奇妙な感動もありました。突発的にこれまで経験したことがないほどのイライラに見舞われたりもして、終始振り回されっぱなしでした。
 

そんな時、「あの人、コーネンキなんじゃない?」と言われたくないと思ったのです。
 

考えてみたらおかしな話です。多くの人に訪れる生理現象だし、「更年期だからイライラするんだよね」と口にすることで、症状が軽くなることはなくとも気が紛れたりもするのに、それを言いたくないこの心境。共感してくれる女性も少なくないのではないでしょうか。
 

その背景には、これまで女性の生理現象と人格を結び付けることが当たり前のように行われてきた、という事象があると考えます。
 

生理現象と人格を結び付ける目的

2018年のお笑いショーレースで、厳しい評を下した女性タレントに対して、男性タレントが「右のおばはん、更年期障害かと思いますよね」と腐したのは記憶に新しい炎上案件です。
 

女性の発言を「体調に振り回されてそう言っているだけ」「だから取るに足らないもの」と無効化するには、女性特有の生理現象のせいにするのが手っ取り早いのでしょう。その女性は60代でした。「更年期というのは40代半ば~50代前半にかけてを指していてね」と説明するのも野暮です。そういうことをする男性は、単に女性の発言を貶めたいだけなのですから。
 

「コーネンキじゃないの?」は、女性から女性に対して使われることもあります。日本ではエイジズム(年齢差別)がまだまだ当たり前のように根付いています。若い女性が自分より年上の女性にこう言うのを聞いた時は、大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)で石田ゆり子演じる百合ちゃんのセリフを送りたいと思います。


「自分がバカにしていたものに自分がなる。それってつらいんじゃないかな?(中略)自分に呪いをかけないで」
 

女性のヒステリーは「子宮のせい」

とはいえ女性たちは更年期になるのを待つまでもなく、さんざんこうした貶めを経験しています。イライラした様子を見せれば「生理なんじゃない?」というセクハラに遭うのは、定番中の定番です。
 

これは何も現代の日本だけに限った現象ではありません。かつてヨーロッパでは、女性が不平不満を述べたりヒステリーを起こしたりすると「子宮のせいだ」とされましたし、子宮を慰撫するためにバイブレーターが発明されたというのは有名な話です。詳しく知りたい方は、実話を基にした映画『ヒステリア』をご覧ください。
 

生理でも更年期でもなく、本当に仕事や人間関係において腹立たしいことがあってそれを表現しているのに「女性がイライラするのは、それに決まっている」と決めつけられ、耳を貸さない理由とされる。そんなことが重なれば、本当にホルモンの影響でイライラしているのだとしても、口にするのがはばかられるのは当然です。
 

「腟のあたたかさ」で女性の何が変わるのか?

こうした現象が廃れれば、もっと気軽に「更年期障害のせいで、ささいなことでイライラしちゃって」「いま生理の影響でイライラしがちだからよろしく」と言えるようになるのでは。しかし時代は逆行しているのか、新手のパターンが出てきています。
 

ここ数年、生殖器の状態を女性の人格と結びつける人たちが、積極的に発信をはじめているのです。たとえば先日、ある産婦人科医によるツイートが話題になりました。“腟のあたたかさ”が女性のなんらかの能力(ツイートでは“女子力”と表現)を左右すると受け取れる内容です。
 

ほかにも2017年に発売されてヒットした『ちつのトリセツ』(原田純著、径書房)を監修した助産師たつのゆりこ氏はとある講演で「女性上司がイライラしていたら、きっと性器が乾いているのね、って思えばいいのよ」と発言していましたし、『潤うからだ』(ワニブックス)などの著書がある植物療法士の森田敦子氏も「腟と脳はつながっているので、腟が満たされれば心も満たされる」という持論を展開しています。著書の目次を見ると「切ない思い出は腟が覚えている」とも……。
 

男性がイライラしているのを見て「あの人、尿道が冷えてるのよ」「EDなんじゃない?」と言う人はいません。女性の生理現象、生殖器の状態にイライラの原因を集約するのは、もうそろそろ終わりにしませんか?

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