男は“文化”で“甲斐性”だけど…「母親の不倫」に全世界が厳しい理由

紀元前15世紀まで遡るとされるギリシャ神話にも登場し、現代にいたるまで嫌悪され続けてきた「母親の不倫」。これは世界的な風潮で、日本でもなぜかいまだに、「母親が不倫するなんて!」という、意味不明な文化が蔓延しています。その歴史は紀元前に遡り、ギリシャ時代にも壮絶すぎる不倫劇が……。

紀元前15世紀まで遡るとされるギリシャ神話にも登場し、現代にいたるまで嫌悪され続けてきた「母親の不倫」。これは世界的な風潮で、日本でもなぜかいまだに、「母親が不倫するなんて!」という、意味不明な文化が蔓延しています。

ギリシャ時代の壮絶すぎる不倫劇

トロイア戦争の時代に遡ります。ミュケナイ王アガメムノンは10年間もの長きに渡って城を留守にしました。ふたりの子持ちとはいえ、女盛りの時期に夫に放っておかれた妻クリュタイメストラにしてみれば、戦争という事情はあれ「私の性欲はどこで発散すればいいのよ!?」ってなものだったでしょう。
 

ついにアイギストスという男と愛人関係を結び、アガメムノン王が帰国するや否や、愛人と共謀して王を暗殺。その後、妻と愛人は、揃ってミュケナイの支配者となりました。
 

夫殺しは、もちろん極悪非道なこと。しかしなんとも自業自得なのですが、アガメムノンはさらにひどいことを妻にしていたのです。
 

・本当は自分の従兄弟の恋人だったクリュタイメストラを奪うため、従兄弟を殺して略奪

・遠征中、他の女性に手を出しまくり、太陽神アポロンから激怒される

・最終的に攻め落としたトロイア王家の女王カッサンドラを愛妾として連れ帰る
 

しかし、母の所業を黙って見ていられなかったのが娘のエレクトラです。実の母親であるにもかかわらず、「不倫したバカ母なんていらない!! 絶対死ぬべき!!」とばかりに奮起し、弟のオレステスをけしかけます。ついには姉弟が力を合わせ、父親の仇討を実行してしまうのです(ただしエレクトラは自らの手を汚すことなく弟オレステスに押し付け、実行犯の弟がのちに病んでしまうという壮絶なオマケつき)。
 

ちなみに心理学者のユングが提唱した「エレクトラ・コンプレックス」という言葉は、この神話になぞらえたもので、娘が母親に対して異常なまでに「対抗意識」を抱き、母親に対して憎しみや敵意を抱いている状態を指すようになりました。
 

現代的に考えれば、別の男から略奪するほど「愛している」と言ってくれた夫が、10年間も家を留守にして妻を放置するなぞ言語道断。慰謝料をガッポリもらって離婚!レベルなわけですが、なぜかエレクトラや弟は「不倫(と、その果てにある父親殺し)」に対して猛烈に反発してしまったのです。
 

母親の不倫は、時として惨殺の対象に……?

エレクトラの例に似て、男の不倫は「甲斐性」や「文化」などと意味不明に正当化されることが多いのに、女性の不倫は責められることが多いもの。これは、世界的に見ても多い現象といえるでしょう。
 

1970年代のポーランドを舞台とした映画『メモリーズ・オブ・サマー』(2019年6月公開)では、12歳の少年が母親の不倫を知り、心の痛みとともに成長する姿が描かれています。残念なことに、こうした肯定的なとらえ方をする国はごくわずかで、パキスタンでは2016年の9月に3人の子どもを持つ母親とその不倫相手が首を吊り下げて殺され、その犯行は“名誉殺人”として市民から支持を集めるという異常な事態が起こっています。
 

もしも不倫したのが父親だったら……?
 

答えは簡単ですよね。母親が「いらないもの」として母親の座も妻の座も奪われ、放逐されるにすぎないのですから。
 

「母親」という肩書は、女性を蔑視するものでもある

こうした「母親の不倫は絶対NG!」という感覚は、なぜ生まれたのでしょうか。残念ながらその起源は先に述べたエレクトラの例のように紀元前にまで遡るため知ることはできませんが、なぜか人は、母親にはいつまでも母親としての役割を求めたがる傾向にあります。
 

本来は、「妻」であり「母親」であり「人」であるはずの女性。様々な面を持つことは「正しい」ことなのに、男性社会は「母親」であることを押し付けようと躍起になるのです。
 

大前提として、男女を問わず不倫はよくないことです。たとえ相手が独身であったとしても、結婚という法律上の制約がある以上は、きちんと伴侶と別れてから、相手を見つけるべきでしょう。でもなぜ、同じことをしているのに女性だけが責められるのでしょうか。筆者は「母親」という呼称に、女性を蔑視する意味が込められているためだと推測しています。
 

子どもを産んだため「肉体」として機能しなくなった女。

家事をすることを押し付ける「召使」となった女。

性的欲求を果たす存在としては必要ないけれど、自分が生きていく上で必要な存在ではある女。
 

そこで「母性」を理由に「母親」というレッテルを張り付け、自身の囲いの中に収めてしまう夫が多いのが世界の現状なのです。こうした父親の所業を見て、子どもたちが歪んで育つのは当たり前のこと。母親が「愛」だの「恋」だのと言うだけで「いい年してみっともない」とか「いつまでも女気どりで気持ち悪い」とか「母親のクセに」という反応になってしまうのもうなずけるというわけなのです。
 

もちろん今後は、女性の不倫と男性の不倫を区別も差別もすることなく、ある程度容認していく、そういう風潮が主流になっていくことでしょう。むろん、男性と同様の立場を得るためには、今まで以上に女性が強くなる必要があります。子どもを産んでも、絶対に職は手放さないこと。夫や家族に正しく向き合うこと。そして、自分自身を大切にすること。そして、同じ女性たちに対し、偏見を持たないこと……。
 

女として生まれたからには、死ぬまで女でいたいですからね!

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