9月15日、東京五輪マラソン代表選考レースである、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)が行われました。
 

MGCのコースは来年の東京五輪本番とほぼ同じ、加えて従来の五輪代表選考とは異なる一発選考ということもあり、レースには注目が集まってました。
 

2020年東京五輪への出場が内定した(左から)鈴木亜由子選手、前田穂南選手、中村匠吾選手、服部勇馬選手(編集部撮影)

MGCの男子1位は中村匠吾選手(富士通)、2位は服部勇馬選手(トヨタ自動車)、女子1位は前田穂南選手(天満屋)、2位は鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)で、この4名の選手が来年に行われる東京五輪マラソン代表に内定しました。
 

なお、男子3位は大迫傑選手(Nike)、女子3位は小原怜選手(天満屋)で、この両選手にも東京五輪の可能性が残っています。「MGCファイナルチャレンジ」(12月から始まる男女各3レース)で派遣設定記録(男子2時間5分49秒、女子2時間22分22秒)を突破した最速の選手が選ばれます。記録突破者がいない場合はMGC3位の選手が東京五輪代表へ内定となります。男子の派遣設定記録は日本記録を上回るタイムのため、3位の大迫選手が選ばれる可能性も高いのではないかと思います。
 

なお、MGCの成績は以下の通りです。

男子

  • 優勝:中村匠吾選手(富士通)……2時間11分28秒(東京五輪内定)
  • 2位:服部勇馬選手(トヨタ自動車)2時間11分36秒(東京五輪内定)
  • 3位:大迫傑選手(Nike)2時間11分41秒

女子

  • 優勝:前田穂南選手(天満屋)2時間25分15秒(東京五輪内定)
  • 2位:鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)2時間29分02秒(東京五輪内定)
  • 3位  小原怜選手(天満屋)2時間29分06秒

 

最初から最後まで手に汗握る展開!男子のレースを振り返る

ここからは熱戦のレースを振り返ります。
 

一斉にスタートした男子選手30人(©日本陸上競技連盟)

男子は8時51分、明治神宮外苑いちょう並木をスタート。スタートと同時に設楽悠太選手(Honda)が飛び出し、5km地点で早くも後続に1分差をつけ、プレスルームからもどよめきが起こるほどでした。
 

明治神宮外苑いちょう並木の直線を曲がる直前の様子。このときすでに、設楽悠太選手が飛び出そうとしている(編集部撮影)

以降も10km地点(後続と1分44秒差)、15km地点(2分13秒差)と差を広げていきました。
 

独走状態で21kmの銀座に現れた設楽悠太選手(編集部撮影)

序盤で思いのほか差がついてしまったことから、追う集団も山本憲二選手(マツダ)、神野大地選手(セルソース)などが代わる代わる集団を動かし、何度もふるい落とし・ペースアップが行われ、ハーフ通過地点では大迫傑選手(Nike)、服部勇馬選手(トヨタ自動車)、中村匠吾選手、鈴木健吾選手(ともに富士通)などに絞られました。
 

2分ほどして銀座に現れた服部勇馬選手、大迫傑選手、中村匠吾選手、鈴木健吾選手。この4人を中心に、人を入れ替えながら2位集団で終盤まで推移する(編集部撮影)

その後、徐々に設楽選手との差が縮まります。追いかける集団は9名となり、前の設楽選手を追い、そして37km過ぎに設楽選手を捕らえました。
 

更に集団が動きます。39km過ぎに中村選手がペースアップ。集団がばらけます。中村選手はこのときの心境を「40km付近で仕掛けるのがベストかな」と思っていたそうです。
 

後続を振り切り、五輪内定となるMGC1位でゴールする中村匠吾選手(©日本陸上競技連盟)

一時は大迫選手が中村選手に追いつきましたが、中村選手が2回目のペースアップで突き放します。この走りを見て、第91回箱根駅伝1区で見せた複数回スパートを思い浮かべたファンも多いのではないでしょうか。このまま中村選手が大迫選手を振り払い、1位でゴールテープを切りました。
 

また、3番手にいた服部選手は大迫選手を42km手前でかわし2位でゴール。服部選手は中村選手とは対称的に1度のスパートで勝負しました。このことについてはトヨタ自動車の佐藤監督に「何回もスパートしたら、もたない。どこかで行くときは一発ドカンといく」と事前に話していたそうです。
 

フィニッシュ地点に向かう服部勇馬選手。その後ろに、がむしゃらに走る大迫傑選手(編集部撮影)

注目されていた日本記録保持者である大迫選手も、これまで見たことがないほど身体を動かして、がむしゃらに服部選手をかわそうとしましたが、惜しくも5秒遅れの3位でフィニッシュ。レース後には「2位までには入りたがったが、3位は最低限の最低限」「2人が強かった」と話していました。

こうしてマラソン日本代表は決まった!女子の熱戦を振り返る

男子から遅れること20分後、明治神宮外苑いちょう並木を出発する女子選手10人(©日本陸上競技連盟)

女子は男子が出発した20分後、9時10分に一斉にスタートしました。
 

女子も男子同様、スタートから飛び出す選手がいました。最年少の一山麻緒選手(ワコール)。一山選手の序盤はまるで冬のマラソンで走るようなハイペースで推移していきました。最初からふるい落としをかけ、サバイバルレースのような展開でした。
 

スタート直後、最年少の一山麻緒選手(ワコール)が飛び出す(編集部撮影)

17km地点で前田穂南選手(天満屋)がペースアップ。
 

21km地点の銀座に最初に現れた前田穂南選手(編集部撮影)

鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)、小原怜選手(天満屋)などが食らいつき、20km手前には前田選手・鈴木選手に絞られますが、以降は前田選手が独走状態になります。このターニングポイントについて前田選手は「ペースをあげたつもりはないが、気づいたら誰もいなかった」と記者会見で話していました。
 

前田選手を追う鈴木亜由子選手。その後ろには小原怜選手の姿が(編集部撮影)

後半は単独走で押し切り、2位の鈴木選手に3分以上の差をつけ、優勝しました。この圧巻の走りには敵将でもある日本郵政グループ・高橋昌彦監督も「前田選手は素晴らしかった。今日は何回やっても(鈴木選手は)勝てなかったと思う」とコメントをしています。

2位の鈴木選手に3分以上の差をつけ、優勝した前田穂南選手(©日本陸上競技連盟)

2位争いは鈴木選手の逃げ切りが濃厚と思われましたが、暑さと疲労の影響でペースダウン。その後を小原選手が必死に追い上げましたが、鈴木選手が4秒差で逃げ切りました。鈴木選手はこの展開について「後半は苦しく、課題も残った。マラソンの怖さも知った」と話していました。この課題を来年の東京五輪に生かしていってほしいものです。
 

MGCの選考システムを導入して生まれた好影響

かつての五輪代表選考は直近の世界選手権の実績、指定選考レースでの成績などによって選考されてきました。このような選考方法に対して、不透明な選考過程という意見や、早期内定による弊害なども指摘されていました。今回のMGCは、わかりやすい「一発勝負」の五輪選考でもあり、日本陸上競技連盟にとっても初めての試みでした。
 

レース後の記者会見で笑みをこぼす尾縣貢専務理事(中央)(編集部撮影)

このMGCについて尾縣貢専務理事は「大成功だと思っている。最終的な評価は本番が終わってからだけど、すっきりした点は評価できる」。沿道の観戦者数も52万5000人との発表もあり、また沿道の観客が途切れることがなかったという話もあり、初開催ながら大いに盛り上がったといえるのではないでしょうか。
 

なお、次回以降の世界陸上・五輪の選考がMGCを踏襲するのか、以前の選考方法に戻すのかについては「(東京五輪前だから開催可能だったため)まったく同じことはできないが、この(MGCの)要素を生かすのも我々の課題」とのことでした。
 

MGCの狙いとして、世界で戦える選手の強化という部分もありました。MGCの選考システムが発表されてから、男子マラソンでは日本記録が2度更新されるなど、新たなタレントや若手のマラソン挑戦が増えてきました。また大会当日も高レベルなレースが展開されており、これらについても一定の評価ができると思います。
 

MGCが終わりましたが、まだ残す代表3枠目を決めるMGCファイナルがあります。指定大会で標準記録を更新となれば、五輪代表への道が開けるため、MGCで3位以下の選手、MGCに出場しなかった選手にもまだまだ注目です。また、なによりも東京五輪でどれだけ戦えるか、これからが大事ともいえます。