昨夏のW杯で日本代表をベスト16へ導いた実績が決め手に
サッカーのタイ代表監督に、日本代表前監督の西野朗氏(64)が就任した。7月19日にタイサッカー協会と契約を結んだ。
タイ代表は6月上旬のキングスカップまで、タイ人のシリサク・ヨディヤタイ監督代行に率いられていた。しかし、自国開催の伝統ある大会で、タイはベトナムとインドに0対1で敗れてしまう。4カ国のトーナメントで最下位に終わった成績不振の責任を取り、シリサク監督代行は辞任する。その後任として、西野監督が招へいされたのだった。
タイサッカー協会は昨年夏にも、日本人指導者を招こうとした。ロシアW杯で日本代表コーチを務めた手倉森誠氏(現V・ファーレン長崎監督)に、五輪代表監督就任のオファーを出している。2016年のリオ五輪アジア最終予選で、手倉森監督が率いる日本はタイなどを破り、見事に優勝を飾った。その手腕を評価してのオファーだった。様々な事情から契約には至らなかったものの、タイが日本の指導者を高く評価していることの裏付けとなるトピックだった。
西野監督は2018年のロシアW杯で、日本をベスト16へ導いた。アジア勢で唯一の決勝トーナメント進出が、今回のオファーにつながった。1996年に日本を28年ぶりの五輪出場へ導いたことや、Jリーグで歴代最多の勝利数をあげていることも、タイサッカー協会が西野監督に信頼を寄せることにつながっている。
W杯予選で日本と対戦する可能性も
日本とタイのサッカーに親和性があることも、西野監督の監督就任を後押しした。タイ代表のDFティーラトン(横浜F・マリノス)、MFティティパン(大分トリニータ)、チャナティップ(北海道コンサドーレ札幌)らが、Jリーグでプレーしている。FWティーラシンも18年はサンフレッチェ広島に在籍していた。
ショートパスをテンポ良くつなぐタイのサッカーは、日本代表に似ている。俊敏で技術の高い選手が多いことも共通点だ。西野監督も「日本人同様に技術の高い選手が揃っている」と話しており、Jリーグのガンバ大阪や日本代表を率いてきたこれまでの経験を生かせることを示唆している。
チームの実力は、アジアのセカンドグループといったところだ。18年ロシアW杯予選では最終予選進出の12カ国に名を連ねたものの、日本やオーストラリアと同グループで2分8敗の最下位に沈んだ。
19年初頭のアジアカップでは、ベスト16で中国に競り負けた。世界の舞台へ立つには、まだ力が足りないのが現状である。
22年のカタールW杯アジア予選では、アラブ首長国連邦(UAE)、ベトナム、マレーシア、インドネシアと同グループに入った。最終予選に進出できるのはグループ首位と2位チームの成績上位4カ国で、UAE、タイ、ベトナムの争いになると見られている。
伸び盛りの選手が多いタイのサッカー
タイ代表での西野監督は、東京五輪出場を目ざすU-23(23歳以下)代表監督も兼ねる。こちらは来年1月に、アジア最終予選がタイで開催される。
アジアの出場枠は3つだが、96年から6大会連続で出場している日本は、開催国枠ですでに出場が決まっている。アジア各国にとってはチャンス拡大だ。自国で戦えるタイへの期待は、これからさらに高まっていくだろう。
ロシアW杯後のフリーの期間も、西野監督は解説などの仕事には控え目だった。あくまでも現場で指導をしたいとの希望を持っていた。伸び盛りの選手が多いタイのサッカーは、西野監督のチャレンジ精神を刺激するのにふさわしかったのだろう。
代表スタッフには日本人を起用せず、タイ人スタッフとともに戦う。西野監督は「まずは(W杯2次予選初戦の)ベトナム戦に勝利したい」と意気込みを語る。最終予選での日本代表との戦いが実現するか、64歳の指揮官の新たなチャレンジに注目だ。