浮気が離婚への決意を後押ししてくれた
人間というものは、ときに「どうにもならない思い」を抱えることがある。そんなとき、誰かにすがりたくなったり、あるいは心に空いた穴を埋めるために人肌を求めたりしてしまうこともある。それが次へのジャンプアップにつながったと晴れやかに語る女性がいる。
愛情ではないけれど
離婚して3年たつノリカさん(45歳)は、「今は子どもふたりと実母と、穏やかに暮らしています」と笑みを浮かべた。
彼女が結婚したのは28歳のとき、相手は友人の結婚式で知り合った2歳年上の男性だった。
「一流企業に勤めていたしリーダーシップがある。彼の言うことに従っていれば私は安心。そんな思いがありました」
ところがそれは結婚すると、「妻を従わせる強権な夫」となった。彼に言われて仕事を辞め、専業主婦となった彼女に、「明日はうちの両親が病院に行くから送り迎えをしてやってほしい」「明後日は母親の買い物につきあってやって」と次々と用事を言いつける。
「私だって、いろいろやりたいことはあったんです。料理教室に通いたかったし、学生時代にやっていたテニスもまた始めたいと思っていた。でも彼は聞く耳をもたない。『オレの言うとおりに暮らしていればノリカは幸せなんだよ』って。言うとおりにすれば『きみは最高の妻だよ』と、ほしかったバッグを買ってくれたりするんです。でもそれが続くと、私はご褒美をほしがって芸をする犬みたいだと思うようになって……」
疑問を感じながらも、その後、ふたりの子を出産。夫は当然のように育児はしない。帰ってくると「今日、何をしていたの?」と掃除が行き届いていないことを指摘する。ノリカさんはだんだんとストレスがたまるようになっていった。
ふと誰かにすがりたくなって
下の子が小学校に上がったころから、彼女は少しずつ仕事をするようになった。パートではあったが、夫に気兼ねなく使えるお金があることが心強かった。
「私が完璧に家事をこなして従順である限り、夫は特に文句は言いません。でもなんだか私の存在意義ってなんだろうと思って。久しぶりにパートで仕事をしたら楽しかったんですよ。外の世界ってもっと自由なんだなって」
経済的安定を約束されてはいるが、“誰かの言いなりの人生”を歩むことに疲れを感じ始めていたのだろう。
「夫は別に私を好きなわけではなくて、いい妻がほしかっただけ。そう思うとなんだか虚しくて。そんなとき中学校時代の男友だちとSNSでつながったんです。卒業して20数年ぶりに会いました」
昼間しか会えなかったが、3度目に会ったとき彼は少しドライブをして車をラブホに入れた。
「いつかそんなことになると思っていた。私が望んでいたのかもしれません。恋愛感情ではなかったけど彼のことが好きだったし、何より温かい人肌に触れたかった」
彼は離婚したばかり。お互いに虚しさを埋めるようなセックスだった。快感を求めたわけではなく、ひたすらぬくもりを求めるような時間だった。
「でもそのことで、私はもう一度自分の足で立とうと思えたんです。彼との関係は一度だけ。また友だちに戻りました。でもそれからはパート時間をどんどん増やして、正社員になれた4年前、夫に離婚届をつきつけました」
夫の数々のモラハラ、性交渉を拒絶されたこと、浮気疑惑。すべてを彼女はメモし、モラハラは録音していた。1年かけて離婚が成立。母親がひとり暮らししていた実家に戻って人生をやり直している。
「離婚前はどこかおどおどしていた子どもたちもやっと落ち着いて明るくなりました。上はもう高校生なので私の気持ちも理解してくれています」
忙しい上に、経済的にも結婚している当時より苦しくなった。だが、彼女の気持ちは明るい。
「誰にも遠慮せずに言葉を発したり行動したりできる。大人が大人を支配したり管理したりするような夫婦関係はおかしいんだとようやく思えるようになりました」