専業主婦には専業主婦の負い目がある⁉
立場が違ってもお互いを尊重する。それが人の社会を円滑にする方法であり、人としての大事な点だと思うが、現実社会ではそうはいかないものだ。専業主婦は今やマイナーな立場となっている。
「専業主婦なんだから」の恐怖
「子どもが幼稚園の時代から、何かというと保護者会の役員をやらされてきました。私自身は、あまりコミュニケーション力がないし、家の中にいるほうが好きなんですが、どうしても引っ張り出されてしまう。『専業主婦なんだから時間があるでしょ』という周囲の言葉と圧力で、断ることができませんでした」
エリコさん(45歳)はうっすらと涙目になりながらそう言う。27歳のとき5歳年上の男性と親戚の紹介で結婚した。大学卒業後は、父親の知り合いの会社に勤めたが「仕事は向いていない」と悟ったのだという。
「いろんなことをいっぺんに考えたり処理したりする能力が低いんです。でも家事や料理はやっていて楽しい。手芸も好きです。だから夫が働かなくてもいいと言ってくれたときは、本当にうれしかった」
人には誰でも向き不向きがある。自分に向いた道を手に入れたエリコさんは、29歳、32歳で出産、子育ても楽しんできたと語る。
「それなりに大変ではあったと思うんですが、自分がのんびりしているのでイライラすることはあまりありませんでした。決して経済的に裕福なわけではなかったけど、節約すればなんとか暮らせたし、安い食材を見つけて作り置きしたり簡単な料理ですませたりすることもあった。
平日は夫がほとんど家で食事をしなかったので、育児を手伝ってもらえない分、夫の食事の支度もしなくてすむ。子どもたちが小さいときは上がぐずる、下が泣くでどうにもならない日々でしたけど、それでも5年後もこの状態が続いているわけではないと思っていました」
話し方もわりとゆっくりしている。どうやら彼女は独特の「世界観」をもっていそうだ。それだけに、保護者同士という現実の世界にはなかなかなじめなかった。
失敗ばかりしていたけれど
「専業主婦だから時間あるでしょ」
この言葉を拒絶できず、ずっとPTA役員などをしてきた彼女、今も下の子の中学で役員をしている。
「専業主婦であることを負い目に感じた時期もありました。でもあるときから、正直に言おうと考え、時間はあるけど能力はありません。それでもよければやりますけど、とずっと言ってきました。実際、『本当に使えないわね』と暴言を浴びせられたこともあります。
私は人の悪意をそのまま受け止めたり怒ったりすることができず、じっと相手を見てしまうクセがあるんですよ(笑)。それで逆に妙に腹が据わっていると思われることもあるみたい」
話しているうちに、彼女は彼女なりに「生きる術」をうまく身につけてきたのかもしれないと思えてくる。向かない役員を押しつけたのはそちらでしょ、と言わんばかりの態度にとられてもかまわないと覚悟を決めているところもある。基本的に周りの評価は気にしない、気に病んでもしかたがないと思っていると彼女は言う。
「昔から学校でいじめられたりしてきたから、グループでの活動が苦手で、群れないんですよね。今の役員の中には、そこがいいわ、と言ってくれる人も出てきてびっくりしています。自分がコンプレックスだと思っていることが他人には長所に見えることもあるんだな、と」
基本的に人の考え方を無理やり変えることはできない。専業主婦という立場を周りがどう思おうが、「私は私」と開き直っていくしかないのだ。
「ラクでいいわねと言う人もいますよ。そんなときは『おかげさまで』と笑って知らん顔しておく。そこでムカついても自分が苦しくなるだけですから」
ふわっと弱そうに見えるが、中身はいい意味でしたたかなのである。彼女を見て、「柳に雪折れなし」という言葉を思い出した。