気持ちが少し晴れた夫のひと言
結婚して長く一緒にいると、なかなか相手の心の奥底に届く言葉を伝えられなくなるものかもしれない。「このままでいいのか」ともやもやしていた矢先、夫に言われたひと言で何かが吹っ切れたと話してくれた女性がいる。
慌ただしいだけの日常生活
結婚して16年目、ふたりの子どもにも恵まれて仕事も続けている。
「何もかも手に入れた。幸せだったはずなのに、気づいたら日常生活に翻弄されている日々。私が望んでいたのは本当にこの生活なのだろうかと、ずっともやもやしていたんです」
アカリさん(46歳)はそう言う。傍から見れば絵に描いたような幸福な人生かもしれないが、共働きといっても経済的に余裕があるわけではない。子どもたちにもっとしてやりたいこともあるのに、なかなかできない。毎日、子どもたちに怒鳴ってばかりいる自分にも嫌気がさす。なにより夫婦らしいしっとりした時間を夫と過ごすこともない。
現実はみな同じだろうと思いながらも、バツイチで子どものいない独身や、夫の稼ぎがよくて余裕のある生活をしている女友だちを羨ましく感じてしまうことは誰もがあるだろう。
「いつも自分だけが大変な思いをしているという気持ちもありました。夫が接待だ出張だというと、あなたはいいわね、私だけ割りを食っている気がすると言ったこともあります。完全に五分五分で家庭を運営していくのは無理だとわかっていても、どうしても私の負担が大きい、不公平だと思っちゃうんですよね」
仕事でステップアップするためのセミナーにも行きたかったが、夜遅くなる日が増えるためあきらめた。何かをあきらめなければいけないのはつらい。
結婚15年の日に夫が言った……
自分だけがハムスターのように空回りをしている。そんなふうに思っていたとき、結婚15年を迎えた。
「たまたま夫の弟夫婦が東京に遊びに来ていて、うちで子どもたちを見ているからふたりで食事にでも行ってくればと言ってくれたんです。悪いからと断ったんですが、どうしても行ってこいと言われて甘えました。すると夫はちゃんとレストランを予約していてくれて。どうやらもともと義弟夫婦に頼んでいたみたいですね」
たまには粋なことをするものだとアカリさんはちょっと夫を見直した。すると食事の席で珍しくワインに酔った夫が、しみじみとこう言った。
「オレ、結婚してからアカリに何かしてやれたかなあ。このところずっとそう思っていたんだ」
意外な夫の言葉に、アカリさんの心が疼いた。ふたりがかなりの大恋愛だったこと。この人さえいればいいと思った過去のあの日を思い出す。
「夫がそんなことを考えていたなんて。なんだか感激して涙ぐんじゃって、何も答えられませんでした。帰り道、ふたりで手をつないで歩きながら、ありがとうとつぶやきました」
男が愛する女のために「何かしてやれたかなあ」と考える。昭和チックだ、古くさいといえばそうだが、心からの夫の言葉を聞いたら、女性はやはりうれしくなるものではないだろうか。
「現実は相変わらず多忙なうちに過ぎていきますけど、夫のあの言葉で私ももうしばらくがんばれそうな気がしています」