国際結婚詐欺などが話題になっているが、詐欺はもっと身近にもある。恋した相手に騙され、密かに貯めていたお金を渡してしまったのはアヤさん(43歳)だ。
本気の恋愛にはまって
職場恋愛で、3歳年上の男性と結婚して14年。結婚5年でやっとひとり息子にめぐまれた。
「子どもがあまりにかわいいので、仕事をするのがイヤになってしまったんですよね。べったりしすぎていては子どもの自立心が育たないと両親や幼稚園の先生からも言われ、小学校に入ったときに契約で働き始めました」
過保護になりすぎないようにしようと自戒していたという。そんなとき町で偶然、ある男性と出会った。
「話しかけられたんですよ。『〇〇小学校にいたアヤちゃんじゃないですか?』って。確かに私、その小学校に通っていたことがあるんですが、父が転勤族だったので小学校を4回も変わっている。その学校にいたのはいちばん短くて1年くらいだったんですよね」
だからアヤさんのほうに記憶はなかった。だが、「アキオ」と名乗るその男性の語り口がソフトでおもしろかったため、ついそのままお茶を飲みにカフェへ。
「久しぶりに男性とふたりでカフェに行ったこともあり、私もついはしゃいでしまいました。でも彼との時間はとても楽しかった」
同じ小学校で学んだ人間ということで根拠はないが安心感と信頼感があった。
「40歳を過ぎて、自分を女として意識することもなくなっていたんですよね。化粧もファッションも新しいものを取り入れる気も余裕もなかった。でも彼と会ったことでちょっと気持ちに変化が出ました」
新しい口紅を買い、ひらりと揺れるスカートを買った。女性はそれだけで気持ちがリフレッシュされることもある。アヤさんは自分の中に恋愛感情が目覚めていくのを感じていた。
信じすぎたのか、自分が愚かなのか
彼とはときどき会うようになった。小さいながらも会社を経営していてバツイチ、自由な身だから時間の自由が効くと彼は言い、アヤさんから連絡するといつでも飛んできてくれた。
「どんどん彼を好きになって……。2カ月後には男女の関係になっていました。夫とはレスになっていましたから、私、まだ女としてイケルじゃんと思ったりして。自己評価ががらりと変わったんです」
自分に自信がもてると生活が変わっていく。彼女は仕事にも生活にも張りが出たという。
「その2カ月後くらいでしょうか、彼が暗い顔をしていたんです。聞くと『会社の運営が厳しい』と。右腕だと思っていた部下に裏切られて持ち逃げされた、警察にも届けたが、取引先に明日払うお金がないって言うんです。誰にも言えないから言ったけど、気にしないでほしい。今日はもう帰る、と。私が助けてあげるしかないと思いました」
200万円あればなんとかしのげると彼は言った。そしてアヤさんは自身の定期預金を解約した。
「解約するとき、振り込め詐欺などにあっていませんよねと銀行の人に念を押され、そんなことあるわけないです、私が使うんですと断言しました。すぐに彼に渡すと彼は泣いて喜んで。『一生、アヤを大事にするからね』って」
そして彼とはそれきり連絡がとれなくなった。携帯は解除され、聞いていた会社名も検索したがヒットしない。そしてアヤさんが自分でも驚いたのは、彼についての情報をまったく持っていなかったことだった。
「完全に目がくらんでいました。騙されたんだと気づいたのも1週間くらいたってから。警察に行くわけにもいかず、泣き寝入りです」
長年に渡ってこつこつ貯めた200万円はあっけなく失われた。
「悔しいです。子どものために貯めていたのに。自分の愚かさをどんなに後悔しても、もうどうしようもないんですが」
二度と男など信用しない。一生、恋などしないと彼女は固く誓っている。